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異世界QOL爆上げ生活 〜【万物在庫管理システム】を授かったので、不便なサバイバルを最適化する〜  作者: にのまえあゆむ


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第14話 新天地でのキャンプ

 川のせせらぎのような音が聞こえてくる。シルヴィとハルヴァは凹凸の激しい道を平坦な道のように駆け抜け、しばらくすると足を止めた。


「着いたぞ、ヨシト。ここが〝ピリピリする石〟が転がっている洞窟と、森に住む生き物たちの水飲み場となっている川だ」

「……ここが、新しい拠点かぁー……」


 嘉人は真っ先に、まだ手つかずの自然そのものである新拠点の予定地を見渡した。

 大瀑布の重低音は、もはや聞こえない。目の前を流れる澄んだ派川はとても穏やかだ。

 川の幅は、およそ十メートルくらいだろうか。水深は、さすがに見ただけではわからない。そんな川向こうは丘となっており、まるで何かの冒険譚に出てくるようなダンジョンの入口のように、ぽっかりと口を開けた洞窟の入口が見えた。


 嘉人はタブレットを取り出し、現在の座標をUSCの【エリア・マッピング】にピンを立てると、早速、周辺環境の地形データをスキャンしてみた。

 タブレットの画面上に、無数の等高線と地質の透過グラフが重なり合う。嘉人は指先で画面をスワイプし、新拠点予定地の地下構造を深く掘り下げて表示させた。

 そこからさらに、タブレットの画面に映る地形データへマーカーを置いていく。


(……足元の地盤は花崗岩か。悪くない。まずはこの地点を中心に面出しして家を作ろう。それから……)


 視線を画面の端、岩壁の付け根へとスライドさせた。


(岩壁のこの窪み、標高が居住予定地より三メートル高い。ここを貯水池にすれば、重力だけで蛇口まで水が届く。ついでに深さを出せば、川魚を放り込んでおけるな。生け簀兼、生活用水のバッファだ)


 嘉人の思考は、常に「いかに動かずにリソースを循環させるか」に集約される。川までバケツを持って往復するような無駄は、彼の設計図には存在しない。


(居住区の横に畑、その外周を囲うように防壁を引く。排水は低い方へ流せば拠点は汚れずに済むな)


 地形データを見ているだけで、いろいろと夢が広がっていく。元の世界で得られていた生活の質が、ここでなら手に入るかもしれない──が、それは今日、明日で実現できるものではないことも、嘉人にはわかっている。


「まず優先させるべきことは……夜を過ごすための住居か」


 前の拠点で使っていた居住ユニットは、そのままUSCの【在庫】に戻して持ってきている。が、あれはあくまでも〝岩壁を刳り抜いた中に設置する最適解〟であって、この場所に相応しいものではない。

 どうせなら、穴蔵の中に隠れて住むようなものではなく、ちゃんとした一軒家が欲しい。


 もちろん、一軒家といっても嘉人は一人だ。シルヴィとハルヴァが中に入ることがあるかもしれないが、そこまで大きくなくていい。

 必要な設備──すなわち、トイレ、キッチン、浴室、寝室、リビングという五つの設備を持っていればいいので、平屋くらいが丁度いいのかもしれない。

 イメージが固まった嘉人は、早速【アセンブリ】を立ち上げた。


(前の拠点で使ってた部屋は、あくまで〝洞窟の中〟という前提の設計だ。地上にそのまま置くこともできるけど、それでは断熱や排水の効率が悪いよなぁ。長期的な管理コストを考えれば、今の資材状況に合わせてゼロから最適化した方が良さそうだ)


【アセンブリ】で以前の居住ユニットを木材にまで〝解体〟すると、【在庫】の木材の量がわずかに増えた。

 ここからが本番だ。

 嘉人は木材の他に、ボーン・ボアの骨やバイソンの角、そして切り出した石材のリストを、使用する素材として【アセンブリ】の素材一覧に加えた。


(……USCの機能を最大限に活用すれば、これらの素材を組み合わせるのではなく、結合や融合させることもできるはず……)


