第18話 死にかけたボクの体から護符があふれて牛鬼を喰らった
アンジェリーナは、二匹の牛鬼の動きを止めていた。
それぞれの牛鬼に片手を伸ばし、重圧をかけている。
残念なことにアンジェリーナの重圧では、動きを止めることはできても、倒すほどの殺傷力はない。
いつもは無邪鬼と連携し、牛鬼を倒していた。
ところが、無邪鬼が急にいなくなった。
――あのチンチクリン! どこ行った!――
動きを止めていた牛鬼が少しずつ動けるようになってきている。
――ああ、無理――
アンジェリーナは牛鬼への重圧を解いて、走り出した。
牛鬼たちが追いかけてくるのがわかる。
とがった爪で地面を削る音が近づいてきているのだ。
アンジェリーナは屋上の縁から飛んだ。
飛ぶとき、下に向けて重圧を飛ばす。その勢いでアンジェリーナは空高く飛んだ。
牛鬼たちが止まり切れずに、屋上から飛び出してしまうのが見える。
その牛鬼たちに向けて、力を込めて重圧をかけた。
牛鬼たちは、落下と重圧で勢いよく地面に叩きつけられた。
アンジェリーナは、叩きつけられた牛鬼に向かって落ちていく。
落ちている途中に、無邪鬼を見つける。
――あんなところにいたのか――
無邪鬼の近くに真一もいた。
突然、真一の足元から牛鬼の爪が伸び、真一の体を削りとった。
「真一!」
アンジェリーナは、着地前に地面に重圧をかけ、衝撃を減らして、降り立つとすぐに駆けだした。
◇◆◇
アンジェリーナが真一に駆け寄り、抱きかかえる。
真一の名を呼んだ。
応答はなかった。アンジェリーナは真一を抱きしめた。
牛鬼との戦闘は続いていたようだが、急に静かになった。
カランと乾いた音がした。
目の前に刀が落ちていた。
見上げると、美夜子が立ち尽くしている。
「真一……」
美夜子が真一を見ながら座り込んだ。
無邪鬼が美夜子の肩をさすっている。
校内にいた牛鬼たちが集まってくる。
美夜子は刀を拾い、立って、攻めてくる牛鬼に身構えた。
そのときだった。
アンジェリーナの腕の中で真一の体が動いたのだ。
削りとられた頭部の傷口から、何かが生えてきた。
血に染まった紙片だった。よく見るとそれは護符だった。
一枚。二枚。三枚。傷口から護符が次々と生えてくる。花が開くように、護符が重なり合いながら、頭の削りとられた部分を補っていく。
左腕の断面からも、護符が噴き出した。
肩から先を護符が覆い、腕を形作っていく。指の一本一本まで、護符が重なり合って再構成されていく。
護符はまるで生きているようだった。
「真一?」
アンジェリーナは真一の体を静かに地面に寝かせた。
美夜子と無邪鬼は牛鬼と対峙していたが、真一が気になっている様子だった。
真一はすくっと立ち上がった。
真一の頭と左腕の護符が蠢いている。
真一は護符に覆われた左腕を高く上げた。
左腕の護符が高く空を舞い上がっていく。
護符は一定の高さまで昇ると、四方に拡散した。
まるで意志を持った群れのように、護符は校内全体に広がっていった。
◇◆◇
校庭で暴れていた牛鬼たちが、異変に気づいた。
着物を着た老人は一目散に逃げ出した。
空から白い紙が降ってくる。
一匹の牛鬼が、護符を振り払おうとした。しかし護符は牛鬼の体に張り付き、剥がれなかった。一枚が張り付くと、次の一枚が重なる。そして次。さらに次。護符が牛鬼の体を覆い尽くしていく。
牛鬼が咆哮した。体を振り、足を踏み鳴らし、暴れた。だが護符は剥がれなかった。むしろ、暴れるほどに護符の数が増えていく。
護符に覆われた牛鬼の体が、縮み始めた。
巨大な体が小さくなり、形を失い、黒い霧に変わっていく。その霧をも護符が包み込み、真一の体に向かって戻っていく。
護符は、真一の体に取り込まれていった。
校庭の牛鬼が次々と護符に捕らえられ、真一の体に取り込まれていく。
真一はただ無表情な顔で護符とともに牛鬼を取り込んでいった。
数分もしないうちに、すべてが終わった。
校内に牛鬼はいなくなった。
最後の一枚の護符が真一の体に戻ったとき、真一は糸が切れたように倒れた。




