38話 救いの手
同じ名前。それを聞くと色君は笑い出した。私はそれが気に入らなかったので
『笑わないでよ!親友に褒められた名前なんだから!!』
親友という言葉を出したのに何故か悲しくはならなかった。とても不思議だった。色君はすぐに笑うのを止めると
『ごめんごめん。まさか同じ名前の人がいるなんて思わなかったから驚いたんだ』
『驚いたからって笑わないでよ』
『そうだな。ごめん。でも嬉しくってつい笑っちゃったんだ。ほら、珍しい名前だろ?しかも俺男だし。今まで恥ずかしかったんだよ』
そう言って恥ずかしながら顔を押さえている姿はとても可愛く見えた。私はそれを見て笑ってしまった。
『自分で笑うなって言っときながら笑わないでくれよ』
『ごめん、つい』
私がそう言ってお互い顔を見合わせると笑い合った。葉月がいなくなってこの先どうしようかと思っていた私にとって今この時間はとても楽しく感じられた。
しかし楽しい時間は長くは続かなかった。ご飯を食べ終わると色君は楽しかったと言って席に戻ってしまった。私はまたすぐに寂しさの中に戻されてしまった。
色君の周りにはすぐにまたクラスの皆が集まってきていた。私はその光景を羨ましく見ているとその中から度々私の方へ視線を向けているのに気がついた。色君も不思議そうな顔をして私を見ていた。私は嫌な予感がしてそこから目を反らせた。
そして私の予感は的中したのである。
放課後までクラスの皆から解放されることのなかった色君は帰りも皆から一緒に帰ろうと誘われていた。そんな中私は一人で帰る準備をしていた。
すると突然声を掛けられたのである。
『佐久野さん。一緒に帰ってもいいかな?』
その方向へ目を向けるとそこにいたの色君だった。彼は何故か皆からの誘いを断り私のところへやってきたのだ。突然の出来事だったので私もさすがに驚いた。
『駄目かな?』
彼は不安そうな顔で私を見ていた。
『ううん、大丈夫!一緒に帰ろう?』
私は答えた。すると彼は笑顔になって喜んだ。そしてありがとうと言った。
一緒に帰り始めたのは良かったが、やはりどうして私と一緒に帰ろうとしたのかが気になっていたので色君尋ねたのだ。
『どうして他の人の誘いを断って私のところへ来たの?』
すると彼は真剣な表情になって答えた。
『佐久野さん呪われてるんだって?』
私は驚いた。突然そんなこと言われるなんて思っていなかったからである。
『なんでそのこと!?』
『他の人から聞いたんだ。佐久野さんに関わると不幸なことがあるから関わらない方がいいよって言われた』
『それなのになんで?』
『なんでかな?う~ん・・・・・・やっぱり自分で体感してみないと信じられないタイプなんだよね』
色君は前を向きながらそう言った。
『それに』
続けてそう言ったがそこで言葉が止まった。
『それに?』
私は尋ねた。すると色君は首を横に振って
『なんでもない』
そう言った。私は変なのと返した。彼は何も言わず笑っていた。その笑顔がとても素敵だった。
しばらく沈黙したまま歩いていたがやはり私の周りで起こった不幸について彼に話した方が良いと思った。
『碇君あのね、私の周りが不幸になってる話は本当だと思う。だから今までのことちゃんと話すね』
私がそう話し出すと色君はちょっと驚いた感じでこちらを向いた。
『お願いします』
彼はそう言って私の話に耳を傾けた。
それからこれまであった出来事を覚えている限り話した。色君はその間ずっと真剣に私の話を聞いていてくれた。
『葉月は両親が離婚して転校することになったの』
『そっか。今まで大変だったね』
『私は大変じゃないよ。私には何も起こってないもん。だから私が・・・・・・』
『呪われてるんじゃないかって皆言うんだろ?でもその葉月って子は佐久野さんのせいじゃないって言ってたんだろ?だったらそうなんじゃないかな。俺はその子を信じるよ』
色君はそう言って私を傷つけないようにしてくれた。でもそんな彼には葉月のようになってほしくないと思った私は
『でもやっぱり私には関わらない方がいいと思う。碇君に何かあってほしくないもん』
そう言うと碇君はまた真剣な顔をした。
『佐久野さんはそれでいいの?』
『良くないよ!私だって皆と一緒に話したり遊んだりしたいもん!!でも私と一緒にいると皆が不幸になっちゃう。それも嫌・・・』
私は今にも泣き出しそうになっていた。色君は何も言わずに私を見ていた。しかし次の瞬間、色君の頭の上に何か落ちたのである。
『なんだ?』
色君が頭を触るとそれは鳥の糞であった。
『汚ねぇ!最悪だ・・・・・・もしかしてこれが不幸?』
色君がそう言うと私はどう答えたらいいのかわからずにいた。
『とりあえず今は何でもいいや。さすがに汚いし臭いから先に帰るね。ごめん!』
そう言って色君は走って帰ってしまった。彼ももう私に関わってくれないのだろうか。私はそう思って一人で家に帰った。
次の日、私が朝学校へ着いて席に座ると
『佐久野さん、おはよう。昨日はごめんね』
そう言ってきたのは色君だった。私はもう関わることがないと思っていたので
『なんで?』
不思議そうな顔をしながらそう言った。すると彼は指を出した。
『帰ってからも紙で指を切ったりしてこれも不幸なのかなって思った』
確かに彼の指には昨日はなかった絆創膏が貼られていた。
『じゃあ尚更何でなの?』
『それから色々考えたんだ。怪我や病気は確かに痛いし苦しいけど大した程じゃない。佐久野さんの心はもっと痛いんだろうなって思ったんだ。本当は皆と一緒にいたいのにずっと一人で生きていかないといけないなんて辛いじゃないか!だから俺も君の側にいてもいいかな?』
色君はそう言うと顔を赤くして、これじゃ告白みたいじゃないかと言って恥ずかしがっていた。しかし私は「側にいてもいいかな」という言葉に葉月を重ねていた。
『私は何があっても側にいるからね!』
その瞬間私の目から涙が溢れてきた。




