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異世界QOL爆上げ生活 〜【万物在庫管理システム】を授かったので、不便なサバイバルを最適化する〜  作者: にのまえあゆむ


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第11話 ライディング・ユニット

 翌朝、嘉人はドアをガリガリ引っ掻く音で目を覚ました。どうやらシルヴィとハルヴァがやって来たらしい。

 嘉人は小屋の外へ出ると、すでに朝の光の中で待機していたシルヴィとハルヴァに声をかけた。


「おはよう。……約束の肉だよ」

「あら、ありがと」

「うはは、これだこれ!」


 昨晩のうちに焼き上げたまま【入庫】しておいた二匹用の肉を【出庫】させて運ぶと、待ちわびたかのようにかぶりつく。

 一心不乱に肉を食らう二匹を眺めながら、嘉人は手元のタブレットPCで【在庫】の確認を行うことにした。


「……ボーン・ボアの残在庫、約三百八十キロか」


 一頭分丸ごとの在庫は潤沢に見えるが、この巨猫たちが朝夕でこれだけの量を消費するとなれば、一ヶ月強で倉庫は空になる計算だ。


「供給源が確保できていない状況で一方的な出庫はまずいな。……なあ、シルヴィ、ハルヴァ」


 嘉人の呼びかけに、口の周りを脂で光らせたシルヴィが顔を上げた。


「何かしら? おかわり?」

「いや、今後の運用についての提案だ。あんたたちが森で見つけた獲物を、俺に一旦、預けてくれないか? 解体も調理も俺が『在庫管理』の一環として引き受けるよ」

「私たちが獲物を運んできたら、この美味しい肉にして返してくれるってこと?」

「ああ。不純物を取り除き、最高品質の状態で保管してやる。あんたたちは狩りに専念できるし、俺は安定した原材料を確保できる。どうだい?」


 ハルヴァが満足げに喉を鳴らした。


「うむ、儂らの狩りはいつも食べ残しが出るのが悩みだった。お主がすべて食えるようにしてくれるなら、無駄がなくていい」

「取引成立だな」


 嘉人は心の底から安堵し、深く息を吐いた。

 これでひとまず、在庫の枯渇によって二匹との契約が不履行になるリスクは回避できたと言っていいだろう。


「それじゃあ、今日は俺の分の食料も探しに行きたい。デルタ・ポテトとクリムゾンベリーの群生地まで、ハルヴァが連れて行ってくれる──で、いいんだよな?」


 嘉人が灰色の巨躯に目を向けると、ハルヴァは事も無げに喉を鳴らした。


「そういう約束だからな。儂の足ならすぐそこだ」


 ハルヴァがその場に伏せ、嘉人が乗りやすいように背を差し出す。

 だが、嘉人はすぐに飛び乗らず、少し考えた。

 ハルヴァの背は人が優に二人並んで座れるほど広いが、その表面は滑らかな長毛に覆われている。

 時速数十キロで不整地を跳ねる猛獣の背に生身でしがみつく……かなり無謀な行為だ。

 それは、シートベルトなしで走行中のトラックの荷台に乗るようなものだ。


「ちょっと待ってくれ。このまま乗っても途中で振り落とされそうだし、悪いが鞍を付けてもいいだろうか?」

「鞍? そんなもの、どこにある」

「すぐに作るよ」


 首を傾げるハルヴァを他所に、嘉人はUSCの【在庫】を開いた。


(以前から気になっていたんだ。ボーン・ボアを解体して肉と皮に分けられたのなら、この在庫にある『岩石』だって、同じように成分ごとに仕分けられるんじゃないかって。詳細にソートすれば、そこに含まれる鉄分や不純物も見えてくるはず)


 嘉人はタブレットを叩き、USCの【構成編集】階層のさらに奥底へと潜る。拠点構築時に一括入庫した岩石を選択し、フィルタリングをかけると、灰色のアイコンの裏側に隠れていた微量成分が数値となって浮き上がってきた。


(鉄分含有率、二.八%。微量でも分母となる岩石の量は膨大にある。これを集約して再結晶化させれば……)


 嘉人の思惑通り、『岩石』と表示されていたものが『鉄分』『ケイ素』『骨材』などの資源へと個別に分離された。


「よーし」


 これで念願だった鉄も入手できた。


(本来なら専用のプラントが必要なのに、データ上で金属まで持って行けるのは凄まじいな。有り難く活用させてもらおう)


 続けて【アセンブリ】を立ち上げた。ここからが本番だ。

 抽出した鉄をベースに、ハルヴァの激しい躍動を受け止める高剛性なメインフレームを設計する。同時に、脂蝋樹の樹脂から抽出した炭素成分を、衝撃吸収と軽量化を両立させた多層構造の外装パネルとして定義していく。

