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分闇のハコ  作者: 西村薫


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第六章 エルキヴァート通り

『分け闇のハコ』第六章です!

魔法世界をハコに教えるために向かった、

エルキヴァート通りに到着します。

お楽しみ頂ければ幸いです♪

 ハコを真ん中にして、三人はエルキヴァート通りを目指して、広い街道を歩いていた。歩きながら、ハコは首を左右に動かして、辺りを不思議そうに見ていた。

 アルケミーに魔法世界を勉強しようか? と言われた時、ハコは特に反応せず、その後のアイスとアルケミーのやりとりも、話している方に顔を向けたりはしていたが、自分に関係あると理解できず、すぐに興味をなくして食べ終わった食器をスプーンで鳴らして、遊び始めた。

 それを止めてアルケミーは少し思案し、ズボンの深いポケットの中から、靴を取り出した。それは、ハコの数少ない荷物ーたまに外に出る際に履いていた、汚れて潰れて平たくなった、穴だらけのバンのおさがりーだった。それを見せながら、アルケミーは言った。

「外行こう?」

 すると、ハコは立ち上がって、靴を貰いに来た。アルケミーが、ハコに靴を渡すのを見ながら、アイスは呟いた。「… お前、すごいじゃん」

「いえ。ここに来る前、ヒル氏達を尋問してハコのことを聞いたんです。… まともな教育は殆どしてなくて、人前には出す機会があったから、外に出るために必要な事とかは教えたそうです…着替えだとか、靴を履くとか。物を見せながら、短い単語で説明して教えたら、分かると話してました。ただ、おそらく今のハコが、それが何か分かっている物、理解している単語は、『靴』、『服』、『ご飯』、『外に行く』ぐらいしかないと思うって言ってました…12年生きて来て、それぐらいしか、この子は世界を知らないんですよ」

 アイスは、ハコに食器やスプーンで遊ばない注意し、食器を重ねながら言った。「もう、あいつらの話はやめよう。腹立って体に悪りぃ。これからのことを考えようぜ!改めて、俺らが世界を教えたらいーんだよ。つーか、ちゃんと分かって動けるなんて、クソ偉いじゃん。頭いいなぁ、すごいなぁ、ハコ〜」と、アイスはハコの頭を撫で、ウリウリと両手で頬を挟んで揺らした。それに対して、ハコは笑ってやり返した。

 二人のやりとりを、アルケミーは微笑みながら見ていた。アイスのハコ溺愛っぷりは既にすごいものになっていて、褒め言葉は段々と壮大になっていき、やがて、もはや褒めるとかじゃなく、響きと勢いで言ってないか?という境地にまで行きついた。あなたの軟骨チョモランマ!

 こいつ、訳わかんねーな、と思いながらも口にはせず(子育てのパートナーは怒らせないに限る)、アルケミーは言った。「そうですね。なら、勉強しに、早速出かけましょう!」

 こうして、現在に至った三人である。アイスとアルケミーは、ハコが外の明るい世界を歩くことを怖がる可能性も考えていたが、その心配は無いようだった。ハコは、世界を怖がるより面白がっているようだった。二人は、ほっとして顔を見合わせた。よかった、問題なさそうですね。なー。

 二人が視線をハコがいた所に移すと、ハコは居なくなっていた。驚いた二人が周囲を見渡すと、ハコは一目散に走り出していたー運転中の車の車輪に向かって。

「「うわァァァ!テレポーション!」」二人は叫んで瞬間移動し、車道に出ようとしたハコを捕まえて止めた。「あぶねーことをすんな!」と、アイスが怒鳴る。

 すると、ハコは顔を真っ青にして震え出し、泣き出しそうになりながら、頭を手で抱えてしゃがみ込んだ。顔は膝に埋め、そのまま動かずにいた。その小さなまん丸丸を見たアイスは、即座に抱きしめた。

「… 殴んないよ。おこっ…てはいるけども。あのな、ハコ…あれは…」 

 丁寧に、短い言葉で説明するアイスを見ながら、 アルケミーは歯軋りをし、不用心さを反省した。ハコは、「危ないこと」を知らないのだ。気づくのが遅かったら、命の危険もあった。アンやブライスの子供、自分達の宝物が、死んでいたかもしれないのだ。それはアイスも感じているようで、ハコの背を撫でる手が震えていた。「… アイスさん。手を繋ぐか、ハコを抱っこして歩きましょう。俺たちは、まだこの子を離した状態で、世界を教えられない未熟者です」と、アルケミーは言った。アイスは、抱き上げることでそれに答えた。

