22話 感染
俺は全く動けない状態になっていた。体を起こそうにも言うことを聞かないし声も出ない。それに目眩がして頭もくらくらする。息も荒い。どうやら羽野が言っていたのはこの状態だろう。いや、もしかするとさらに酷いのかもしれない。
しばらくすると、
『典貴、いつまで寝てるの?学校遅れるわよ』
いつもの時間になっても下りてこないので母さんが俺を呼んだ。しかし、当然俺は声も出せない状態だったので返事すら出来ない。すると、
『典貴!早く下りてきなさい!』
母さんの口調が強くなった。それでも俺は返事が出来ない。そして母さんがドタドタと大きな音を立てて階段を上ってきた。次の瞬間、勢いよくドアが開き、
『典貴!いい加減にしなさい!』
母さんと目が合った。かなり怒った顔をしていた。こんな母さんの顔を見たのはいつ以来だろうと思うくらいの顔であった。しかし、ベッドで苦しんでいる俺の顔を見た瞬間、その顔は息子を心配する母親の顔に変わった。
『典貴、どうしたの!?』
俺は声が出ないので口だけ動かして必死に状況を伝えようとした。
『もしかして声も出ないの?』
俺はなんとか頷いた。すると母さんは俺の側により、俺の額に手を当てた。
『熱っ!すごい熱じゃない!?』
母さんは俺の額からすぐに手をどけると、慌てて部屋を出て行った。そしてすぐに体温計と冷却シートを持って戻ってきた。そして冷却シートを俺のおでこにつけて、
『とりあえず熱測るから寝ときなさい。卓戸先生お呼びするから』
卓戸先生とはかかりつけ医のことである。病気になった時はいつも診てもらっている。高齢だが、とても優しい先生だ。
母さんは体温計を俺の脇に挟むと、
『電話してくるわね。学校にも連絡しておくから』
そう言うと再び部屋を出ていった。
そして数分後母さんは困った顔をして部屋に戻ってきた。
『卓戸先生に電話が繋がらないわ…どうしてかしら?』
俺はこれも呪いのせいだと思った。症状の酷さはともかく、羽野の言っていた通り辛い状態になってしまった。
その後母さんは俺から体温計を取ると、困っていた顔がさらに困っている顔になった。俺の体温がそんなに高かったのだろうか?
『典貴、あなた熱が41度もあるわよ!』
41度、こんな高熱初めての体験だ。人間は体温が42度以上になると死んでしまうと言われているので、死の一歩手前ではないか。これはまずい。
『お母さん、直接卓戸先生のところまで行って呼んでくるわ』
母さんはそう言うと慌てて家を出て行った。そして俺は家に一人残された。少し不安な気持ちになったが、それより俺は佐久野のことが心配になった。羽野に続けて俺も病気で休むことになったのだ。きっと自分のせいだと思うだろう。
しかし、今は体の自由が全くきかない。何か考えることですら辛い。せめて佐久野に一言大丈夫だと言ってあげたいがその力もない。
そして、段々意識が遠のいていくのを感じた。息をするのが苦しい。俺は目を閉じた。
『佐久野…』
そう呟くと俺の意識はなくなった。




