第62話 暴かれる結社
白曜宮・大議場。普段の議会よりも、はるかに人が多い。
中央官僚、地方代表、軍部、そして王都銀行の幹部。さらにノルディア王国の外交団まで席に着いている。傍聴席には、王都の商会代表たちの姿もあった。
国家史上初めての公開監査。国家の帳簿を、身分の違う者たちが同じ卓で読む。ざわめきが、止まらない。
ガイウスが立ち上がった。
「暫定協議院による公開監査を開始する」
低く響く声だった。
「対象は王都金融市場、および主要債権組織」
沈黙。
「黒曜会」
その名前が出た瞬間、議場の空気が張り詰めた。
私は資料を開いた。戦時債権、外債、軍需貸付、市場操作。一枚ずつ紙をめくるたびに、数字が並んでいく。資金の流れ、貸付の経路。そして最終的な集約先。
「ヴァレンシュタイン金融会館」
ざわめきが広がった。カルドは席に座ったまま動かない。逃げも、抗議もしない。ただ静かに聞いている。自分の作った構造が読み上げられるのを、確かめるように。
私は続けた。
「黒曜会は、国家を破壊しようとしていません」
議場が静かになる。
「むしろ、国家を利用しています」
数字を示す。危機のたびに債権を拡大し、市場不安で利率が上昇し、国家が借りるほど利益が増える。
「恐怖の金融構造です」
「つまり」ガイウスが言う。「危機そのものが、利益だと」
「戦争が起きても儲かるわけだ」
レイスが低く呟いた。
私は頷いた。
「ええ。市場が揺れれば揺れるほど、黒曜会は強くなります」
傍聴席が騒ぎ出した。商人たちが顔を見合わせている。
その時、カルドがゆっくりと立ち上がった。議場が静まる。彼は落ち着いた声で言った。
「見事だ」
誰も答えなかった。カルドは私を見る。
「ここまで辿り着くとは思わなかった」
「反論は」
カルドは首を振った。
「事実だ」
ざわめきが走る。彼は続けた。
「だが、一つ誤解がある」
沈黙。
「市場は悪ではない」
静かな声だった。
「国家が巨大になりすぎた。だから我々が資金を供給する」
彼は議場を見渡した。
「君たちは理想を語る。だが国家は、金で動く」
沈黙のなか、私は答えた。
「だから、透明にします」
カルドの目が、わずかに動いた。
「国家が資金を借りるなら、公開市場で借ります。結社からではなく」
議場がざわめいた。それはつまり、黒曜会の独占構造そのものを壊すということだ。
カルドは少しだけ笑った。
「なるほど。市場を奪うのか」
「独占を壊すのです」
私は言った。
長い沈黙のあと、カルドは肩をすくめた。
「見事だ。黒曜会は解散する」
議場がどよめく。
「だが」
彼は続けた。
「市場は残る。資金も残る。そして危機も残る」
彼は私を見た。
「その時、君たちはどうする」
私は答えた。
「制度で守ります」
カルドは笑った。
「理想主義者だ」
そして静かに席を立ち、議場の出口へ歩いていった。誰も止めなかった。罪状はまだ一つも読み上げられていない。読み上げるべき法が、この国にまだ無いからだ。
黒曜会。その支配構造は、今、終わった。
沈黙の中、ガイウスが言う。
「公開監査の結果、黒曜会の市場操作を確認した。国家金融制度を、再設計する」
議場の空気が変わる。長い時代が、ひとつ終わる瞬間だった。
そして後方の席で、レオポルドが静かに言った。
「ここからだ」
国家再設計。
その本当の始まりが。
結社が崩れた議場へ、いちど降りた人が戻ってきます。
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