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断罪された悪役令嬢は、数字で王都を締め上げる ~辺境領再建から始まる経済戦争~  作者: 白鷺ユウ


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第14話 悪役令嬢の評判

クラウゼン領の名が、領都の外で囁かれ始めていた。


それは、噂という形で。

数字よりも早く、人の口から口へと広がっていく。


「最近、税が軽くなったらしい」

「水路が直って、畑が戻ったってよ」


市場で、酒場で、井戸端で。

声は小さいが、確かに前向きだ。


「領主様が、若い女の人なんだって」

「厳しいけど、不公平じゃないらしい」


その一方で、役所の中では、違う評判が流れていた。


「冷たい」

「容赦がない」

「でも、筋は通している」


評価は割れている。

だが、共通している点が一つある。


――侮れない。


執務室でその報告を聞きながら、私は小さく息を吐いた。


「順調ですね」


「……どの立場から見るか、ですね」


マリアが、慎重に言葉を選ぶ。


「民からの評価は、かなり良いです」

「ただ――」


「ただ?」


「外から来た商人たちの反応が、妙です」


私は、視線を上げた。


「妙、とは?」


「好意的すぎる、と言いますか……」

「探るような視線が多い」


その言葉に、私はすぐ理解した。


「王都絡みですね」


「おそらく」


成果が出れば、必ず寄ってくる。

それが、商人という存在だ。


午後。

その“妙な視線”の正体は、あっさり姿を現した。


「突然の訪問を、お許しください」


執務室に通された女性は、柔らかな笑みを浮かべていた。

落ち着いた物腰。

質の良い服だが、派手さはない。


「王都商会連合の代理を務めております、カミラ・エヴァンスと申します」


名乗りを聞いた瞬間、空気が一段階変わった。


――来た。


「遠路はるばる、どういったご用件で?」


私がそう問うと、彼女はにこやかに答える。


「最近のクラウゼン領の改革が、王都でも話題になっておりまして」

「ぜひ一度、ご挨拶をと」


“話題”。


それは、誉め言葉にも、警告にもなる言葉だ。


「光栄です」


私は、感情を乗せずに返した。


「ですが、我が領地はまだ立て直しの途中です」

「商会とお取引できる余裕は、ありません」


「ええ、承知しています」


カミラは、あっさり頷いた。


「今日は商談ではありません」

「視察と、情報交換だけです」


――便利な言い方だ。


「税制を見直されたとか」

「水路を部分的に修繕されたとか」

「随分と、合理的な手法ですね」


一つひとつは、事実だ。

だが、どこまで知っているかは分からない。


「必要なことを、必要な分だけ行いました」


私がそう答えると、彼女は少しだけ目を細めた。


「……噂どおりですね」


「どんな噂でしょうか」


「“冷酷だが、数字に嘘をつかない悪役令嬢”」


マリアが、わずかに身構えたのが分かった。


だが、私は気にしない。


「悪役で結構です」


即答すると、カミラは楽しそうに微笑んだ。


「素敵です」

「その覚悟がある方は、そう多くありません」


――評価している。

同時に、測っている。


「王都では、こうも言われています」


彼女は、さらりと続けた。


「“辺境が、自立し始めた”」

「“放っておくと、面倒な前例になる”と」


マリアが、息を呑む。


私は、表情を変えなかった。


「それで?」


「いえ」

「ただの世間話です」


そう言って、彼女は立ち上がった。


「今日は、ご挨拶まで」

「ですが……」


去り際、振り返る。


「成功なさるほど、注目されます」

「どうか、お気をつけて」


扉が閉まり、執務室に静けさが戻る。


「……敵、ですよね」


マリアが、小さく言った。


「まだ、敵ではありません」


私は、冷静に答えた。


「ただし――」

「味方でもない」


窓の外では、領都の人々が行き交っている。

誰も、今の会話を知らない。


それでいい。


「評判が立つのは、悪いことではありません」


私は、書類に目を戻した。


「問題は、その評判を」

「誰が、どう使うかです」


机の上には、黒字予測の帳簿。

そして、王都からの視線。


この領地は、もう隠れられない。


それだけは、はっきりしていた。


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