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王太子妃になりそこねた公爵令嬢は、我儘をつき通す  作者: 星見蒼


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22/28

22、公爵令嬢は報告する

公爵令嬢の首元にはピンクのマフラー。


なぜか恥ずかしそうに、ピンクしかありませんでしたの、と言われた。

別にピンクでも問題ないと思うのだが、本人の好みとズレてしまったのだろうか?


「で、お父様たちに報告したら反対されたんですの」


家庭教師になりたいとすぐに家族に伝えたらしい。

相変わらず行動が速い。

思い立ったらすぐ、だ。


「まぁそうなるだろうな」

「え?どうしてですの?」


目を真ん丸にされて驚かれるが、普通に考えてそうだろう。

高位貴族の令嬢が、卒業後に働くことを選ぶのは珍しい。

しかも家庭教師。家族が心配して反対するのは当然だ。


「……説得はできそうなのか?」


理由を説明するのは面倒で、そう訊けば彼女がふふっと得意げに笑った。


(これは意外だ)


もっと時間が掛かると思っていたのだが。

むしろ反対されたままで、勝手に家庭教師をするんじゃないかとさえ危惧していた。


「こうやって」


唐突に彼女は椅子から立ち上がり、アリステアの近くに来た。

しかも膝をつこうとする。

汚れる、と慌てたアリステアは彼女に手を伸ばしかけて、触れてはいけないと手を止めるという中途半端な状況に陥る。

しかし彼女は気にした様子もなく、にこりと笑った。

そして。


「上目遣いで、おねだりしてみたんです」


両手をぎゅっと胸元で組んで、首を傾けている。


(…………)


「どうです?効きます?」


『効いた』と返して欲しいのだろうか?

分からない。

というか、いったいどこでそんな技を?

彼女らしくない手法につい眉間に皺が寄る。


「……あ、不快でしたのね……」


申し訳なさそうにされるが、それにさえ舌打ちをしたくなる。


「不快というよりも……」

「ダメでした?」

「あまり気分のいいものではないな」


可愛いのかもしれないが、そんなことをしなくてもいいだろう、と思う。

もっとまっすぐにぶつかればいいだけだ。


「……アリスさんにはしませんわ」

「ああ……そう、だな」


自分で言っておきながら、いつか誰かにそうするのかと思うと、どす黒い感情が湧く。


(畜生……)


早く卒業したい。

この時間から解放されたい。


「アリスさん?」

「いや……なんでもない」


湧き上がるしょうもない嫉妬と、焦燥感。

そんなもの彼女に見せたくはない。


「良かったな。認められて」


なんとか無難な言葉を口にすると、彼女はこくりと頷いた。

けれどアリステアの不機嫌さは伝わってしまったらしい。少しだけ悲しそうな顔をしている。


(……最悪だな)


離れていく背中を眺めながら、やりきれない自分の思いに、息を吐いた。



* * *



お父様やお兄様に効いた戦法は、アリスさんには効かない。

なにより使ってはいけないらしい。


(難しいですわ……)


なんとなく今も不機嫌そうな空気を醸し出している。


(そんなに嫌でしたのかしら……)


小説の登場人物は上手に使っていた。


(でもそうですわね……アリスさんは、こういう小手先の手法は好きではなさそうですわ)


お父様やお兄様と一緒にしてしまった。

アリスさんの前に膝をついて、甘えるようにして。


(あら?……よく考えたらこれじゃ前のわがままと変わらないのでは?)


お父様たちを説得している時には気にならなかったのだが、アリスさんに拒絶されて、その可能性に気づいてしまった。


(……嘘でしょ!!またわたくし、わがままを!!)


お母様には成長したと言って貰えたけれど、そんなことはない。


はっとアリスさんを見る。


(どうしましょう……まだ怒ってらっしゃるわ……)


無言でお弁当を食べているアリスさんからは、いまだに怒りの気配が漂っている。


「あの……」

「……」


アリスさんがちらりとこちらを見た。


心臓がバクバクする。

つい胸元で手を組みそうになるが、それはアリスさんの嫌いな仕草と同じなので、膝の上でぎゅっと手を握りしめて我慢する。


「ご、ごめんなさい」

「……別に怒って」

「怒ってらっしゃいますわ。それに……わたくし、また浅はかな態度をとってしまいましたわ」

「……」

「自分のわがままを通してしまいましたわ」


アリスさんが口をへの字にした。

それから、はぁとため息を吐いた。


「それは我儘とは違う」

「え?でも……」

「まぁ大きく括ると我儘かもしれないが、そういうのとは違う」

「……え?」

「上手くは言えないが、絶対に違う」


あんなに不機嫌そうでしたのに、それでもアリスさんはクラリッサに誠実に応えてくれる。


「……ありがとうございます」

「なんのお礼なのか分からないが……。あと、父君と兄君を説得するには悪くない手法だったと思う」

「……そうですの?」

「ああ、まぁ逆効果の可能性もあったかもしれないが」

「逆効果?」

「ああ、でも説得できたんだろう?」

「ええ。お母様がなんとかしてくださいましたわ」

「……なんとか?」


アリスさんが不思議そうに訊いてきたので、手振り身振りに加え声色まで変えて、臨場感たっぷりに昨日の家族会議の様子を伝える。


ところが話が進むにつれ、元々少なかったアリスさんの相槌がなくなっていく。

そうして。


「……待て、そもそもなんで卒業後も会うことになってるんだ!!」


アリスさんが予想だにしないところで、声をあげた。


「え?会って下さらないんですの?」

「……必要はないだろう?」


まさかの返答にクラリッサの方が愕然とする。


「必要?……だって、わたくしアリスさんに会いたいのに?」

「……」

「アリスさんはわたくしに会いたくない……ということですの?」


思わずそう漏らしてしまった。

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