21話 お見舞い
席に着くと、不思議そうな顔をして佐久野が話しかけてきた。
『どうしたの?先生に何か用事でもあった?』
俺は、佐久野に何か気付かれてはいけないと思ったので、自然にその問に答えた。
『今日の授業何するのか聞いただけ』
『そんなこと聞いてたの?』
佐久野は笑いながら言った。どうやら大丈夫だったようだ。俺は少し安心した。すると佐久野が、
『それで、先生今日は何をするって?』
少し不意を突かれた気がしたが、俺は冷静に答えた。
『秘密だってさ。授業までのお楽しみって』
『お楽しみかぁ…それちょっと恐いね』
会話中、佐久野はずっと笑顔だった。何としても彼女の呪いを説いてあげたい。俺はまたそう思った。
学校が終わり、佐久野を家まで送った後、俺は羽野の家に向かった。羽野の家は俺の家から少し離れたところにある。そして羽野の家に着き、チャイムを鳴らした。すると家から羽野の母親が出てきた。
『あら、典貴君じゃない?久しぶりね。光馬のお見舞いかしら?』
俺と羽野は幼馴染である。だから互いの親にはよく知られているのだ。羽野の家には久しぶりに来たが、おばさんは全く変わっていなかった。
『はい。お久しぶりです。光馬君大丈夫ですか?』
『熱は少し下がったんだけど、まだ辛いみたいよ。上がって行く?あ、でもうつしたら悪いわね…』
おばさんは心配そうな顔をして俺を見た。
『大丈夫ですよ。少しくらいなら問題ないと思います』
『そうかしら?じゃあどうぞ』
おばさんは優しい声で迎え入れてくれた。俺は、おじゃましますと言って家の中に入った。
『光馬。典貴君がお見舞いに来てくれたわよ』
おばさんがそう言ってから俺は3回ノックをした後、ドアを開けて羽野の部屋に入った。部屋全体は綺麗に片付いていて、本棚にはコミックと難しそうな本がぎっしり並んで立ててあった。この部屋の左隅のベッドの上で羽野は寝ていた。
俺がベッドの横に立つと、
『何で来たんだ?』
『え?』
羽野が突然話しかけてきた。しかし、俺には今の羽野の質問が理解できなかった。
『どういうことだ?俺はただお前のお見舞いに来ただけだぞ?』
『じゃあ聞くけど、お前今日ここに来るまでに不幸と呼べることあったか?』
何もない。確かに昨日羽野と別れてからも不幸と呼べることは全くなかった。俺は羽野の問いかけに答えようとすると、
『ないだろ?』
羽野がそう尋ねてきた。しかしその言葉は、自信を持って言っているように聞こえた。その瞬間俺はとても嫌な感じがして固まってしまった。何かとてつもない過ちを犯してしまったような気持ちだった。
『何も言わないってことは、いや言えないのか。俺の言ってることが間違ってないからな』
羽野は何かに気付いている。そう確信した。しかし何に気付いているのか俺にはわからなかった。
『何かわかってないような顔だな。教えてやるよ。お前は今日ここに来るまで不幸と呼べることは起こらなかった。恐らく明日まで何も起こらないと思うぜ』
羽野がそう言った瞬間、まさかと思った。羽野は俺の反応に気付いたらしく、軽く頷いて話を続けた。
『そう、俺は病気だ。それも感染力のあるものだ。そして今日お前はここに来てしまった。もうわかるだろ?』
俺は頷いた。羽野が言いたいのはつまり、俺が見舞いに来たことにより羽野の病気がうつってしまい、俺は明日羽野と同じ病気にかかってしまう。そういうことだ。そして羽野は体を起こして言った。
『今でこそこうやって話せているが、朝は体が起こせないほど辛かったんだぜ。それがうつるんだ。さらに辛いと思うよ』
羽野は俺の目を見つめた。俺は何も言えなかった。ただどうすればいいのかひたすら考えていた。
『俺の予想が正しければ、どんな対策をしても無駄だとは思う。でもしないよりはましだ。それに俺が言っているのはあくまで予想だからな。外れてる可能性もある』
しかし羽野が言っていることは、俺が不幸にあわないこととつじつまがあう。そう思えてならなかった。
その後俺はすぐ羽野の家からお暇した。羽野は最後に、
『負けんなよ!』
そう言っていた。
そして俺は家に帰るとすぐに手を洗い、うがいもした。どちらもこれ以上ないと呼べるくらい行った。
それから夜寝るまで羽野の言った通り不幸と呼べることは何も起こらなかった。そして次の朝、目が覚めると本当に対策が無駄であったと思える状態に俺はなっていた。