 嘉人はまず、在庫にある〝木材〟と〝石材〟のデータを選択し、それらを一つのレイヤーに重ねた。

 普通なら、石の上に木を載せるだけだ。だが嘉人は、その境界線を指でなぞり、分子結合の同期を行った。

 画面上では、石の結晶構造の隙間に木の繊維がナノ単位で食い込んでいくシミュレーションが走る。


(外壁は石の堅牢さを。内壁は木の断熱性を。その間をグラデーションで繋ぎ、完全に一体化させる。釘も接着剤もいらない。素材そのものを融合させれば、強度は最大化するからな)


 嘉人の指先が、さらにボーン・ボアの骨のデータを拾い上げた。

 それを「窓」の座標に配置する。だが、それは壁を穿って枠を嵌める作業ではない。壁を構成する分子の一部を、透過率の高い骨の成分へと「書き換える」作業だ。


(カルシウム層をレイヤー化して、表面を鏡面処理に……っと。これで壁そのものが光を通す。窓枠という物理的な弱点はこれで消える)


 嘉人の設計は、もはや「家」という建築物ではなく、一つの巨大な「結晶体」へと近づいていた。

 浴室の配管も、吸気用のダクトも。

 それらは後から設置される「管」ではなく、壁という塊の中に最初から存在する精密な空洞として彫り込まれていく。

 画面上のステータスが、雑多な素材リストから、たった一行の『居住用一軒家ユニット×1』に書き換わった。


「……よし。これで【在庫】として確定だ」


 新たな住居が、データ上とは言え完成したことに大きな満足感を得た嘉人は、ふと視線を上げた。

 森の隙間から差し込む陽光は、既に深い琥珀色へと変わっていた。


「給排水のラインを作らないと、家だけ出しても無意味だもんな……」


 どれほど完璧に設計された家であっても、外部ラインと接続されないまま設置してしまえば、それはただの重い「石と木の塊」でしかない。

 そして、今はまだ給排水のラインも何もできていないのだ。

 今、嘉人が優先させるべきことは、この夜を安全かつ可能な限り快適に過ごすための準備である。


「シルヴィ、ハルヴァ。今日はここまでにしようと思う。あとはゆっくりしようぜ」

「あら、今日はお預けなのね。まあ、あんたがそう言うなら別にいいけど」


 何やら素っ気ないシルヴィは、その場でくるんと丸くなって寝転がった。

 嘉人は苦笑いしながら、タブレットを操作して【在庫】のリストをスクロールした。


(さすがに寝袋も何もなしはキツいから……)


 嘉人はバイソンの毛皮と木材を【アセンブリ】で使う素材に選び、簡易的な野営セットを手早く作り上げた。


「今日はこれでいいか」


 作り上げた野営セットは【在庫】に移し、そのまま平坦な地面へと【出庫】する。

 軽い感知音と共に、寝袋と簡易テントが出現した。


「今日はここでキャンプだな」


 他にも簡易なテーブルや焚き火台、そして焚き火に火を灯す圧気発火器を取り出して、日が暮れてより静けさが深まる夜の森は、瞬く間に温かな焚き火の火が灯る癒しの空間となった。


「じゃ、飯にしようぜ。すぐ準備するからな」

「おおっ、飯だ飯! 早く食いたいぞ!」

「はしゃぐんじゃないよ、ハルヴァ」


 嘉人は【在庫】からボーン・ボアとフォレスト・バイソンの肉を山盛りで取り出した。


 他にも、まだ食べていない脂蝋樹の実やデルタ・ポテトも取り出す。

 引越祝いも兼ねて、今日くらいは豪華にいこう。


 周囲の静かさとは裏腹に、賑やかな夜の一時が過ぎていった。

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