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異世界QOL爆上げ生活 〜【万物在庫管理システム】を授かったので、不便なサバイバルを最適化する〜  作者: にのまえあゆむ


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第31話 探求者ギルド

 探求者ギルド。


 そこは、未知の領域を既知へと変えんとする者たちの拠点だ。壁には未完成の地図が並び、人類の生存圏を広げるための情熱が詰まっている。

 このギルドの活動範囲は、アステリア王国という狭い枠組みには留まらない。


 王都レガリスが誇る内海の良港を起点に、彼らは海を渡り、隣国や未知の沿岸部へとその翼を広げている。陸路の封鎖という事態に直面しても、彼らにとっては調査対象が増えたに過ぎず、組織としての活力が失われることはなかった。


 事実、今のギルドロビーを支配しているのは、重苦しい停滞などではなく、むしろ騒がしいほどの熱気に包まれている。


「──だから、あれは単なる魔力の暴走じゃないと言っているんだ!」

「だが、話に聞く〝光る液体〟は魔力に起因するものだろう? ああ、くそっ! その液体が手に入れば、より詳しく調べられるんだが──」

「近づくだけで倒れるんだから無理だろ!」

「それでもさぁ──」


 ザワザワ、ザワザワと、あちこちで探求者たちが地図やメモを囲んで激論を交わしている。王国騎士団と黒曜鉱山に向かった一行からの情報を元に、議論がますます白熱しているようだ。


「他と違って活気があるな」


 あちこちで興奮気味に議論を交わしている探求者たちの姿は、さすがの嘉人でも目を見張るものがあった。

 彼らにとって黒曜鉱山の異変は、早急に解決すべき危機というより、解析すべき魅力的な〝高難度のパズル〟に近い。

 そんな学術的な狂熱が渦巻く中を横目で見ながら、嘉人は受付カウンターへ向かった。


「ようこそ、探求者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 探求者ギルドの受付嬢が、にこやかな笑顔で出迎えてくれた。

 嘉人の恰好には目もくれない。魔道士然とした男がいきなりやって来ても動じることなく対応する姿は、まさに受付のプロフェッショナルだ。


「こちらでは、世界各地で入手した品を購入できると聞いた。断魔石はあるだろうか?」

「断魔石……で、ございますか?」


 そこで初めて、受付嬢が感情らしいものを垣間見せた。戸惑ったように困惑し、嘉人の姿を上から下まで眺める。


「ええと……断魔石というのは、魔力を完全に遮断する特性を持つ鉱石なのですが……大変失礼ながら、お客様のような魔道士の方がお持ちになると、いろいろ問題が起きてしまうのではないでしょうか……?」

