第33話 悪役令嬢の言葉
翌朝。
広場には、人が集まっていた。
噂は早い。
連合代表辞任の話は、すでに街に広がっている。
ざわめき。
不安。
疑念。
私は、壇上に立った。
マリアが、少し離れた場所で見守っている。
ヴィクトールは、腕を組んだまま視線を逸らしている。
深く、息を吸う。
「……昨日、私は連合代表を辞すると言いました」
ざわめきが広がる。
「それは、合理的だと思ったからです」
沈黙。
「王都が問題にしているのは、私個人です」
「ならば、私が退けば、連合は守れる」
誰も、拍手しない。
当然だ。
「ですが」
そこで、言葉が止まる。
私は、初めて迷わずに続けた。
「それは、逃げでした」
ざわめきが止まる。
ヴィクトールが、ゆっくりと顔を上げる。
「私は、合理的であろうとしました」
「冷静であろうとしました」
「感情に流されれば、判断を誤るからです」
声は、震えていない。
だが、胸の奥は熱い。
「ですが」
私は、広場を見渡す。
工房主。
商人。
農夫。
リリアもいる。
「私は、皆さんを守りたいと思っています」
空気が変わる。
「それは、合理ではありません」
静かに続ける。
「私が断罪された日」
「私は、誰にも守られませんでした」
ざわめき。
「事実ではなく、“物語”で裁かれました」
「だから私は、数字を選んだ」
「数字は嘘をつかないから」
一瞬、息を吸う。
「ですが、人は数字だけでは動かない」
ヴィクトールの目が、揺れる。
「私は、冷たいと言われます」
小さな笑いが起こる。
「それは、否定しません」
「ですが」
声を強める。
「私は、この領地を好きになりました」
広場が、静まり返る。
「黒字だからではありません」
「連合だからでもありません」
「ここで生きる人たちが、必死だからです」
胸が、熱い。
「悪役令嬢と呼ばれても構いません」
静かに。
「ですが」
「私は、逃げません」
沈黙。
「連合代表を辞しません」
ざわめきが、再び広がる。
「王都が私を問題視するなら」
「正面から受けます」
「ですが、皆さんを盾にはしません」
「決断は、皆さんに委ねます」
声を落とす。
「それでも、共に歩むなら」
「私は、最後まで責任を取ります」
沈黙。
長い沈黙。
やがて。
ヴィクトールが、ゆっくりと拍手した。
一度。
二度。
その音が、広場に広がる。
リリアが、泣きながら拍手している。
次に、工房主。
農夫。
商人。
拍手が、大きくなる。
マリアが、涙を拭っている。
南方領主が、静かに言った。
「……冷たいな」
私は、小さく笑う。
「ええ」
「だが」
彼は続ける。
「本音を言うなら、最初からそう言え」
笑いが、広がる。
「連合は続ける」
その一言で、空気が変わった。
私は、深く息を吐く。
合理ではない。
感情だ。
だが――
初めて、数字ではない力を感じた。
悪役令嬢。
その名は、消えないだろう。
だが今日。
その物語は、少しだけ書き換えられた。
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