表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/33

第28話 守り切ったと思ったら世界中の封印が一斉に解けた

 司令室に安堵の雰囲気が流れた。


 スタッフたちの表情も緩む。


 指揮官が各部隊に「防衛線を維持しつつ、交代で休息をとれ」と指示を出している。


 何人かは司令室を出て行き、残ったスタッフはモニターの前やテーブルを囲んで、作業を続けている。


 中には、談笑しながらコーヒーを淹れて飲んでいる者もいる。


 拓にいさんと剛にいさんがその仲間たちといっしょに、座り込んで、楽しそうに笑っている様子がモニターに映し出されている。


 他のモニターには、今まで戦って疲れ切っている者や、仲間と無事を喜び合っている者もいた。


 ママはテーブルのスタッフと話し込んでいる。ママの顔にはまだ安堵の表情は見られない。


 真一の隣で、アンジェリーナが「疲れた」と壁にもたれている。


――守り切ったんだ。――


 おじいちゃんの死は無駄にならなかった。


――そうだ。おじいちゃんに報告しにいかなくちゃあ――


 その時だった。


 地面が大きく揺れた。


 真一は、アンジェリーナを抱きしめ、座り込んだ。


 コーヒーをこぼす者、立っていられず、壁にもたれる者、倒れ込む者までいた。


 指揮官が「何が起こっている。すぐに報告しろ!」と叫んだ。


 モニターには、慌てふためいている自衛隊、陰陽師たちが見えるが、変わった様子はない。


 山々も変わりなかった。


「東の方面、異常なし」


「北側も異常ありません」


「南の方面も異常ありません」と報告が入る。


 スーツを着た男に電話が入る。


 ママに聞いたが、スーツを着ている男たちはパパの会社の人らしい。


 男は前に出ると、モニターの前にいるスタッフに命令する。


「世界中にある我々の観測モニターにつなげてくれ!」


 すべてのモニターが次々切り替わっていく。


 最初に切り替わったモニターには海、アメリカ東海岸の都市が映っている。


 海の中から、何かが立ち上がった。


 人間の形をしていない。魚のような顔に、ぬめった緑灰色の肌、人間の何十倍もある巨体。水しぶきを上げながら、海からゆっくりと陸に向かっている。


 都市のビル群が、その巨体の前では模型のように見えた。


「ダゴンだ……」と誰かがつぶやいた。


 別のモニターには、ヨーロッパの石造りの古い街並みが映っていた。


 空から火が降ってきた。


 街の上空に、翼と蛇の体を持ち、口から炎を吐く獣が旋回している。建物が次々と燃え上がり、人々が逃げ惑っている。


「まさか、キメラか……」


「ギリシャ神話に出てくる? あのキメラか……」


 次に切り替わったモニターには中国の広大な平野に、四つの影が立っていた。


「四凶だと……」


 さらに、最後に切り替わったモニターには、北欧の雪原が映し出された。


 そこには雪原を駆ける巨大な狼、フェンリルがいた。その体は山脈のように長く、走るたびに大地が揺れている。口を開けると、吹雪が渦を巻いて周囲を飲み込んだ。


 司令室が静まり返っていた。


 さっきまでの歓喜が、凍りついたように消えていた。


 指揮官が声を絞り出して、叫んだ。


「各国の状況を確認しろ」


 スタッフたちが慌てて通信機器に向かう。


 断片的な報告が飛び交い始めた。


「北米東海岸、避難命令が出ています。軍が抗戦中です」


「ヨーロッパ方面、複数の都市で火災。航空戦力が投入されていますが、効果が……」


「中国方面、連絡が取れません」


「北欧も同様です」


 ママがモニターの前に立っていた。その顔から表情が消えていた。


「封印が解けている」とママが言った。


「世界中の封印が、同時に」


 赤いサイレンが回り、警告音が鳴る。


「どうした?」


「和歌山からこちらに向かって、大規模な反応を検知しました」


 司令室の全員が、モニターを見た。


 大空を埋め尽くす影がこちらに向かってくる。


 先ほどの戦いとは攻めてくる数が比べものにならない。


 さっきの戦いは、前哨戦に過ぎなかったのか。今度はまるで総力戦に見える。


 司令室の明かりが突然、消えた。


 暗闇の中、悲鳴が聞こえる。


 再び明かりが灯ると、いつの間にか入り込んでいた異形の者たちが、スタッフを襲っていた。


 司令室は突然のことでパニックに陥ったが、武装していた者たちがすぐに応戦する。指揮官も自ら銃を撃った。


 ママが、真一とアンジェリーナの前に立って、二人を守ってくれる。


 異形の者たちはほどなく全滅したが、こちらも犠牲者が何人か出た。


 ママが陰陽師の者に叫んだ。


「封印は? 結界はどうなっている?」


 陰陽師の一人が答えた。


「機能していません。むしろ、消失しています」


「まずいわね」とモニターの前に進み、


「本堂はどうなっているの?」


 モニターに映った光景は、悲惨なものだった。


 お寺の前の防衛陣は、すでに崩壊していた。


 戦車や特殊車両は破壊され、多くの人の死体が転がっている。


 その中を異形の者たちが歓喜していた。


 本堂が映ると、本堂も倒壊していた。


 地鳴りのような咆哮が聞こえる。


 モニターには、山よりも高いサタンが雄叫びをあげていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

よろしければ、評価・ブックマークをいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