第47話 公開監査宣言
白曜宮・大議場。通常よりも多くの貴族、商人、官僚が集められていた。
壇上には王太子レオポルド。その隣に大宰相ガイウス、そして私。ざわめきは、始まる前から止まらない。誰が呼ばれ、誰が呼ばれていないか。それだけで、この場で何が起きるかを読もうとしている。
「本日、国家財政に関わる重要事項を発表する」
レオポルドの声は低く、明瞭だった。
「王都銀行の一部帳簿に、改竄の疑いがある」
場内が凍りついた。
「現在、秘密裏に調査を進めている」
アルベルトの視線が、わずかに鋭くなった。
「さらに」レオポルドは続ける。「中央および地方の共同監査制度を設ける」
ざわめきが爆発した。共同監査。地方が中央を。怒号に近い声も混じる。
ガイウスが一歩前に出た。
「国家財政は、中央だけのものではない。地方もまた、国家である」
重い沈黙が落ちた。地方が中央の帳簿を見る。この国では、それは制度の話ではなく身分の話として受け取られる。
私は前に出た。
「地方は、中央を侵食するために参加するのではありません」
声を張った。
「国家の信用を守るために参加します」
一部の貴族が立ち上がる。前例がない、という言葉がまず出てくるのは、中身に反論できないときだ。
「前例がない!」
「秩序を壊す気か!」
アルベルトが静かに言った。
「殿下、拙速では」
レオポルドは振り向かなかった。
「拙速ではない」
その声は冷たい。
「信用を揺らしたのは誰だ」
沈黙が落ちる。
「国家の内部に問題がある可能性を、無視できぬ」
アルベルトは一瞬だけ黙った。彼が黙るのは、反対の理屈が見つからないときだ。それから静かに言った。
「それでも、地方を入れるのは危険です」
「危険でもやる」
レオポルドの言葉は断固としていた。この人は今、自分の側の帳簿も開くと言っている。
「透明性がなければ、国家は崩れる」
ざわめきは止まらない。それでも、方向は決まった。公開監査制度、発足。黒曜会にとって、これは最悪の一手になる。彼らの武器は秘密ではなく、誰も数えないという習慣そのものだからだ。
会議後の廊下で、アルベルトが私に近づいてきた。
「黒曜会を敵に回す」
低い声だった。
「覚悟はあるか」
「あります」
即答した。失うものの数なら、二年前に一度、全部数え終えている。
「あなたは?」
一瞬、彼の目が揺れた。
「私は国家側だ」
それだけ言って、彼は去っていった。味方ではない、と繰り返す人間が、二度続けて同じ側に立っている。
その夜、王都の一角。豪奢な館の地下室に、燭台の灯りが揺れていた。円卓を囲む影がいくつもある。
「……動いたな」
低い声だった。
「王太子が自ら刃を向けた」
黒衣の男が言う。
「地方の女が影響している。エリス・フォン・クラウゼン」
その名が、静かに響いた。
「排除するか」
「いや」
別の声が答える。
「利用する」
沈黙のあと、円卓に静かな笑いが広がった。焦りの色はどこにもない。彼らは制度が動く速度を、正確に知っている。
黒曜会。その影は、想像以上に深い。
王都の灯りの下。目に見えぬ手が、まだ動いている。
宣言した翌日から、足元のほうが割れ始めます。
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