第28話 守り切ったと思ったら世界中の封印が一斉に解けた
司令室に安堵の雰囲気が流れた。
スタッフたちの表情も緩む。
指揮官が各部隊に「防衛線を維持しつつ、交代で休息をとれ」と指示を出している。
何人かは司令室を出て行き、残ったスタッフはモニターの前やテーブルを囲んで、作業を続けている。
中には、談笑しながらコーヒーを淹れて飲んでいる者もいる。
拓にいさんと剛にいさんがその仲間たちといっしょに、座り込んで、楽しそうに笑っている様子がモニターに映し出されている。
他のモニターには、今まで戦って疲れ切っている者や、仲間と無事を喜び合っている者もいた。
ママはテーブルのスタッフと話し込んでいる。ママの顔にはまだ安堵の表情は見られない。
真一の隣で、アンジェリーナが「疲れた」と壁にもたれている。
――守り切ったんだ。――
おじいちゃんの死は無駄にならなかった。
――そうだ。おじいちゃんに報告しにいかなくちゃあ――
その時だった。
地面が大きく揺れた。
真一は、アンジェリーナを抱きしめ、座り込んだ。
コーヒーをこぼす者、立っていられず、壁にもたれる者、倒れ込む者までいた。
指揮官が「何が起こっている。すぐに報告しろ!」と叫んだ。
モニターには、慌てふためいている自衛隊、陰陽師たちが見えるが、変わった様子はない。
山々も変わりなかった。
「東の方面、異常なし」
「北側も異常ありません」
「南の方面も異常ありません」と報告が入る。
スーツを着た男に電話が入る。
ママに聞いたが、スーツを着ている男たちはパパの会社の人らしい。
男は前に出ると、モニターの前にいるスタッフに命令する。
「世界中にある我々の観測モニターにつなげてくれ!」
すべてのモニターが次々切り替わっていく。
最初に切り替わったモニターには海、アメリカ東海岸の都市が映っている。
海の中から、何かが立ち上がった。
人間の形をしていない。魚のような顔に、ぬめった緑灰色の肌、人間の何十倍もある巨体。水しぶきを上げながら、海からゆっくりと陸に向かっている。
都市のビル群が、その巨体の前では模型のように見えた。
「ダゴンだ……」と誰かがつぶやいた。
別のモニターには、ヨーロッパの石造りの古い街並みが映っていた。
空から火が降ってきた。
街の上空に、翼と蛇の体を持ち、口から炎を吐く獣が旋回している。建物が次々と燃え上がり、人々が逃げ惑っている。
「まさか、キメラか……」
「ギリシャ神話に出てくる? あのキメラか……」
次に切り替わったモニターには中国の広大な平野に、四つの影が立っていた。
「四凶だと……」
さらに、最後に切り替わったモニターには、北欧の雪原が映し出された。
そこには雪原を駆ける巨大な狼、フェンリルがいた。その体は山脈のように長く、走るたびに大地が揺れている。口を開けると、吹雪が渦を巻いて周囲を飲み込んだ。
司令室が静まり返っていた。
さっきまでの歓喜が、凍りついたように消えていた。
指揮官が声を絞り出して、叫んだ。
「各国の状況を確認しろ」
スタッフたちが慌てて通信機器に向かう。
断片的な報告が飛び交い始めた。
「北米東海岸、避難命令が出ています。軍が抗戦中です」
「ヨーロッパ方面、複数の都市で火災。航空戦力が投入されていますが、効果が……」
「中国方面、連絡が取れません」
「北欧も同様です」
ママがモニターの前に立っていた。その顔から表情が消えていた。
「封印が解けている」とママが言った。
「世界中の封印が、同時に」
赤いサイレンが回り、警告音が鳴る。
「どうした?」
「和歌山からこちらに向かって、大規模な反応を検知しました」
司令室の全員が、モニターを見た。
大空を埋め尽くす影がこちらに向かってくる。
先ほどの戦いとは攻めてくる数が比べものにならない。
さっきの戦いは、前哨戦に過ぎなかったのか。今度はまるで総力戦に見える。
司令室の明かりが突然、消えた。
暗闇の中、悲鳴が聞こえる。
再び明かりが灯ると、いつの間にか入り込んでいた異形の者たちが、スタッフを襲っていた。
司令室は突然のことでパニックに陥ったが、武装していた者たちがすぐに応戦する。指揮官も自ら銃を撃った。
ママが、真一とアンジェリーナの前に立って、二人を守ってくれる。
異形の者たちはほどなく全滅したが、こちらも犠牲者が何人か出た。
ママが陰陽師の者に叫んだ。
「封印は? 結界はどうなっている?」
陰陽師の一人が答えた。
「機能していません。むしろ、消失しています」
「まずいわね」とモニターの前に進み、
「本堂はどうなっているの?」
モニターに映った光景は、悲惨なものだった。
お寺の前の防衛陣は、すでに崩壊していた。
戦車や特殊車両は破壊され、多くの人の死体が転がっている。
その中を異形の者たちが歓喜していた。
本堂が映ると、本堂も倒壊していた。
地鳴りのような咆哮が聞こえる。
モニターには、山よりも高いサタンが雄叫びをあげていた。
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