第二章 魔法騎士団の願い
『分闇のハコ』第二章です!
『魔法騎士団』の面々が登場します。彼らの願いとは…。お楽しみ頂ければ幸いです♪
誰かが喜んでいる時、陰で誰かは悲しんでいる。
『闇の王』が封印された日も、それは例外では無かった。
ヒル氏に任務が告げられた数時間前のこと。黒ずくめ衣装を着た、とんがり帽子を被った者達で、魔法世界は賑わっていた。その出立ちは、魔法は使えるものの、それを利用して戦うことを生業としない者達の証だった。彼らは、やっと訪れた平和を思い、笑って泣いていた。そして、平和をもたらしてくれた者達への感謝を捧げようと思い、連れ立って集まっていたのであるー『魔法騎士団』の基地前へと。
大勢集まった魔法使い達を、『魔法騎士団』の者達は窓から見下ろしていた。彼らの表情は険しく、とても勝利を喜んでいたり、浮かれているような様子は無かった。ふと、誰かが舌打ちをする音がした。
「おやめなさい、アイス」亜麻色の美しい髪を三つ編みにして頭に巻きつけた老女が嗜めた。
「みんなは、我々に、お礼を言いに来たのですよ」
嗜められたアイスー背が高くて痩せており、真っ白な顔と髪の青年ーは、自らの赤い目を更に赤くするように、全身から怒りを立ち上らせながら言い返した。
「お礼?どれほどの犠牲を出しているかを知らずに、我々を無能だなんだの言ってきた奴らが、手のひら返しで感謝してきても何も嬉しく無いですよ。今日だって、『闇の王』が封印された代償に…!」
「アイス!」と、亜麻色の髪の老女ーマホガニー夫人は遮った。「我々『魔法騎士』が、何のための存在か忘れたのですか。我々『魔法騎士』は、魔法世界の平和と、非戦闘員である魔法使い達を守るために、どんなに犠牲を出しても勝つまで戦う魔法使いです。今まで勝てず、守るべき非戦闘員の魔法使い達にも多くの被害を出してきた我々は、非難されて当然だったのです。それに、あなたの今の振る舞いは、アンやブライスを、喜ばせるものだと思いますか?」
アイスは、下唇を噛み締めた後、言い返そうと再度口を開いた。しかし、言葉を発することは出来なかった。『魔法騎士団』団長ージェム団長が部屋に入ってきたのだ。
ジェム団長は、高潔な人格と素朴な気持ちを持つ、永遠に歳を取らない心を持った稀有な老人である。髪は真っ白で、綺麗に剃った顔には、これまでの苦悩が皺となって刻み込まれており、永遠の若さを宿した、宝石のような眼は時にはおかしげに踊るものの、亡き戦友達を思い翳りもした。
団長は、戦闘によって右腕を無くしていた。彼の左腕が抱えているのを見たアイスは、目を見開き、急いで駆け寄って手伝った。「なに、一気に抱えてるんですか!落としたら、どうするんです!」アイスは団長を叱り飛ばした。アイスの後をついてきたマホガニー夫人や他の魔法騎士達も、団長を取り囲んで嗜めた。 すまん、みんなに早く見せたくてな、と団長は謝った。「… みんな。同胞であるアンと、ブライスが錬金術によって生み出した『分闇の箱』じゃ。力を五つの箱に分けて封印するという、同じ名前の魔法から着想を得た錬成の代物じゃ。二人は、『闇の王』封印の為に、錬金術師としての力や知識を培い、『分闇の箱』という答えに辿り着き、今日実行したのじゃ。そして、見事封印したのじゃよ… 『巨大な力を封印できる箱』を錬成する対価として、自らの命を犠牲にしてな…ワシは反対したが、聞かなんだ…最期まで、ワシの言うことを聞かん頑固な夫婦じゃった…」団長は涙を流しながら、腕の中の、『箱達』をきつく抱きしめた。
それを見た周囲の者達も、アンとブライスのことを思い、泣き始めた。泣き声や鼻を啜る音などが飛び交う中で、アイスは『箱達』を涙に濡れた顔に笑みを浮かべて、優しく撫で続けた。親友達の形見達を、一目みてアイスは愛した。アイスは、団長に質問した。
「それで、これからはどうする気なんですか?」
団長は、頷いた後に答えた。「人間界に住む、名家の封印師達に、別々に預けて見守って貰う予定じゃ。封印の専門家に見てもらう方が安心じゃて。仮に封印が解けても大丈夫な仕組みが、我々はまだ確立できていないからな。それに魔法世界には『闇の王』の残党達がまだウヨウヨおる。そいつらが『闇の王』復活のために『箱達』を狙う可能性が高いからの。そいつら全員を捕らえ終わるまでは、人間界で見守って貰った方がよいじゃろうて」
「… そうですね。それが良いですね」と、アイスは答えた。それじゃあ、しばらくは会えないな…。アイスは『箱達』を抱きしめて言った。
「またな、大事にしてもらうんだぞ」
それは、『魔法騎士団』全員の願いだった。




