第八十七話・もう、盗賊と変わらないよね?
「しかもこの人達、Aランクな事を笠に着ちゃってさ、自分達に
物申したり、異議を訴えてくる連中をその良し悪しに関係なく
『自分達に逆らう=正義に逆らった悪』そう勝手に解釈し、
これら全てを正義の断罪と抜かして叩き潰しちゃうんだよ...」
うわ...自分の思考は正義ってか。
こいつは思っていたよりも、お粗末でお間抜けな連中だった!
「さっきおじ様の言った様に、わたしも正直こんな人達はさっさと
出禁にしたいんだけどさ。でも残念ながらこの宿屋はギルドの恩恵を
受けて成り立っている宿屋なんだよ...だから、ね」
「そっか...そういえば、この宿屋はギルドの御用達だったっけ?」
「うん。そういう訳なので、その恩恵をくれているギルド...その代表格でも
あるAランク冒険者のこの人達を無下になんてできないんだよねぇ。
こんな害悪以外の何者でもない、ゴミクズやろうでもさ......チッ!」
「ひぃぃいっ!?」
こ、こんなに明るく元気っ子なプレシアさんが、あんな顔をして舌打ちを
打つだなんて...
内なるヘイトが溜まっているんだろうなぁ。
最後の方も思いっきり、本音をこぼしていたし。
よっぽど、こいつらに対して忌根があるんだろう......はは。
「しかし参ったな、これ...」
俺は食事をしに、ここに来ただけだっていうのに、何でこんな面倒くさくて
厄介ごとに巻き込まれてしまってるんだよ!
ホント、あの時も思ったんだけど、俺...運がなさ過ぎじゃね?
もしかして、俺には見えない隠しギフトで『不幸』とかあるんじゃ
なかろうか!?
「おや?どうしたのです、おじさん?そんなに険しく眉をひそめて?
あ。もしかして、プレシアさんを贄にして逃げ出そうとした事、
今頃になって、悔いてきたのですか?」
「くくく...やっと、自分の愚かさに気づいたか。それなら、おっさん、
謝罪に土下座しろ!そして俺達を困らせた詫びに、おっさんの持っている
有り金を全部よこせ。それで今回の事をチャラにしてやるよ♪」
はあぁぁあっ!
土下座に、有り金を全部よこせだと!?
こ、こいつら、とうとう言動が盗賊と変わらなくなってきたぞ!?
......ん?盗賊?
「なぁ、プレシア。あいつの今の言葉を聞いたよな?あれって、完全な
盗賊行為だよな?なら、仮にこいつらをここでぶちのめしたとしても、
俺のその行為は正当防衛って事でいいんだよな?」
「う~ん、そうですねぇ。おじ様の言う様に、今のランスさんの発言は
そう取ってもらっても差し支えないと思いますよ。証人もこれだけいますし。
なので、おじ様の正当防衛は成立しますね!」
俺の確認の問いかけに対し、プレシアが少し驚きと困惑な表情を見せつつも
それを肯定する。
よっしゃ!プレシアの言質は取った。
これでもし正当防衛を取れなかったとしても、出禁は最悪、回避できる。
「でもまぁ、それはランスさん達をぶちのめす事ができたらという、
前提の話なんですけどねぇ。でもそれは無理な話なんですよねぇ...あはは」
しかし、それを実行するのは不可能だと言わんばかりに、プレシアの口から
諦めの混じったニガ笑いがこぼれるのだった。




