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ディストピア世界のポツンと団地子育て  作者: ビチンタ


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16/22

15話 ディストピアその5

〈ディストピアその5〉


〜〜〜〜〜〜〜〜〜回想続き〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


西の海岸沿いの街に来たらしい。

この地区もこの地区で中々に栄えていることを知っている。


高速道路を降りたタイミングで運転手を交代したようだ。

喉が渇いた。

さっきからなにも言っていないのに、喉がカラカラだ。


貰い手の女のちっこい方が、キャンピングカーのブラインドを開けた。

おそらく、我を痛めつける場所を探して、確認するために開けたのだ。

「このままよ。最短で順調に来れてるわ。私の作った地図通りにねママ。暗いけど頑張って。」


我は、今は特に何も考えること考えるなかった。

ただ、今までの束の間の幸せを振り返っていた。


そうだ。

忘れていた。

我は人形だったんだ。

そうやって育てられたんだ。


貰い手…というか…買い取り手に、ずっと支配されて生きてきたんだ。

買い取り手の人生を豊かにするためのインテリアだったんだ。

そして、その買い取り手に、今度は精神衛生を良くするためにズタズタに引き裂かれて、それで捨てられる。


なんて無様だったのだろう。

いや!買い取り手の1人を殺したのだ!

人形に恋させてくれた心優しい女性を守ったのだ。


愛の力というものだろうか。

あの時の咄嗟の行動は我の限界を超えていたと思う。

なんとも素晴らしい選択をしたのだろう。

誇らしい。


悪魔は絶対に人を見捨てず、神は人を見捨てる?


いいや。最初から、悪魔も神も人など見ていない。

拾ってもいない。

人は盤面に並べられた駒だ。

神と悪魔はお互いを睨み合っているだけだ。

お前たちは、我を人形として扱ったが、お前たちの方こそ神と悪魔の操る人形なのだ。


目の前の愚かな人形たちを見ていると、喉の渇きと目のかすれを感じながらも、自分よりも更に飢えて乾いているのが分かった。


気がつけば、笑っていたのかも知れない。


「おねぇちゃん?おい!クソアマ!なんだその顔は!ふざけてんのか!」

「テメェ覚悟しろよ!楽しいパーティーになるからよ!」


そう言いながら、目の前の本性をさらけ出した女は夜の街を見渡した。


「………!」

「ママ。今は…もう、とっくに深夜だよねぇ!?」


「さっき車のナビゲーションの電子時計で確認しなかったの?」

「そうよ、深夜よ。」


「あたしがおかしくなっちゃったのかなぁ?!街の至る所から、あたし達に向かって視線を感じるの!」


「バカ言わないでよ。警察も移動し続ける私達を捉えられるはずはないわ。交通規制とかもされてなかったし、あの街でまだ調査してるはずよ!」


「いや…でも、この深夜にさ…」


「何よ…」


「つけられてる。このキャンピングカーをつけてる車がいる!」

「スピード上げて!」


「目的地を過ぎちゃうわよ!」


「いいから!ゼッタイ何か変だって!ママ!」


我をよそに、なんだか焦り始めていた。


(ここまで早く対応するなんて、島の警察は優秀なんだな〜。)

