第66話 設計者
白曜宮・東塔の書庫。
この場所は静かだった。
議場とは違う。
ここには政治の喧騒はない。
古い法典。
戦史。
経済記録。
王国の歴史が並んでいる。
私は一冊の帳簿を閉じた。
「まだ働いているのか」
後ろから声がする。
振り向くとレオポルドが立っていた。
王太子として復帰してから、彼は忙しい。
それでも時々ここへ来る。
「制度は作った後が大変です」
私は答える。
「動き始めると、必ず歪みが出ます」
彼は棚を見渡す。
「国家も同じだな」
沈黙。
「私は政治をしている」
彼は言う。
「だが君は違う」
私は首を傾げた。
「どう違います」
彼は少し考える。
「政治家は今日を動かす」
「だが君は」
一冊の本を取る。
「明日を設計している」
沈黙。
「制度」
「金融」
「地方構造」
「すべて繋がっている」
彼は本を閉じる。
「普通の政治家はそんなことを考えない」
私は小さく笑った。
「考える時間がないのです」
「危機はいつも突然来る」
沈黙。
彼は言う。
「君はこの国に残るのか」
「半分」
私は答える。
「クラウゼン領があります」
「地方が崩れれば国家も崩れます」
「だが」
私は続ける。
「協議院にも関わります」
彼は少し笑う。
「忙しい女だ」
「設計者はそういうものです」
沈黙。
書庫の窓から王都が見える。
市場の灯り。
議会の灯り。
そのすべてが繋がっている。
レオポルドは静かに言う。
「歴史書はどう書くだろう」
私は少し考えた。
「王太子が国家を改革した」
「そう書かれます」
彼は首を振る。
「違う」
「国家が変わる準備をしていた」
沈黙。
「そして」
彼は続ける。
「一人の女が設計図を描いた」
私は本棚を見る。
歴史書はいつも英雄を書く。
だが。
制度を作る者は書かれない。
「それでいいです」
私は言う。
「制度は目立たない方が長く続きます」
レオポルドは小さく笑った。
「設計者らしい答えだ」
遠くで鐘が鳴る。
夜の王都。
国家は静かに動いている。
危機は終わった。
だが。
国家という仕組みは終わらない。
そして。
その設計図は、ここに残る。
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