↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢にされたので辺境で領地改革していたら、いつの間にか国家の設計者になっていました ~断罪から始まる内政×金融×政治の国家再設計ファンタジー  作者: 白鷺ユウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/75

第49話 疑念の証拠

南方領主館・客間。机の上に、届いたばかりの帳票が広げられていた。


黒曜会名義の裏口座、外債の移動履歴、そしてローデル家の印。一見すれば、決定的な証拠に見える。


「……綺麗すぎますね」


私は静かに言った。南方領主が眉をひそめる。


「偽造か?」


「可能性があります」


改竄された帳簿と、同じ匂いがした。都合の悪いものだけが揃って出てくるときは、たいてい誰かが揃えている。本物の証拠は、もっと欠けている。


「黒曜会が、ここまで露骨な証拠を残すでしょうか」


沈黙が落ちた。


「だが何もしなければ、連合は割れる」


正論だった。私は深く息を吐く。


「三日以内に、真正性を確認します」


その夜、密かに王都へ伝書を出した。宛先は――アルベルト。


返答は早かった。「会う」とだけ書かれた短い文。


王都郊外、人気のない修道院。アルベルトは一人で現れた。


「大胆だな」


「時間がありません」


私は書類を差し出した。彼は黙って目を通す。


沈黙。やがて。


「偽物だ」


即答だった。胸の奥が、わずかに緩む。信じたい方に転ばずに済んだ。


「根拠は」


「印章の位置だ。ローデル家の正式文書は、必ず二重圧印になる」


私は目を細めた。


「では、黒曜会ではないと?」


「いや」彼は続けた。「黒曜会の下位構成員が暴走したか。あるいは、第三者が黒曜会を嵌めようとしているか」


「殿下は?」


「知らぬ」


即答だった。


「これは私の判断だ」


一瞬、私は彼を見つめた。


「なぜ協力するのです」


アルベルトはわずかに目を細めた。


「国家のためだ」


それだけだった。だが、本音はもう少し複雑なはずだ。


「黒曜会が暴走すれば、中央も崩れる。だが無実の者を処罰すれば、秩序も崩れる」


彼は続けた。


「お前は構造を見ている。私は均衡を見る」


静かな言葉だった。敵ではない。だが、味方とも言い切れない。


「証拠はまだ足りない」アルベルトは言った。「副頭取の動線を追え。隣国との接触記録もだ」


「南方の期限は三日です」


「二日で出す」


彼は踵を返した。去り際、振り向かずに言う。


「勘違いするな。私はお前の味方ではない」


「存じています」


私は答えた。


「ですが、国家の味方でしょう」


足が止まった。一瞬の沈黙のあと、彼は去っていった。


南方領、二日目の夜。追加の資料が届いた。副頭取の密会記録、隣国商会との不自然な資金移動。そして、ローデル家とは別の名前があった。


「……エルグレン商会」


南方領主が息を呑む。


「地方内の商会だ」


黒曜会の末端と繋がっている。つまり、手はもう地方の内側まで入り込んでいた。


「これが本命です」


私は言った。


「黒曜会は直接手を出しません。必ず中間層を使う」


南方領主は長く黙っていた。


三日目、会議室。


「連合は維持する」


その言葉には、重みがあった。


「だが、内部監査を強化する」


私は深く頷いた。


「当然です」


信頼は盲信ではない。検証だ。疑わずに済ませることを信頼と呼べば、次に同じ手で崩される。連合が続くのは、仲が良いからではなく、確かめ合う手順を持ったからだ。


夜、王都から書簡が届いた。差出人はレオポルド。黒曜会幹部の一部を、監査対象に指定した、とある。


静かに、戦線が引かれていく。中央と地方は、今のところ同じ方向を向いている。


だが、黒曜会はまだ沈黙している。


沈黙は、向こうが何もしていないという意味ではない。

沈黙している相手の形は、こちらの帳票の側に写っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。