なんて。他人事のような感想が脳内に浮かんできた。


キャンピングカーが停まった。

勢いよく停まったので、我の縛られた足が少しばかり浮き上がった。


「ママ!どうしたの!」


「んん…ん目の前にぃ…トラックがぁ。」


そこは十字路になっていた。

前にはトラックが。横からも列を作った車が入ってきた。

後ろからも、いつの間にか尾行していた車が追いついていた。


「まさか…そんな…」


「バレたの、私達!?」


「こうなったら一か八かよ!この女を人質にしてやるわ!警察なら、私達を簡単に手出し出来ないはずだもの。」


「クソっ!ここまで!ここまでやって来たのに!」


キャンピングカーのテーブルに固定されていた部分のロープだけ解かれた。


外は車のライトが囲むように浴びせられていて、時間に似合わず明るかった。

貰い手の女のちっこい方に喉元にナイフを突きつけられた。


おっきい方はキャンピングカーの中にあったショットガンを持って、窓を少し開けた。


「見えるはずよ!私達を傷つけたら、この女の命を奪ってやるから!」

「この道路の封鎖を解きなさい!今すぐに!」


運転席の窓を開けたのが彼女の運命を左右した。

貰い手の女は、その言葉が人生で最期に発するものになった。


斜め上方向から、運転席目掛けて銃弾が飛んできた。

その銃弾は正確に貰い手の女の頭蓋を貫いた。


「キャァァァァア!どうして!」

「ママ!ママ!ママぁ!」


私を放り出し、娘は母親に駆け寄った。

相手が警察じゃないことに気がつくべきだった。

運転席に近づくべきではなかった。


判断を誤ってしまったのは、恐怖によるところが大きいだろう。

そのまま、全く同じ死に方をした。

母親の生死を確認しようと寄ったことで死んだ。


なんという、愛に溢れた間抜けな死に方なのだろう。


急いで、周りでキャンピングカーを包囲していた男達が、優しく我をキャンピングカーから連れ出した。

手首と足首が赤くなっていた。


カッチリとしたスーツを着た男が声をかけて来た。

「もう大丈夫です。我々が、安全にあなたを送り届けます。あまり、周りの様子を見ないように。心象の良いものではございませんから。」

「脱水症状になりかけていますね。水分を!」


「さぁ。飲んでください。ゆっくりと、です。あの車に乗ってください。おやすみになるのが良いでしょう。」


我は、言葉通りに車に乗った。

そして、言葉通りに眠ってしまった。


気がつけば、彼女の家の広いベッドの中だった。

尿意を覚えて、そのままお手洗いを借りた。

戻ってきたら、彼女がいた。


「おかえり。」

そうやって温かく呟いてくれた。


「ごめん。」


「謝らないで。」


「その…泣いて良い?冷たいかもしれないけど。」


「良いから。早く。」


彼女に抱きついて、我は泣いた。


「怖かったぁぁあー!何度も殺されるって言われたぁあ!拷問されるって!」

干からびてもおかしくないほど泣いた。

でも、泣けば泣くほど、身体から水分が出ていくほどに心が確かに潤っていくのを感じた。


「ごめんねぁぇえー。きが…グス…グス着替えてきてぇ。」


「あなたもでしょ。パジャマが濡れちゃってるわ。」


食事を振る舞ってもらった。

また休みたくなった。

その心中を察してくれたのか寝室をまた貸してくれると言ってくれた。


ベッドの上で座って、彼女といっしょに海の音を聴いていると、彼女の父親が部屋に入ってきてくれた。


「いや!何より父親として感謝したい。ありがとう!」

「君がどうにか頑張ってくれたおかげで、私の娘は火災に見舞われることもなく今、こうして無事に君と並んで座っている。」

「どんな言葉をかけようかと、そう思っていたのだが。やはり、心からこう思っているよ。娘を守ってくれてありがとう。」


彼女の父親は、我に向かって頭を下げていた。


「あの…頭を上げてください。私は当然のことをしただけですし、それに、今回のことは、自業自得と言いますか…とにかく、私が巻き込んだようなものですから。」


「ふふ。」


「どうしたの?」


「だって、パパが頭を下げたのなんてわたし、人生で初めて見たんだもの。…そうね。わたしの命の恩人なのね。」

「わたし、あなたといれて良かった。本当に。」


「これはついでなんだが、この島でできた家族にも、警察にも、“パーティーキ”にも話はつけてあるから。」

「君は安心して日常に戻るといい。これからも娘と仲良くしてやってくれ。じゃあ…これで。本当にありがとう。」


「はい。」


パーティーキが営業を再開した。

まず、オーナーに呼び出された。


「いや!本当にありがとう。気遣いが出来ない性分でね。言わないわけにはいかなかったんだよ。私の第二の家を守ってくれた恩人なんだから。」

「最悪も考えられたんだ。客も、パフォーマーも、施設も、皆んな燃えてしまう大事件になることもね。」


「でも、君も含めて全員が命もある!施設も無事だ!」


「我は、救えなかった命もあります。警備員とチケット売り場の人。どちらも、親しくはありました。喜んでいいことでも…ないと。」


「そうだ。その人たちの家族とも話した。君の言う通りだ。済まない。そういうつもりでは…」