「承知している。その上で、ここにある断魔石をすべて買い取りたい」


 嘉人は、ローレイア男爵家への魔器配達で得た金貨の入った革袋をテーブルの上に置く。

 金貨の重い音が、一時的に受付嬢の対応を沈黙させた。


「……あ、申し訳ございません。ええと……しょ、少々革袋の中身を確認させていただいてよろしいでしょうか?」

「もちろん」


 嘉人が頷くと、受付嬢は革袋の紐をほどき、その中身を確認する。直後、目を丸くして仰け反り、革袋の中身と嘉人の姿を何度も見比べるように視線をせわしなく移動させた。


「え、ええと……断魔石をお求めでしたら、この中身の半分くらいで、すべて販売できますが……」

「そうなのか? それなら、それでお願いしよう」

「かしこまりました……あの、本当によろしいんですね?」

「ああ」


 おそらく、受付嬢からの優しい配慮なのだろう。念押しするように確認されたが、嘉人は迷うことなく頷いた。

 受付嬢としても、嘉人がそこまで確固たる意思で断魔石を購入するのなら、もはや何も言うまい。淡々と事務処理をするだけだ。


「それでは、少々お待ちください」


 受付嬢はそう言って席を立ち、背後の棚から書類の束を取り出した。


「断魔石は当ギルドに約十五トンほどございます。大きな岩石サイズのものから砂利のように細かいものまでありまして……それらを含めて〝すべて〟ですね?」

「ああ」

「そうなりますと、一キロでアステリア銅貨六枚ですから……金貨九十枚になります」

「わかった、それでいい」


 断魔石十五トンで金貨九十枚──およそ日本円で九百万だ。それが一キロで銅貨六枚なのだから、おそらく銅貨は一枚百円程度の価値なのだろう。

 嘉人が頷くと、受付嬢は革袋から金貨九十枚を取り出し、残りをそのまま嘉人に戻した。


「持ち帰りは如何いたしましょう? 何分、量が量ですので何処かへお運びするなら、別途費用が掛かってしまいますが……」

「保管場所へ案内してもらえるか? そこで引き取る」

「えっ?」


 嘉人の申し出に、受付嬢が言葉を詰まらせた。


「何か問題でも?」

「い、いえ。問題というわけではございませんが……十五トンともなれば、屈強な男たちが総出で一日がかりの作業です。それを、お客様お一人で今から、というのは……」

「手間は取らせない。場所さえ教えてくれれば、こちらで済ませる」

「……は、はぁ。それでは、地下の備蓄倉庫へご案内いたします」

「わかった。エルネシアは待っててくれ」


 受付嬢は半信半疑のまま、嘉人をギルドの地下深くへと案内する。

 そこはひんやりとした空気が漂う、広大な石造りの空間だった。

 その一角に、山のように積み上げられた黒い石の山があった。一見すると炭のようだが、鈍く輝いているそれこそが断魔石だ。


「こちらが当ギルドに保管されているすべての断魔石です。……本当に、お一人でどうにかできる量では――」


 受付嬢が言いかけたその時だった。

 タブレットPCを取り出した嘉人が、山のような断魔石をカメラのレンズに収め、画面上に表示された【入庫】アイコンを無造作にタップする。

 次の瞬間、視界を埋め尽くしていた十五トンの岩石の山が、光も音もなく、まるごと消失した。


「……え? えぇぇぇぇっ!?」


 受付嬢の表情が、これまでの対外的なものから、嘘偽りのない驚愕に歪んだ。

 断魔石は、その名の通り魔法の効果を遮断する鉱石だ。仮にマジックバッグのようなものに収納しようとしても、断魔石だけは弾かれてしまう。

 なのに目の前の魔道士は、十五トンもの質量があった断魔石を、何処へ消し去ってしまったのである。驚くどころか、常識がひっくり返るような出来事だ。


「……たしかに受け取った。手続きはこれで完了だな」


 嘉人はUSCの【在庫】を開き、そこに断魔石があることを確認してからローブの下にあるタブレットホルダーに戻した。


「あ、え、ええ……。確かに、お引渡しは完了いたしましたが……あの、今……何をなさったのでしょう……?」


 受付嬢は、空っぽになった石材置き場と嘉人を交互に見つめ、唇をわななかせていた。十五トンの重みに耐えていたはずの床に残されたのは、ただの土埃と、信じがたい現実だけだ。

 彼女はギルド職員として数多くの魔法や希少な魔道具を見てきたが、目の前の男が振るった力は、そのどれとも似て非なるものだったことが、直感的にわかった。


「企業秘密」


 嘉人はそれだけを言い残し、踵を返して地下倉庫を後にし、エルネシアが待っている探求者ギルドのロビーに戻ってきた。


「おかえりなさい。目当てのものは手に入ったの?」

「ああ。残らず〝魔道書〟の中に放り込んだ」

「……断魔石は魔法を受付けないんだけど、ホントどうやってんの……?」


 タブレットPCを魔道書、USCの【入庫】や【出庫】の機能を〝マジックバッグ〟としか聞いてないエルネシアも、どうやら受付嬢と同じ疑問を抱いたようだ。


「何事にも例外はある──ってことじゃないか?」


 一から十まで説明するのも面倒だ。嘉人は適当な言葉で煙に巻き、活気あふれるロビーを通ってギルドの玄関へ向かう。

 相変わらず探求者たちは〝光る液体〟の正体について議論を交わしていたが、嘉人はその喧騒に一度も視線を向けることはなかった。

 彼らが〝パズル〟を楽しんでいる間に、嘉人はすでに解決に必要な〝ピース〟をすべて手に入れているのだから。


 表に出ると、王都の午後の陽光が眩しかった。

 嘉人は足を止めず、真っ直ぐに目的の方向を見据える。


「これで準備は整ったな。それじゃエルネシア、ここからは別行動だ。俺はこれからすぐに黒曜鉱山に向かう。おまえは……そうだな、里に戻ってもいいし、ディートリッヒの様子を見に行ってもいいんじゃないか? 任務に失敗してるっぽいし、心配だろ?」


「えっ? なんで!?」

「いやだって、黒曜鉱山から溢れてる〝光る液体〟は、魔力を持つ人間が近づけば倒れるんだろ? おまえじゃ近づけないじゃないか。ただでさえ、封鎖されてた街道を通っただけで気分が悪くなってたんだし」


「それは……そうだけど……」

「対して、俺は魔力がないからな。全然問題ない。むしろ、俺一人の方が安全だ」

「むぅ~……」


 納得がいかないと言わんばかりにエルネシアは頬を膨らませたが、嘉人の指摘はあまりに正論だった。

 事実、王都へ向かう街道でさえ彼女は体調を崩しかけていたのだ。その発生源である鉱山へと近づけば、彼女の身が危険なのは火を見るよりも明らかだ。


「……わかったわよ。確かに、今の私がついて行ってもあなたの足を引っ張るだけだわ」


 ようやく折れた彼女は、肩を落として溜息をついた。

 嘉人は、そんなエルネシアの肩を慰めるように軽く叩いた。


「現場に荷物を届けるのは俺の役目だ。じゃ、後はよろしくな」

「もう! ちゃんと帰って来なかったら、承知しないんだからね!」


 怒鳴るエルネシアに軽く手を振って、嘉人は黒曜鉱山へ向けて出立した。

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