↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢にされたので辺境で領地改革していたら、いつの間にか国家の設計者になっていました ~断罪から始まる内政×金融×政治の国家再設計ファンタジー  作者: 白鷺ユウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/80

第3話 私は悪役令嬢で結構です

辺境領クラウゼンの領都は、想像以上に静かだった。


人がいないわけではない。だが、活気がない。通りを歩く人々の表情は硬く、足取りは重い。店先に並ぶ品も少なく、値札だけがやけに目立っている。


――数字どおりね。


王都で読んだ報告書には、税収の落ち込みと人口の減少しか書かれていなかった。だが数字が痩せている土地は、必ず人の歩き方に出る。次に買うものを決めていない足取りだ。


私は馬車を降り、周囲を一瞥した。迎えに来ていたのは、最低限の人数だった。形式的な礼をする役人が三人。そして、視線を合わせようとしない兵士が数名。


「ようこそ、クラウゼン領へ。領主代行、バルツでございます」


前に出てきたのは、初老の男だった。腹は出ていて、姿勢が悪い。服は高価だが、手入れが行き届いていない。袖口の刺繍は流行が二つ前のもので、それを買った頃には金があったことだけが分かる。


……帳簿を見なくても分かる。この男は、現場を知らない。


「エリス・フォン・クラウゼンです。今日から、この領地の責任者になります」


私がそう告げると、バルツは一瞬だけ表情を強張らせた。すぐに、作り笑いを貼り付ける。


「お若い領主様ですな。どうぞ、ご無理なさらず」


その言葉に、含みがあることくらい、誰にでも分かる。


――どうせ何もできないだろう、と。


「ええ。無理はしません」


私は頷いた。


「その代わり、必要なことは全てやります」


空気が、わずかに張り詰めた。


案内されて入った領主館は、外観に比べて中がひどかった。装飾は豪華だが、実用性がない。廊下は無駄に長く、執務室は書類で溢れている。


整理されていない。管理されていない。そして――責任の所在が曖昧。書類が積まれているのに、どれを誰がいつ止めたのかが一枚も分からない。ここでは、止めた人間が誰にも見えないようになっている。


「これが、現在の執務室です」


バルツが胸を張る。


私は答えず、机の上に積まれた書類を一枚手に取った。日付は、三年前。しかも、内容はすでに期限切れの案件だった。


「……これが、最新ですか?」


「は、はい。特に問題は――」


「あります」


私は即答した。


「この書類、処理済みのはずですよね。なぜ、ここに?」


バルツは言葉に詰まった。後ろにいた役人たちが、視線を逸らす。


なるほど。“誰も責任を取らない”構造だ。


「本日から、この執務室の運用を変えます」


私は淡々と告げた。


「未処理案件と、処理済み案件を分けてください。日付順で」


「あと、担当者名を必ず明記するように」


「……前例が」


「不要です」


私は視線を上げ、役人たちを見渡した。


「前例が、この状況を作ったのですから」


誰も口を開かなかった。その場にいた全員が、私を値踏みするように見ている。この新しい領主が、どこまで本気なのか。半年でいなくなる人間の言うことなら、聞く必要はない。彼らはそう計算している。


私は、そこで一つだけ、はっきりと言葉を置いた。


「勘違いしないでください」


「私は、皆さんに好かれに来たわけではありません」


ざわり、と空気が揺れた。


「この領地を立て直すために来ました」


「邪魔をするなら、排除します」


「協力するなら、身分に関係なく評価します」


淡々と、事実だけを並べる。脅しではない。方針説明だ。


「……悪役令嬢、と呼ばれているそうですね」


誰かが、小さく呟いた。おそらく、悪意を込めたつもりだったのだろう。


私は、少しだけ口元を緩めた。


「ええ。そうです」


そして、はっきりと言った。


「悪役で結構です」


誰かを救う改革は、必ず誰かに嫌われる。それを恐れていては、何も変えられない。


「では、最初の仕事です」


私は机を指で叩いた。


「この領地の帳簿、全て提出してください」


「期限は、明日の朝まで」


一斉に、ざわめきが起きた。


「そ、それは……量が多すぎます」


「古いものも含めると――」


「全てです」


私は言い切った。


「隠すものがないなら、問題ないでしょう?」


誰も、答えられなかった。


役人たちが退出していく中、バルツだけが残った。額に、うっすらと汗をかいている。


「……強引すぎでは?」


「必要なだけです」


私は視線を外し、窓の外を見た。荒れた街並みが、夕暮れに沈んでいく。屋根の直っていない家が三軒に一軒はあり、直せる金がないのか、直す気がないのかは、ここからでは分からない。


「この領地は、もう余裕がありません」


「優しさだけで守れる段階は、過ぎています」


バルツは、何も言えなかった。


その夜。私は一人、執務室に残り、白紙の紙を一枚、机に置いた。


上に、こう書く。


――クラウゼン領 再建計画(草案)


誰に理解されなくてもいい。嫌われてもいい。


結果だけが、全てだ。


「……まずは、三日」


私はペンを置き、静かに呟いた。


三日あれば、この領地の無駄は、洗い出せる。

翌朝、執務室の前に積み上がるのは、三年ぶんの言い訳です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。