37話 碇登場
新しい友達、つまり転校生がやってきたということだ。葉月と入れ替わりで転校してきたことにより私のクラスのなったのであろう。
皆はどんな人なのか楽しみにしながら話していた。
『男?女?どっちだろう?』
『わくわくする!』
葉月が転校していったばっかりなのにそのことを忘れているかのようなこの感じは私には辛かった。私はずっと泣いたままだった。
『静かにしろー』
先生がそう言って皆を鎮めた。そして
『碇君、入ってきなさい』
先生がそう言うと
『なんだ男かよ』
『イケメンだったらどうしよう』
『どうもねえだろ!』
などまたうるさくなった。そしてドアが開いた。私は一応姿だけを確認する為顔を上げた。すると長身の男の子が入ってきたのだ。
『きゃーかっこいい!』
数人の女子がそう叫んだのである。しかし私にはどうでもよかったので私はすぐに顔を伏せた。
『碇君、自己紹介して』
彼はとても綺麗な声ではいと返事をすると黒板に名前を書いているのであろう音がした。私は顔を伏せて泣いていたのでわからなかった。
そして黒板に書く音が止まると
『いかりいろのと言います。よろしくお願いします』
え?いろの?私と同じ名前。泣いていた私はその名前を聞いた瞬間顔を上げた。黒板には碇色之と書かれていた。
『男なのにいろのって、変わった名前だとよく言われます』
その時数人が私の方を見たことに気付いた。私がその視線に気付くとすぐに碇君の方へ視線を戻した。
それから碇君が私の方を見た。すると不思議な顔をしているように見えた。もちろん私が泣いているからである。普通新しく来て自己紹介している時に泣いている人がいたら不思議に思うのは間違いないであろう。
自己紹介が終わると碇君は先生に言われて葉月の座っていた席に着いた。私はその光景を見ると葉月のことを思い出してまた泣いてしまったのである。
1時間目が終わると碇君は皆に囲まれて抜け出せない状態になっていた。私はその光景を見ていた。さすがにもう涙は止まっていた。
すると碇君がこちらを向いたのである。そして私と目が合った。私は恥ずかしくなってすぐに目を反らしてしまった。
もう一度彼に目を戻すとすでにこちらを向いてはおらず楽しそうに周りと話をしていた。
その後の休み時間もずっと碇君は皆に囲まれて話をしていた。あそこまで囲まれると逆に大変だろうと私は思った。
そして昼休みになった。いつもだったら私は葉月と一緒にお弁当を食べるのだが、今日からはもう一人で食べなければならない。とても寂しかった。
私は手を合わせていただきますと言ってお弁当を食べ始めた。すると私の目の前に大きな影が出来たのである。私が慌てて見上げるとそこには碇君がいた。
『一緒に食べていいかな?』
何故彼が私の元にやってきたのかはわからないが断るのも申し訳ない気がしたので
『どうぞ』
そう返した。彼は私の正面に座るとパンを出して食べ始めたのである。周りは私のことを知っているので誰も近寄ろうとしなかった。
『どうして朝泣いていたの?』
突然碇君が私に尋ねてきた。私はどうしようか迷ったが正直に答えた。
『仲の良かった友達が今日で引っ越してしまったから・・・』
すると彼は何かを察したような表情を見せた。
『俺と入れ違いで転校した人がいたって聞いたからその人か。辛いこと聞いてごめん』
彼は頭を下げてそう言った。
『ううん、碇君は悪くないよ。せっかく転校してきたところなのにいきなり泣いている人がいたら困るもんね』
私は笑いながら答えた。それを見て彼も笑顔を作った。
『ありがとう。そうだちゃんと自己紹介してなかったね。俺は碇色之っていうんだ。男なのに色之って変な名前だろ?何でこんな名前にしたんだろうっていつも思うよ』
そう言って彼は大きな声で笑った。そして笑うのを止めると
『君はなんていう名前なの?』
彼が真剣な眼差しで見つめるので私は恥ずかしくなって顔を下に向けて答えた。
『佐久野色乃です』
『えっ?もう一度いい?』
彼は驚いた表情を見せた。私は今度は顔を上げて答えた。
『佐久野色乃といいます。あなたと同じ名前なの』
これが私と碇君、いや色君との最初の出会いである。