「いえ、我は英雄というわけでもないと。そう思ってもらいたいだけです。」


「あ。ああ。申し訳ない。とにかくだ。サポートが必要なことは何でも言ってくれていい。経営はどうにか出来ても…人として大事なことに疎くって。困ってしまうな…」


「大丈夫です。ありがとうございます。では…」


パフォーマンス仲間の皆んなは、オーナーと違っていつも通りに我に接してくれた。

ありがたかった。

多分、彼女による計らいだろう。

彼女からの愛を感じられて嬉しかった。


しばらく、いつも通りの時間が過ぎていった。


忘れていくにつれて、過去が遠くなっていくにつれて、解放感がつのる毎日だった。


彼女とも、どんどんと関係が進展していった。


季節の巡りをしっかりと感じれるほど島で過ごした。

同じ街の同じ地区に住む人たちとも顔なじみになった。

彼女の家族とも親しくなり、身分の差はあれど、とても良くしてもらった。


島の外からきたことを忘れてしまうことで、過去のことも清算されるような気がした。


年の始めに、我はパフォーマーの仲間入りをした。

練習を彼女と繰り返して、認めてもらうのに時間がかかった。

といっても、彼女からすれば充分に早い上達だったようで、才能があると評価してもらえた。


パフォーマンス仲間の誰もが歓迎してくれた。

初公演には、彼女の家族や、この島の家族の皆んなが来てくれた。

ちょっとした大事になっていた。


公演も、順調に重ねていくことでどんどんと慣れていき、全員と息を合わせることができた。

若い時間をこの皆んなと過ごせたことは、きっと、他のどれだけの人々よりも幸福であると思った。


また時間が過ぎて、この島の繁忙期になった。

この年は、いつもと違う催し物が開かれた。


“h島美女コンテスト 『ミス・h島』”


概要を説明すると、まぁ、この島の1番栄えているビーチに設営されたステージで島内1番の美女を決まるというイベントだ。


当日にエントリーして、審査を通過して始めて参加資格を得る。

島の中の女性はもちろんのこと、当日にビーチにいる観光客にも参加資格がある。


パフォーマンス仲間ではこの話題が持ちきりとなった。

我は全く興味を示さなかった。

が、驚くことに、1番興味と食いつきこ凄かったのは彼女だった。

そのことは、少し気になってしまった。


業務が終わったあとに、ミス・コンテストに興味があるのかについて聞いてみた。


「あぁ、そういうわけじゃないわよ。理由は簡単よ。この島に向かって自慢したいじゃない?わたしと付き合っている相手はこんなに素敵なんだぞ!ってさ。わたしも参加するから。コンテストとったら自慢して回っていいわよ。」


まぁ、自慢して回るほどの勇気なんてない。

でも、その言葉は純度の100%の幸福感を心を満たしていった。

某炭酸飲料のCMのような感じで。爽やかに、弾けるように。


そこまで言われたなら、参加するしかない!

パフォーマンス仲間の皆んなで、参加することになった。


“ミス・h島コンテスト”当日。

中々の盛り上がりだった。

わざわざこの日のために観光してくるような自信に満ち溢れた女性は居ないと思っていたが、意外と観光客の中で参加する人が多かったので、あり得なくはない推理なのだと思った。


オーディションのように次々と複数人ごとの女性のグループが作られては第一審査のために部屋に送られていった。


我といえば、彼女に寝癖をとかしてもらい、眠そうな顔をしながら第一審査に臨んだ。

よく分からないままに本番のビーチで行われるステージに立つ資格を得た。


パフォーマンス仲間のうち半分くらいが審査を通過出来なかったが、こうしてみると、パーティーキのパフォーマーのメンバーは美女で揃っていることを再確認した。


陽光が少しオレンジ色になった頃に、ステージに立って本審査が始まった。

一般投票と審査票でコンテストを決める。


やることはポージングと一言の挨拶。


彼女の挨拶は理想的なものだった。

この島への愛情。来てくれた人々の労い。自分のこれから。このことを詩的に美しい言葉で彩った。


我も一言挨拶をした。

今の正直な感想と、思っていることを喋った。

いつのまにか挨拶の後半全部を使って彼女を褒めていた。

コンテストで、自分のアピールではなく、ライバル参加者のことをしっかりとアピールするのは前代未聞だったようだ。


しかし、一般客にウケが良かった。


ポージングも、彼女と我と、観光客の女の3人が注目されていて、その3人が主にコンテスト争いで接戦を繰り広げていた。


審査が難航していて、欠伸(あくび)が止まらなかった。

審査員が、我の集中力の無さを見ながら話し合っていた。


結果、我の優勝だった。

賞金とトロフィーが贈られた。急(ごしら)えのステージにしてはバズーカーでテープが吹き出した。


周りの仲間たちも拍手していた。


そのイベントが終わったあとに、皆んなに囲まれていたが、颯爽とその集まりから抜けた。


そして彼女と喜びながら抱き合った。

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