 画面の中で、無機質な数値が機能的な形へと収束していく。


(ハルヴァの骨格データに基づいたエルゴノミクス設計は当然として……問題は俺の『座り方』だ。ただ上に乗ってベルトで縛るだけじゃ、物流のプロとしては三流だぞ)


 嘉人は指を動かし、設計図を書き換えていく。

 平坦な鞍ではなく、フロントからテールにかけて身体を包み込むような深いU字型コックピットを構築。さらに、首の付け根の装甲を大胆に削り、タブレットが直接カチッと収まるスナップロック式のドックを設けた。アームのような余計な部品を削ぎ落とし、ハルヴァと一体化するための面の構造を選んだ。


(落ちないように縛るんじゃない。ユニットそのものに身体を嵌め込むんだ。これならハルヴァの負担も最小限で済む……!)


 嘉人はそのデータを保存し、既存の在庫リストへ反映させた。

 タブレットの在庫一覧に、新たな項目が追加される。


【新規在庫:ハルヴァ専用ライディング・ユニット】


 すべての作業は完了した。嘉人は迷わず【出庫】をタップした。


「よし、入庫登録完了。そして──【出庫】だ!」


 嘉人は【在庫】の中にあるライディング・ユニットを選択し、そのまま【出庫】する。

 ポーン、という澄んだ電子音。

 次の瞬間、嘉人の目の前の空間に、鈍い銀色のフレームと漆黒のシートが一体となったライディング・ユニットが現実の世界に姿を現した。


「おおっ! 今のはなんだ!? 魔法も使えんおまえがやったのか? どこから出したのだ!」


 やたらと興奮気味に、それでいて興味津々にあれこれ聞いてくるハルヴァの様子に、嘉人はついつい可笑しくて吹き出した。


「全部、この〝板〟のおかげさ。言っただろ? これは『命の次に大事なライフライン』だってな」

「うぅむ、人間というのは儂らの想像も付かんような道具を使いこなすものだな。実に興味深い」

「その好奇心の強さに甘えさせてもらうぞ」


 嘉人は、ハルヴァの分厚い毛並みの上でユニットの位置を微調整した。

 肩甲骨の動きを妨げず、かつ最も安定する重心位置。そこへ、脂蝋樹の繊維から精製した強靭なラッシングベルトを回し、バックルを固定する。


「どうだ? 窮屈じゃないか?」

「うむ、不思議なものだな。背負わされている感覚はあるが、重さを感じない。それに、儂の筋肉の動きをこの板が邪魔しないのは素晴らしいぞ」

「ジャストフィットするように設計したからな。んじゃ、背中に乗せてもらうぞ」


 嘉人はシートに身を沈め、重心を低く保ちながらフロントのグリップを力強く握りしめた。この構造であれば、ハルヴァがどれほど激しく跳躍しても、嘉人は衝撃を身体全体で受け流しながら、同時に目の前の画面で冷静にマッピングデータを追うことができる。


「よし。出発だ、ハルヴァ! まずはデルタ・ポテトの群生地に向かってくれ」

「うむ! しっかり掴まっていろよ!」


 ハルヴァが地を蹴った。

 刹那、嘉人の視界が一気に流れ出す。


(――はっ、速い……ッ!)


 喉の奥がヒュッと鳴るような、鋭い踏み込み。

 ハルヴァは岩場を跳ね、倒木を軽々と飛び越えて、道なき道を疾走する。

 生身なら一歩進むのも苦労する森林地帯を、ハルヴァは巨大な四肢で掴むように、圧倒的な速度で蹂躙していく。

 激しく揺れる視界の中で、嘉人は正面のホルダーに固定されたタブレットを凝視した。

 画面の中心には自機を示す矢印があり、その周囲一キロの地形が、まるで早送りされているかのように、猛烈な勢いで背後へと流れていく。


(一分足らずで、拠点周辺のマップデータが画面外に消え去ったぞ)


 嘉人はグリップを握りしめながら、刻一刻と変化する地形データと、画面端に表示される〝拠点からの累積距離〟を睨み続けた。

 数値はすでに十五キロ、十六キロと、これまでの徒歩生活では考えられなかった桁へと跳ね上がっている。


(シルヴィたちは『すぐそこ』と言ってたけど、信じなくてよかった……)


 改めてハルヴァの機動力に舌を巻いていると、不意に視界が開けた。


「着いたぞ。ここが、お主の言っていたデルタ・ポテトの山だ」


 嘉人の目の前には、深緑色の葉が重なり合い、地を埋め尽くすほどに実ったデルタ・ポテトの群生地が広がっていた。

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