第42話 設計図
白曜宮・客間。
机の上には、幾重もの草案が広がっている。
「地方協議院……」
ガイウスが、低く読み上げた。
「地方代表七名」
「中央官僚七名」
「議決は王太子承認制」
「中央の最終権限は維持されます」
私は答える。
「ですが、地方の提案は制度化される」
ガイウスは、静かに私を見る。
「野心的だ」
「現実的です」
彼は、数字に目を落とす。
「税収再分配率を三%調整」
「危機時の地方積立基金設置」
沈黙。
「中央の即応資金が減る」
「地方が安定すれば、中央支出は減ります」
ガイウスは、わずかに笑った。
「理屈は通る」
だがその目は、まだ試している。
「軍費はどうする」
「外交と軍事は中央専権」
「地方は経済強化に集中」
そこへ、扉が叩かれる。
書記官が慌てた様子で入ってきた。
「大宰相閣下」
「何だ」
「王都銀行本店にて、取り付け騒ぎが発生」
空気が止まる。
「規模は?」
「まだ限定的ですが……隣国商会が資金引き揚げを始めています」
ガイウスの目が鋭くなる。
「理由は」
「隣国ノルディアが、貿易関税引き上げを示唆」
「王都財政の不安定化を懸念しているとの噂」
私の背筋が冷える。
アルベルトの言葉が脳裏をよぎる。
――軍費削減の危険。
「噂は広がる」
ガイウスが、静かに言った。
「銀行の信用が揺れれば、国家は揺れる」
「地方連合は関係ありません」
私は即座に言う。
「今はな」
低い声。
「だが王都銀行が揺らげば、地方融資も止まる」
理解する。
これは、中央単独では対処が難しい。
「殿下は?」
「対応協議中」
沈黙。
ガイウスが、私を見る。
「エリス・フォン・クラウゼン」
「はい」
「お前の地方ネットワーク」
「流動資金はどれほど動かせる」
問いは突然だが、本質だ。
私は即座に計算する。
塩業。
鉄。
商人基金。
「短期なら、地方間融資で三割は補填可能」
ガイウスの目がわずかに動く。
「中央を支える、と?」
「国家は中央だけではありません」
私は、静かに言った。
「地方も国家です」
その瞬間、扉が開く。
レオポルドが入室する。
金の瞳は、冷静。
だが緊張を帯びている。
「王都銀行は持ちこたえる」
彼は言う。
「だが隣国の圧力は本気だ」
「外交交渉を?」
「進めている」
沈黙。
彼の視線が、私に向く。
「地方は動けるか」
試験ではない。
必要だ。
私は、迷わず答えた。
「動きます」
ガイウスが問う。
「条件は」
「協議院案の審議継続」
レオポルドの目が、わずかに細くなる。
大胆だ。
「国家危機を取引に使うか」
低い声。
私は、首を振る。
「違います」
「危機だからこそ、制度が必要です」
沈黙。
レオポルドは、しばらく私を見ていた。
やがて、静かに言う。
「地方資金動員を認める」
「その代わり、全流動を中央報告下に置け」
「承知しました」
緊張が、わずかに緩む。
だが、危機は始まったばかりだ。
隣国ノルディア。
王都銀行。
そして、信用。
国家は揺れ始めている。
私は、設計図を握りしめた。
これは理論ではない。
実証の機会だ。
国家が崩れるか。
再設計されるか。
その分岐点に、私は立っている。
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