第41話 密談
円卓には、二人だけが残った。レオポルドは静かに椅子に座る。
「強いな」
突然の言葉だった。
「何がでしょう」
「恐れを隠す力だ」
私はわずかに笑った。
「隠しておりません。震えているのを、見ないふりをしていただいているだけです」
彼はわずかに目を細めた。
「断罪の地に戻るのは、容易ではなかったはずだ。しかも、呼ばれて来た」
沈黙。
「……容易では、ありませんでした」
正直に答えた。門をくぐるとき、石畳の継ぎ目まで覚えていた。あの日と同じ道を、今日は罪人としてではなく交渉相手として歩いた。それだけの違いに、二年かかっている。
「私は、地方を軽視していない」
「存じています。軽視しているなら、この部屋に二人で残ってはいません」
「だが国家は、感情では動かぬ」
「地方も、同じです」
静かな応酬だった。レオポルドはゆっくりと言った。
「お前の構造は理解できる」
その一言は重かった。理解されないまま潰される方が、よほど多い。
「だが、速度が速い」
「停滞は毒です」
「急進も毒だ。どちらで死ぬかを選べと言われれば、私は遅い方を選ぶ」
視線がぶつかる。この人は、私を試すために時間を割いている。時間を割く相手を、人は普通は潰さない。
やがて彼は、初めて本音を見せた。
「私は幼少期に、地方の反乱を見た」
声が低くなる。
「中央の統制が弱まり、飢えが広がった」
だから彼は、秩序を守る。理屈ではなく、記憶で守っている。その守り方は硬いが、少なくとも私利ではない。
「お前の改革が連鎖すれば、制御できぬ」
「制御するのではなく、設計するのです」
沈黙のあと、レオポルドは静かに言った。
「ならば提案しろ」
「提案?」
「国家の中で機能する、地方のモデルを」
試験だった。答えを間違えれば、この二年で積んだものは辺境の帳簿の中だけに戻る。逆に言えば、正しく答えれば、辺境の帳簿が国家の紙になる。
私は深く息を吸った。
「条件があります」
彼の眉が、わずかに動く。
「地方代表による、常設の協議機関を」
「……中央に、地方の席を設けろと?」
「対立ではなく、制度化です」
長い沈黙があった。レオポルドは静かに立ち上がる。
「大胆だ」
「現実的です」
彼は窓の外を見た。王都の塔が、変わらない位置に立っている。
「お前は危険だ」
「光栄です」
一瞬、彼はわずかに笑った。
「だが、有用でもある」
静かな言葉だった。
「時間をやる。設計案を出せ。国家の中で生き残れる構造をだ。理想ではなく、来年の予算に載る形で書け」
彼は振り返った。
「失敗すれば」
瞳が冷える。
「容赦しない」
私は深く礼をした。
「望むところです」
扉が開く。回廊には誰もいなかった。二年前、同じ扉から出たときは、両脇に衛兵がついていた。私は断罪の地を後にする。だが今回は、追放ではない。交渉だ。
国家と地方の、新しい形を賭けた。
賭けの中身を決めるのは、盤を出した側だ。
賭けたものを形にするには、一枚の紙が要ります。




