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異世界QOL爆上げ生活 〜【万物在庫管理システム】を授かったので、不便なサバイバルを最適化する〜  作者: にのまえあゆむ


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第6話 初めての食糧調達

 ひとまず雨風を凌げ、万が一にも野生動物などの外敵が襲ってきても隠れられる避難場所、シェルターのような小屋は完成した。

 しかしこれは、人間の生活で基礎となる衣食住の〝住〟をクリアしただけに過ぎない。 住処があるだけでは、人間、生きていけないのだ。


「拠点が出来たとは言え、もうすぐ日が暮れそうだ。うかうかしてられないな」


 食糧と明かりの確保。できることなら両方同時に成し遂げたい。

 嘉人は何かいい方法はないかとナレッジ検索を立ち上げた。


「えーと……」


 どんな文言で検索しようかしばし悩み、嘉人は〝高油脂 食用 植物 現在地周辺〟と検索窓に打ち込んだ。

 さすがに生きている野生動物を捕獲するのは敷居が高い。捕まえようとするなら武器や罠が必要だ。


 なので、狙うのは植物。できれば高油脂のものがいい。


 油脂が高いということはそれだけカロリーが高いはずだし、油ということは燃料にもなるはずだ。

 とはいえ、嘉人はそんな都合のいい植物があるのかどうか知らない。強いて言えばアボカドだろうか。

 ただ、ここは異世界。元の世界と同じものがあるとは思えない。


 ポーンと軽い音と共に、結果が表示された。


【周辺分布:脂蝋樹の実】

 特徴:果肉に天然の油脂を豊富に蓄える。

 食用:果肉は加熱により摂取可能。種は香ばしく、栄養豊富。

 燃料:乾燥させた皮や種は、数時間にわたって安定した火力を提供する。


「し……ろう、じゅ……〝しろうじゅ〟って読むのか? 実とが加熱すれば食用になって、殻は燃料になる……なんて理想的な一品だ。よし、これにしよう!」


 嘉人はそのまま検索した脂蝋樹のデータをマップに落とし込んだ。どうやら現在地から大瀑布へ向かう道中の、日当たりの良い斜面に群生しているようだ。


「日没までにはなんとかしないとな」


 嘉人はタブレットの画面に表示された最短ルートを頼りに、目的地へと急いだ。

 移動中もUSCを使って、視界に入る巨木や岩のうち、拠点の整備に使えそうな良質な素材を【入庫】し、【在庫】画面に並ぶストックの推移を眺めては、今後の資材繰りをシミュレーションしていく。


 ほどなくして、マップの指定ポイントに到着した。


 そこには、灰褐色の幹からアボカドを二回りほど小さくしたような、艶やかな緑色の実をたわわに実らせた樹木が群生していた。


「これが脂蝋樹か」


 目的の物を見つけた嘉人は、すぐにタブレットPCのカメラを脂蝋樹の群生に向け、画面上で見える脂蝋樹の実を一つずつチェックしていく。


「……待てよ。わざわざここまで採集に来るのは効率が悪いよな。この脂蝋樹自体を拠点の横に『転送保管』できないか? 仕入れ先と倉庫が直結すれば輸送コストはゼロだ。やってみる価値はあるな」


 それが出来るなら、毎回、ここまで足を伸ばして脂蝋樹の実を集める必要はなくなる。

 物は試しと、嘉人は脂蝋樹を何本か範囲指定で囲んだ。


「これで【入庫】を実行!」


 ポーン、と軽快な電子音が鳴り響く。

 次の瞬間、嘉人がなぞった範囲内の脂蝋樹が、まるで魔法のように消失した。それと同時に、USCの【在庫】には『脂蝋樹×五本』と『脂蝋樹の実×一〇二』という数字が表示される。


