第40話 公開討論
白曜宮・円卓会議室。
中央に王太子レオポルド、その左右に大宰相ガイウスと側近アルベルト。対面に、私。傍聴席には高官と貴族が並んでいる。
形式は「協議」となっていた。だが、席の配置が実質を語っている。私の側にだけ、机がない。二年前の謁見の間と同じ作りだった。
レオポルドが口を開く。
「エリス・フォン・クラウゼン」
低く、静かな声だった。
「辺境連合は、中央の税収構造に影響を与えている」
「承知しております」
私は即答した。
「では問う」
彼の金の瞳が、まっすぐこちらを向く。
「国家財政の五%減を、どう説明する」
空気が張り詰めた。傍聴席の視線が一斉に集まる。ここで数字を渋れば、この場の全員が「やはり隠していた」と結論を出す。私は資料を差し出した。
「短期では、減少します」
ざわめきが起きた。認めるとは思われていなかったのだろう。
「ですが、地方経済が安定すれば、徴税の基盤そのものが拡大します」
ガイウスが目を細める。
「理論だな」
「試算です」
私は数字を示した。三年後には地方総生産が八%増、結果として中央の取り分も回復する。試算の前提は全て添付してある。前提を隠した試算に殺されかけた国が、この紙の向こう側にあるからだ。
「保証はない」
アルベルトが冷たく言う。
「中央集権にも、保証はありません」
一瞬、空気が凍った。中央集権を疑ってはならない場所で、それを疑う言葉を口にしたからだ。それでも私は止まらなかった。
「現在の構造は、地方が停滞していることを前提に組まれています。そして停滞は、不満を生みます」
レオポルドが問うた。
「地方が強くなれば、中央は弱くなる」
「中央が支配を強めれば、地方は疲弊します」
沈黙。私は視線を逸らさなかった。
「国家は、対立の構造で維持されるべきではありません」
ざわめきが広がる。大胆な言い方だという自覚はあった。この議場で、中央と地方は勝ち負けの関係だと全員が信じている。それでも引かない。
レオポルドが、わずかに口元を動かした。
「では、どうする」
「役割分担です。中央は外交と軍事を、地方は経済基盤の強化を担う。どちらが上かではなく、どちらが何を持つかを先に決めます」
ガイウスが静かに言った。
「理屈は通る。だが、急進的だ」
レオポルドが立ち上がった。
「急激な構造変化は、反動を生む」
その声は低い。だが、確かに熱がある。
「私は国家を守る」
視線がぶつかった。
「私もです」
即答だった。
沈黙のあと、彼は言った。
「あなたは地方を守るために、国家を揺らす」
「いいえ」
私は静かに答えた。
「国家を守るために、地方を強くします」
円卓に、重い静寂が落ちた。傍聴席の貴族の何人かは、私が罰されるところを見に来たはずだ。その顔ぶれには覚えがある。断罪の日、同じ表情で同じ場所に立っていた。
レオポルドはしばらく私を見ていた。やがて静かに告げる。
「本日の公開協議は、ここまでとする」
ざわめきが広がる。
「エリス・フォン・クラウゼン」
彼は続けた。
「残れ」
会議室から人が引いていく。重い扉が閉まった。
ここからは、非公開。
扉が閉まってからが、本当の交渉です。




