23、公爵令嬢は会いたい
――アリスさんはわたくしに会いたくない……ということですの?
彼女の爆弾にアリステアはボロボロだった。
午後の授業のことなんて覚えていない。
家になんとか帰り着き、声を掛けてくる執事にテキトーに返し、そしてそのまま自室のベッドへ飛び込んだ。
何も考えたくない。
そう思うのに考えずにはおられない。
ローズピンクの瞳が涙さえ湛えているのではないかと思ったのは、こちらの勝手な勘違いというやつで。
ただじっとまっすぐに見つめられて、答えを求められて。
――会いたくない
などと返すことなど、今のアリステアには無理だった。
彼女に会ったばかりのあの頃であれば、いくらでも無視できたのに、もう無理なのだ。
自分で自分の首を絞めることになると分かっていても、それでもあの瞳に『否』を伝えられるほどの、強靭な精神は持ち合わせていない。
(くそっ……)
忌々しい。
こちらばかりが気にしているのだ。
卒業後も二人で会う意味を。
まるで特別なようなその意味を。
周りからどう見られるかなんて、彼女はまるで気にしていない。
――会うと言ったって……未婚の男女が二人で会うのは世間体が悪いだろ?
――……そうですわね。アリスさんに迷惑かけるわけにはいきませんものね
アリステアの言葉に頷いたので諦めたのかと思ったのだが、返ってきた答えは彼女らしいとしか言えない。
――うちが贔屓にしているサロンを使いましょう?個室ですし、それなら心配ありませんわ
どうして分からないのか?
そんなところにアリステアが行くこと自体、注目を浴びる。
――人の目が気になる
――では、裏口から入られます?アリスさんを裏口からと言うのは非常に失礼で嫌なんですけど
譲歩までされ、アリステアは必死に逃げ道を探した。
――さすがに迷惑だろう?それに父君や兄君がいい顔をされないはずだ
彼女の『家族への報告』の報告を聞かされたときに、公爵家からの敵意を感じた。
アリステアが彼らに悪い意味で認知されていて、ゾッとした。
――わたくしがお友達と会うのに、お父様やお兄様に反対される意味が分かりませんわ
彼女は何一つ理解していない。
どうして公爵家がアリステアを敵認定しているのかを。
そして彼女の行動が周りからどう見られるのかを、まったくもって理解していない。
言いたくはない、でも言わないわけにはいかない。
――恋仲と勘違いされるぞ
公爵令嬢の目が真ん丸になった。
そして。
――わたくしとアリスさんが??
何を仰ってますの?
と続きかねない言い方だった。
痛かった。
分かり切っていたことではあるが、彼女は本当にこれっぽっちもアリステアを意識などしていないのだ。
それをあまりにも明確に、はっきりと、くっきりと提示され、アリステアはボロボロだ。
会いたくない。
これ以上、会いたくない。
――そんなことで、わたくしアリスさんに会えなくなるのは嫌ですわ!!
結局、クラリッサ・ブランデルウッドは変わらない。
我儘なのだ。
可愛くて甘やかされて。
アリステアはその甘やかす側の一人に、なってしまっただけなのだ。