「おっ、一気に【入庫】しても樹と実は自動的に選別されるのか。これでなんとか食糧と燃料の目処が――」


 無事に目的の果物を【入庫】し、マップで拠点へ戻るルートの確認をしていたら、かなりの速度で近づいてくる赤い点があることに気がついた。


「えっ!?」


 猛スピードで移動している赤い点をタップすれば、『ボーン・ボア』と表示された。


「ボーン・ボア……イノシシ!?」


 ここが異世界でなくとも、イノシシと名の付くものを甘く見るほど、嘉人は野生動物を甘く見ていない。

 マップ上の赤い点は、物流センターの構内を暴走するフォークリフトのような速度で、真っ直ぐ嘉人の位置を目指している。


「――うおっ!」


 嘉人が顔を上げた瞬間、正面の茂みが爆発したように弾け飛んだ。

 視界に飛び込んできたのは、槍のように鋭い一本角を突き出した、巨躯の獣。

 回避は間に合わない――そう直感した嘉人は、理屈よりも先にその場に身を投げ出した。


 ドォォォン! と、重々しい破壊音がすぐ背後で響く。


 立ち上がって振り返れば、嘉人が立っていた場所の後ろにある巨木の幹に、太く長い角で貫く巨大なイノシシの姿があった。


「なんでいきなり……もしかして、ここがコイツの縄張りだったのか!?」


 嘉人は冷や汗を拭いながら、即座に相手の情報を【ナレッジ検索】で呼び出す。

 そこに映し出されたのは、猪を二回りは巨大化させたような、鋼のような剛毛に覆われた獰猛な獣の姿だった。


『特性:極めて好戦的。突進は岩をも砕く』

『肉質:非常に美味。バラ肉の脂身は甘みが強く、最高級の滋養食材とされる』


「高級品て……仕留めなくちゃ意味ない情報だろ、それ! はっ!?」


 猪が巨躯を震わせ、巨木から強引に角を引き抜く。メキメキと木が裂ける音が周囲に響き渡った。

 大きく頭を振って木くずを振り払い、猪は血走った眼で嘉人を捉えて地面をカツカツと削り、再び突進の構えをとる。

 武器もなければ、戦う術もない。だが、やらなければこちらがやられるだけだ。


(どうする……どうする……どうす──そうだ!)


 一か八かの賭けになるが、嘉人は活路を見出した。

 嘉人はタブレットPCを構える。タイミングがすべてを決する。


「ブモォォォォォッ!」


 猪が蹄を鳴らし、嘉人に向かって突っ込んで来た。

 その距離は、目測で約七メートル。

 六メートル。

 五メートル。

 四メートル。

 三メートル──。


「今だ、緊急ピッキング!」


 嘉人は、突っ込んでくるボーン・ボアの足下の地面を、自分の足場を残す絶妙な座標でターゲティングして【入庫】を実行した。

 ベストの位置で地面が消える。ボーン・ボアは深さ二メートルの垂直の穴へと、まるでコントのように落下した。


 これが、ボーン・ボアが動き出す前に実行していたら上手くいかなかっただろう。


【入庫】は、あくまでもタブレットPCのカメラで映さねばならない。距離が離れていては、カメラで捉える地面は画角の問題で斜めに写ってしまう、

 そうなると斜めに地面が抉れるだけで、仮にボーン・ボアが穴に落下しても斜面を登ってくるかもしれなかった。三メートルの距離は、ギリギリの範囲だったのだ。


「ふぅ……ひとまずこれで安全か」


 額の汗を拭い、嘉人は安堵のため息をついた。

 穴の縁から慎重に覗き込むと、落下したボーン・ボアが必死にもがいている。とはいえ、深さ二メートルの穴では、巨体のボーン・ボアが助走なしで飛び上がるには十分過ぎる障害だ。


「こいつ……どうするかな」


 目の前にいるのは、【ナレッジ検索】で『美味』と賞されるボーン・ボア。貴重な動物性タンパク質である。できることなら美味しく頂きたい。

 だが、今の嘉人には、穴に落とされて怒り狂っているボーン・ボアを安全に屠殺する道具も技術もない。


「かといって、放っておくわけにもいかないし……」


 悩む嘉人は、ふと、タブレットPCを見た。


(……生き物も【入庫】できるのか……?)


 今まで水や岩、木などは【入庫】できた。それに果実も。

 水や岩はともかく、木と果実は有機物だ。

 少なくとも、有機物は確実に【入庫】できている。

 そして、ボーン・ボアも有機物である。


「……やってみるか」


 嘉人は半信半疑ながらも、穴の底で暴れるボーン・ボアにカメラの照準を合わせた。


「どうなるかな……【入庫】実行!」


 ポーン、という聞き慣れた通知音。

 直後、穴の底にいたボーン・ボアの姿がいなくなっていた。


「できた……。本当になんでも【入庫】できるんだな」


【在庫】を確認してみると、そこには『ボーン・ボア(生体・未処理)』という項目が追加されていた。


「『生体』を在庫登録……? 温度管理も鮮度維持の概念も無視した、とんでもないストレージじゃないか」


 嘉人はタブレットに表示されたリストを見て、驚きよりも先に「管理上のリスク」を懸念していた。


「生体……未処理!? 『検収』さえ済んでいない生鮮品を放り込むとか、どんだけ……え、じゃあこれ、システム上で処理もできるってことか?」


 嘉人の好奇心がムクムクと頭をもたげてきた。

 もし本当に処理ができるなら、知識や経験の無い嘉人でも、ボーン・ボアを食べられる形に加工できるかもしれない。

 が、今はその好奇心を抑えた方が良さそうだ。

 空を見れば青空からややオレンジ掛かった色味になっている。もうすぐ日が暮れる。


「まずは拠点に戻ろう」


 嘉人は日没が迫る森を急ぎ足で引き返した。

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