20話 攻撃開始
次の日、俺が学校へ行くため家から出ると、家の前には佐久野が立っていた。正直、これには驚いた。まさか佐久野が待っているとは思いもしなかったからだ。
『新瀬君、おはよう』
『お、おはよう』
俺は少し戸惑いながら返事をした。すると、その様子に異変を感じたのか、
『新瀬君、どうかした?』
佐久野が尋ねてきた。俺は佐久野に不安を与えてはいけないと思いすぐに返事をした。
『ううん、何でもないよ。ただ誰かが朝迎えに来てくれたのは初めてだから、ちょっと驚いただけ』
『そうなんだ。びっくりさせちゃってごめんね』
佐久野は笑顔で答えた。闇を抱えているとは思えないほど明るい笑顔であった。
この時俺は、佐久野の覚悟の強さが伝わった気がした。
学校に着き教室に入ると、今まで騒がしかった教室の様子が変わった。一斉に静まり返り、俺と佐久野は全員の注目を浴びた。今まで感じたことのない奇妙な感じだった。
気が付くと俺は無意識に佐久野の方を向いていた。佐久野は正面を向いたまま、
『気にすることないよ。行こう』
そう言うと、自分の席の方へ歩き出した。俺は慌ててその後に続いた。すると、何故か教室がまたさっきのように騒がしくなったのだ。
俺と佐久野が席に着くと、前の席で読書をしていた段坂が振り向いて話しかけてきた。
『ごめんなさい』
『え?』
俺は謝られる理由がわからなかったから驚いた。しかし、段坂はそのまま話を続けた。
『別に皆、二人を変な目で見てるわけじゃないと思う。ただ、昨日佐久野さんが新瀬君に話があるって言った翌日に、二人が一緒に学校に来たから驚いただけだと思うの』
なるほどと思った。でも、謝られる理由には思えなかったので、
『だったら謝ることないよ。別に悪いことしたわけじゃないんだから』
すると佐久野も、
『そうだよ。段坂さんが謝ることないよ。謝らなきゃいけないのは私の方だから…この前はお話出来なくてごめんなさい』
佐久野はとても申し訳なさそうな顔をしていた。すると段坂が、
『大丈夫。佐久野さんは私のためを思って断ったんだもん。気にしてないよ』
そう言うと、佐久野に向けてニコッと笑った。
『ありがとう』
佐久野は笑顔になった。しかし、すぐにその表情が曇った。
『でも、段坂さんまで巻き込みたくないの。だから、これからもお話は出来ないの。ごめんなさい。今こうして話してるのも大丈夫なのかわからないし…』
すると段坂はまたニコッと笑って、
『何かあっても私は大丈夫。でも、お話出来ないのは少し寂しいな。もし呪いが解けたらお話しようね』
『ありがとう…』
佐久野は少し涙目になっていた。そして、そのまま手で顔を押さえた。
『じゃあ、私は本の続き読むね』
佐久野は無言のまま頷いた。そして、それを見ると段坂は、前を向いて本を読み始めた。
今は佐久野に何も話しかけない方がいい。俺はそう思ったので、教室を見回すことにした。すると、その時ある違和感に気付いたのだ。
『羽野がいない!』
いつもだと、もう話しかけてきてもいい時間なのに羽野が教室にいないのだ。羽野に何かあったのかもしれない。俺は不安でいっぱいになった。
そうしているうちにチャイムが鳴り、伊瀬が教室に入ってきた。いつも通り朝のホームルームが始まる。
礼が終わると伊瀬は出席を取り始めた。伊瀬は順番に出席を取っていく。そして、羽野の順番になったが伊瀬は羽野を飛ばしたのだ。伊瀬は何かを知っている。俺はそう思った。
ホームルームが終わり、伊瀬が教室を出ると俺もそれに合わせて教室を出た。そして、
『先生、今日羽野はどうしたんですか?』
すると伊瀬は少し険しい顔になった。
『今朝、家から電話があって風邪を引いたそうだ。でも、かなりの高熱で起き上がることも辛いそうなんだ…心配だな』
俺はこの時、これが呪いのせいであると確信した。昨日何もなかったのはこのためだったのか。嵐の前の静けさとはまさにこのことである。
俺が険しい顔をして考えていると伊瀬が、
『どうかしたのか?』
俺は伊瀬に何かを悟らせてはいけないと思い、平静な顔をして、
『いえ、何でもないです。ありがとうございました』
そう答えた。伊瀬はじっと俺の顔を睨んできたが、何もないと思い、
『そうか、お前も気をつけるんだぞ。じゃあ授業頑張れよ!』
そう言うと伊瀬は歩いていった。
そして、俺は教室に戻ると真の呪いの攻撃が始まったことに改めて恐怖を覚えた。しかし、羽野はそんなことでは負けない。もちろん俺も負けるつもりはない。そう思った。




