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第27話 悪魔の屋敷でお茶をいただいたら天界への杖を渡された

「さあ、どうぞ、どうぞ、お入りください。狭くて申し訳ありませんが、おくつろぎなさってください。


はい。そちらに座っていただければ、すぐにお茶をご用意します。


もう何百年も人間界に行かなかったばかりに、こんなにお茶菓子が進化しているとは思いませんでした。


本当にいいお店を紹介していただきました。


もう、あの店に入った瞬間の、あの甘い香りに私はもう虜になりました。


こんなことなら、時々、人間界に行くのもいいですね。


あら、お湯が沸いたみたい。ちょっとお待ちください。


お茶菓子は好きなものをとって、お召し上がりください。


できれば、チョコレートでくるんであるフィナンシェは残していただきたい。


いえ、無理にとはいいません。できればの話です。


どうぞ、なかなか手に入らない茶葉なんですよ。


お口に合えばよろしいのですが。


そうですか、それはよかった。


では、私もいただきましょう。


うーん。これは美味しい。


私が言うのも何ですが、この豊かなアロマとフルーティーな風味がたまりません。


では、私もこのお菓子を一ついただきましょう。


これはお茶に合いますね。しつこくない甘さと芳醇なコク。良いお店を紹介いただきました。


それではと。わざわざ私を召喚した理由をお聞きしましょうか?


ご子息のこと。ええ、存じ上げております。こちらの世界でも話題になっています。


神がご子息に何をさせようとしているのかですか?


うーん。そうですね。


天使の言葉を借りれば、『神々の御心を、我々ごときが推し量ることはできないのです』


悪魔の言葉で言うと、『神がそんなもの、教えてくれるもんか』ってところですか。


眠れる神ですか。


そうですか、ガブリエルがそこまで。


ご存じのはずですよ。


アイルランドの……誰でしたっけ。あの方が書いたもの、すべてが絵空事ではないんですよ。


他には?


神との賭けですか?


また、人間を賭けの対象にしているのではないかと。しかも今回は、あなたのご子息を。


痛いところを突きますね。それは言えません。賭けのルールに反しています。


そうですね、賭けについて話せることがあるとすれば、私が楽しんでいるということです。何百年ぶりですから。あの方もなかなか楽しませてくれました。おっとすいません。これはいけません。あなたの気持ちを察すれば、言葉が過ぎました。お許しください。


でも、忘れていませんか、これでも私は悪魔なんですよ。


では、今度は私から質問させてもらいましょうか?


これから、あなたはどうするつもりですか?


ですよね。詰んでいますよね。


では、私から提案があります。ちょっとお待ちください。


さて、ここらあたりにしまっていたと思うのですが……違いますね……そうだ……ここだ、やっぱり。ありました。ありました。


これが、アエネアスの杖です。ご存じですか?


そう。これで、あなたは天界への許可が得られるのです。


なぜ、あなたにお渡しするのかって?


それは言えません。


神のご意思ですかって?


『神がそんなもの、教えてくれるもんか』です。


もう行かれたほうがいいですね。あまり時間はなさそうです。


方向ですか?


悪魔界に地図はございませんし、道案内をする者もいません。ただ、感じるままに進めば、自ずと目的地にたどり着くでしょう。ここは、そういうところですから。


それでは、お気をつけて。


また、お会いできる日を楽しみにしています」


◇◆◇


 真行はメフィストフェレスの屋敷を後にした。


 細くて、切れそうな糸を辿り、ここまでやってきた。といっても光明が見えたわけでもない。まだ暗闇であがいているだけのように思える。


 それでもわずかな光である。


 それが、今、手にしている黄金の杖「アエネアス」だ。


 まるで重さを感じず、淡い光を放っている。温かくもなく、冷たくもない。


 紛れもなく天界の神器であり、冥界を経て天界へと向かった英雄の名に由来する通行証だった。


 真行は歩き始めた。


 足元は乾いた土だった。空は暗く、星もなかった。風はないのにほこりが舞っている。音のない世界だった。


 地平線まで何もない。枯れた大地がどこまでも続いている。


 空気が乾きすぎていて、息を吸うたびに喉の奥がざらついた。


 悪魔界。


 メフィストフェレスの屋敷を出た瞬間から、そこに立っていた。境界はなかった。扉をくぐったわけでもない。振り返ると、屋敷はもうどこにもなかった。


 手の中のアエネアスだけが、微かに光っている。その光がわずかに揺れて、真行の進む方向を示しているようだった。


 感じるままに、ただ歩いた。


 どれほど歩いただろう。時間の感覚はなかった。悪魔界には太陽がなく、暗さにも変化がない。歩いても足が疲れる感覚もなかった。


 遠くに二つの影が見えた。


 近づくと、人間より一回り大きい体に、灰色の肌、裂けた口を持つ、翼のない悪魔たちだった。


 二匹の悪魔が真行の前に立ちはだかった。


「人間だと? なぜ人間がここにいる?」


 低く、しわがれた声だった。


 真行は無視して二匹の悪魔の間を通っていく。


「てめえ!」と一匹の悪魔がとがった爪を向けてきたが、刹那、その悪魔の上半身を吹き飛ばした。


 もう一匹の悪魔は怖くなったのか逃げだそうとしたが、逃がすわけもなく、同じように上半身を吹き飛ばす。


 真行は歩き続けた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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