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異世界QOL爆上げ生活 〜【万物在庫管理システム】を授かったので、不便なサバイバルを最適化する〜  作者: にのまえあゆむ


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第16話 川に流れ着いたもの

 岩塩の洞窟側に拠点を移してから、どれほどの時間が過ぎ去っただろう。数週間か、数ヶ月……一年はさすがに経っていない。ただ、この大森林にも〝四季〟と言うほどではないが、朝晩に少しだけ暖炉に火を灯さないと肌寒く感じてはいる。


「もうすぐ冬がくるのか……?」


 柏木嘉人は空を見上げて呟いた。

 もし冬が来るのなら、こちらの世界で初めての冬だ。雪は降るのか、降ったらどのくらい積もるのか、すべてが初めてのことなので何も情報がない。


「できるだけ準備を進めておくかぁ~……」


 訪れる冬の気配に、嘉人はそんなことを考えた。

 逆を言えば、この数週間か数ヶ月で、そう考えられる程度には拠点の開発が進んだとも言える。

 家を建て、貯水槽と生け簀を作り、十分過ぎるほどの量の塩を手に入れた嘉人は、その後、USCを使って頭の中で思い描いた通りに拠点を整備していった。

 デルタ・ポテトとクリムゾンベリーを近くに植え直し、川辺の護岸を整備し、さらにはハルヴァの背に乗せてもらって周辺の調査も行った。


 その中で、新たな食材もいくつか見つけてある。


 例えば〝氷結菜〟。これは、葉の表面に塩分を含んだキラキラした結晶がつく多肉植物であり、気温が下がるとより甘みが増す特性を持っている。嘉人の現代知識と照らし合わせれば、キャベツに近いかもしれない。

 他にも〝膨張豆〟と呼ばれる大豆に似た豆類や、〝潜土蛇〟という山芋や自然薯に似た根菜、さらに〝炸裂実〟という栗のような木の実まで見つけている。

 生け簀にも、魚が三種類ほど泳いでいる。弾力鱗、透過魚、そして〝ぬくだまり〟という名の魚たちだ。

 これら三種類の魚は、USCで切り出した石板を使い、三つの区画に仕切った生け簀の中で飼育している。種類ごとに分けておかないと、共食いをしてしまう恐れがあるからだ。


 その他にも問題はある。


 透過魚は、USCの【ナレッジ検索】で調べたところ、冷たい水を好むらしい。

 対して、〝ぬくだまり〟はその名が示すように温い水を好む──どころか、ぬくだまりそのものが恒温動物のように熱を発し、水を温めている。

 本来、この二種を同じ水槽に入れるのは環境的に矛盾しているのだが、そこはUSCの出番だ。石板で対流を制御し、ぬくだまりの放つ熱が効率よく外部へ逃げるように排水経路を設計することで、絶妙な水温勾配を維持させている。

 こうしておけば、仮にこれから冬が来るとしても、水回りが凍り付いて使えない──という事態は避けられるだろう。


 問題は──。


「そろそろ服をどうにかしたいな……」


 そう、この世界に転移してきた嘉人は、持っている服が転移された時に着ていた服しかないのだ。

 ならばUSCの機能を使って作ればいい──そう思うかもしれないが、そこには技術的なハードルが幾つかある。

 例えば、ボーン・ボアやフォレスト・バイソンの毛皮は【在庫】として持っている。それを〝なめす〟工程は【アセンブリ】でも難しい。

 それに、服というのは平面の〝布地〟を立体的に形成するものだ。しかも、嘉人が着るものなのだから、人体の可動域も考慮した立体裁断のデータ、すなわち型紙が必要になる。

 他にもいろいろあるが、ともあれ嘉人は、一度は【アセンブリ】でそれらしい服を作ろうと試みたが、結局、断念して今に至る。


「……結局、石や木みたいに〝固めて終わり〟ってわけにはいかないんだよな。関節が動くたびに摩擦が起きるし、通気性が悪ければ蒸れて気持ち悪い。着心地なんて文明に守られてこそだよ、ホントに」


 と、愚痴を言っても始まらない。服関連はなるべく早くどうにかしたいと考えているが、今のところ目処が立っていない悩ましい問題だった。


「ま、仕事するか」


 嘉人は気持ちを切り替えた。

 この拠点において、彼は唯一の現場作業員であり、意思決定者だ。彼が手を止めれば、すべてのフローが滞る。

 朝一のシルヴィとハルヴァへの給餌に始まり、自分の朝食。その後は畑のコンディションチェック。昼食を挟んで、生け簀の管理と護岸のメンテナンス……。

 最近の嘉人の一日は、完全にルーティン化していた。ハルヴァの背に乗っての資源開拓も、拠点の維持コストに圧迫され、目新しい収穫は滞りつつある。


(一人で回すには、そろそろリソースの限界か……?)


 どんなにUSCで工程を短縮しても、最終的な「検収」と「判断」は嘉人の肉体で行うしかない。人手不足という名のボトルネックが、じわじわと彼の生活圏を侵食し始めていた。

 そんなことを考えながら、日課である護岸の点検に差し掛かった時のことだ。傍らで休んでいたハルヴァが、ふと鼻を鳴らした。

 警戒というよりは、何か得体の知れないイレギュラーが視界に入ったときのような、わずかな戸惑いの混じった合図。


「どうした、ハルヴァ。何かあるのか?」


 嘉人が顔を上げ、ハルヴァの視線の先――川上へと目を向けると、穏やかな川の流れに乗って不自然な〝流木〟が近づいてくるのが見えた。

 嘉人はUSCを操作し、【エリア・マッピング】を起動する。


「……嘘だろ」


 画面上の三次元地形図に表示されたのは、自然界ではあり得ないほど直線と曲線が組み合わされた、規則的な構造体。

 樹皮を丁寧に、それこそ熟練の職人が仕上げたかのように編み込んだ小舟が、水面に浮かんでいる。

 嘉人の心臓が、嫌な音を立てて早鐘を打った。

 この森に飛ばされてから数週間。自分とシルヴィ、ハルヴァ以外に、知性の欠片を感じさせる存在なんて一度も目にしたことがなかったのだ。

 ここには自分以外の「人」なんて存在しない、隔絶された場所だとさえ思っていた。

 だが、今目の前を流れているのは、明らかに人の手が加わった人工物だ。


「……ハルヴァ! あれを、あそこの浅瀬に追い込め! 絶対に逃さないでくれ!」


 嘉人の声が、自分でも驚くほど上ずった。


「おっ、なんだ? また何か面白いことでも始めるのか?」


 ハルヴァが吞気なことを言っているが、頼んだことは迅速にこなしてくれる。軽やかに川の飛び石を伝って小舟に近づき、風の魔法を使って進路を変えてくれた。

 緩やかに浅瀬に流れ着いた小舟に嘉人は大急ぎで駆け寄った。


「……人だ……」


 流れ着いた小舟の中には、横たわる女性の姿があった。

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