第34話 中央の論理
王都。
白大理石の議場に、重い空気が流れていた。
「……演説は確認したか」
低く、整った声。
アルベルト・フォン・クラウディアは、書簡を閉じた。
「はい」
側近が答える。
「辺境連合は維持」
「世論も一定の支持を得ています」
アルベルトは、ゆっくりと椅子に背を預けた。
「感情を使ったか」
「冷酷な合理主義者、という印象が揺らいでいます」
「厄介だな」
その言葉に、焦りはない。
彼は冷静だ。
「数字で戦う者は扱いやすい」
「感情を語り始めたなら、厄介だ」
机の上には、報告書が並ぶ。
・辺境連合の依存率低下
・王都銀行の審査緩和
・価格戦争の失敗
「損失は?」
「限定的です」
「ただし、他領地が追随すれば影響は拡大します」
アルベルトは、静かに目を閉じた。
「地方分権の連鎖」
「はい」
沈黙。
「王太子殿下は?」
「静観を」
「当然だ」
アルベルトは立ち上がる。
「エリス・フォン・クラウゼン」
その名を、静かに呟く。
「断罪で消えるはずだった駒が」
「盤面を乱している」
彼は窓の外を見た。
王都の塔が並ぶ。
中央集権の象徴。
「地方が自立すれば」
「中央の均衡は崩れる」
側近が問う。
「経済封鎖を強化しますか?」
「愚策だ」
即答だった。
「力で押せば、英雄になる」
沈黙。
「ならば?」
アルベルトは、ゆっくりと笑った。
「孤立させる」
「孤立……」
「王都ではなく、地方で」
彼は、別の報告書を取り出す。
「辺境連合は、信頼で結ばれている」
「ならば、そこを崩す」
「分断策を?」
「そうだ」
彼の目は、冷たい。
「悪役令嬢という物語は、使える」
「だが足りない」
「何を?」
「疑念だ」
静かな声。
「彼女は、最後まで連合を守るか?」
側近が理解する。
「代表辞任騒動……」
「揺らいだ」
アルベルトは言う。
「合理主義者は、必ず損得で動く」
「その疑念を植え付ける」
「どうやって?」
「簡単だ」
彼は机に指を置いた。
「連合の一領地に、特別優遇案を提示する」
沈黙。
「中央と個別協定を結べば、税を軽減」
「資金支援も出す」
「……分断」
「連帯は理想だ」
「だが利益の前では揺らぐ」
彼は、静かに言った。
「エリス・フォン・クラウゼン」
「お前は感情を語った」
「ならば、人の感情で崩す」
遠くで、鐘が鳴る。
会議は、終わらない。
王都は、まだ本気を出していない。
だが。
次の一手は、確実に放たれた。




