25、公爵令嬢は祈る
今年一年が終わる。
「クラリッサ」
お母様に声を掛けられた。
例年通り、食堂の大きな暖炉の前で家族が集まっている。
その年の『祈り袋』を手に、みんなで最後の祈りをささげる。
――今年はアリスさんに会えましたわ。ありがとうございます。来年も良い年になりますように。……アリスさんの来年も良い年でありますように
ぎゅっと『祈り袋』を握りしめてから、暖炉の炎にそっと投げる。
揺れる炎が袋を包み込み、一瞬だけ琥珀色に輝いた。
それは、『祈りの実』の、最後のきらめき。
――アリスさん
大事な大事な先生と、次の一年も過ごしたい。
きちんと向き合って、アリスさんの話を聞いて。
――お願い。アリスさんもわたくしと会いたいと思ってくれますように
クラリッサは揺れる炎を見ながら、そう強く祈った。
* * *
新しい年が始まる。
アリステアはベッドから起き上がるとすぐに机に向かった。
机の上の小皿には、公爵令嬢が拾った祈りの実がある。
小皿をそのまま窓際に置き、その中の実を手にとった。
そして、光にかざす。
きらりと輝く。
――今年も一年
アリステアは祈るのが得意ではない。
いつだって、何となく実を、その年の『祈り袋』の中に入れるだけ。
ただ今年はどうしたって、あの令嬢の顔が浮かんでしまう。
――彼女の一年が、どうか穏やかなものでありますように
そう祈った瞬間に、自分でも笑ってしまった。
穏やかというのは、果たして彼女らしいのか。
時に嵐のような彼女が穏やかというのは、なにか違う気がしておかしくて。
それでも。
(穏やかに過ごせれば……いいはずだ)
アリステアが今年も穏やかに過ごせないことは、彼女によってほぼ決定している。
公爵家の許可が得られればという条件をつけてはいるが、話を聞く限りあの一家は最終的に彼女に弱い。
アリステアを敵視しながらも、サロンという公爵家の目の届く範囲なら許すに違いない。
――俺の一年も、なんとか過ごせますように
最後にそう祈って、アリステアは公爵令嬢が選んでくれた今年の『祈りの実』を、新たに用意した『祈り袋』の中にそっと仕舞った。