 アイスに抱き上げられたハコは、驚いた顔をしたが、アイスの腕の中で、段々と落ち着いて行った。木箱にいた際、出される時にバンに抱き上げられることはあったが、いつも痛かった。それに、バンからは、なんだか嫌な匂いがしていて、それを嗅がないよう、ハコは息を詰めていた。

 あいすは、痛くない。いい匂いがする。ハコはそう思った。色んな匂いが混ざっていたが、一番強く感じたのは、朝ご飯で一緒に食べたベーコン炒めの匂いだった。… 一人でごはん食べなかったの、はじめて。視線をあげたら、あいすや、あるけみーが笑っていた。… ずっとふたりといたいな、とあいすは思った。

そんなまほーは、ないのかな?すると、「着いたよ、ハコ」と、あるけみーの声がした。

 気づくと、三人は地下道に続く階段の前にいた。三人以外の人達が中に入って黄色の階段を降りていき、道路を挟んだ向かいの階段から上がってきていた。それを見たアイスは、アルケミーに質問した。「…どうすんだったっけ?」 アルケミーは溜息をついた。「アイスさん…行き方、忘れちゃったんですか?魔法騎士の買い物でも、エルキヴァート通りには行くでしょうに…まさか、無理矢理後輩に買い物に行かせて…?」

「はぁ!? んなことしてねーわ!あいつらが率先してやってくれるんだよ!お前、俺は若く見えるけど、アンとブライスと同い年、つまり魔法騎士団の古株だってことを忘れたのか!俺らくらいの年じゃ、物忘れだってするの、悲しいけども!!」

「…ああ、そうでした。威厳ないから、つい年の近い先輩に思え…アイスさん、拳を下ろしてください。ハコの前で暴力はやめましょう」

「おぉ、つい… つーか、早くやれよ。」

 そう言われたアルケミーは、膝を曲げて、つま先で地面を3回叩いて呟いた。「パラレル」

 すると、地下通の階段が動き出し、段差がへこんで平らになり、黄色の坂になった。まるで滑り台のようだったが、すぐに滑れなくなったー色が黄色から黒に変わり、新しく階段が出来たのだ。

「行きますか。ああ、先輩。心配しなくても、人間が入ってもエルキヴァート通りのことはバレませんよ。人間にとっては、ただの地下道のままです。俺らだけに繋がった魔法世界ですから」

「…それは覚えてるよ!」と、アイスは返した。

 三人は、黒い階段を降りていった。階段が無くなると、木で出来た扉があった。扉の上には、「エルキヴァート通り」と刻まれた石板が付けられていた。扉を開けるのは、ハコに任せられた。ハコは、扉を開けた。

 扉の先には、広い商店街があった。地下道の天井はなく、青空が広がり、妖精達が飛び交っていた。ユニコーンが馬車を引き、エルフやドワーフといった、人間ではない種族もいた。小さな子やその親たちが、たくさん並んでいる店に入ったり出たり、ショーウインドーに飾られた商品を見て会話をしていたりした。黒い服やとんがり帽子を売る店、箒を売る店、使い魔の動物を売る店などから、様々な言葉が飛び交う。

「まぁ、おたくの子は、魔法騎士になるんですの?」

「ええ、ラススヴェート学園に行くんです。うちじゃこの子が初めて行くもんだから、準備が一からで!」

「お下がりを使えないのは、痛いわね。うちは魔法学校で魔法を習うのよ。お兄ちゃんたちもいるし」

「なぁ、あれ最新の箒じゃないか!さらに細くなって軽くなったってさ…げっ、たっけー!!」

「欲しいなぁ… ねぇ、ママ」「だめ!高すぎる!」

「ねぇ、本当にヒキガエルでいいの?フクロウとか、猫とかもいるのよ」「一番可愛いじゃない!」

 これが、エルキヴァート通りー人間界と魔法世界の境目にある、かの元人間でありながら、絶大な魔力で君臨した絶対王ラススヴェートの人間としての名を拝借した場所ーであり、ここからハコは魔法世界に足を進めたのである。

 

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