17話 意外な一言
佐久野は何も言わず、ただ普通に授業を聞いているようであった。しかし、何か様子が違う気がして俺はそれだけが気になってしまった。
俺はとうとう我慢できず、3時間目と4時間目の間の休み時間に佐久野に話しかけた。
『体はもういいの?』
佐久野からの返事はなかった。そして佐久野はそのまま俯いてしまった。どうやら、私は誰とも話す気はない。そんな態度をとっている感じに見えた。それでも俺は佐久野からの返事があることを期待してずっと待つことにした。
しかし、
『キーンコーンカーンコーン』
佐久野からの返事はなく4時間目の授業が始まるチャイムが鳴ってしまった。俺は諦めて自分の席に戻った。すると佐久野は、俯いていた顔を上げて授業の準備を始め出した。その姿を見た俺は少し寂しくなった。そして佐久野に対する気持ちが一層強くなった気がしたのだ。
昼休み、俺はもう一度同じように佐久野に話しかけた。しかし、やはりと言うか佐久野からの返事はなかったのだ。さっきと同じように俯いたまま黙りしていた。それでも、俺は昼休み中待ち続けることにした。
横に立ってじっと佐久野からの返事を待っていた。しかし、時間だけが無常に過ぎ去っていった。そこに、クラス中からこちらを向いてぼそぼそと話す声が聞こえてきた。それはとても不愉快で耐え難いものであった。俺は拳を握り締めて我慢した。
しかし、その声は一向に止む気配がなかった。そして突然、それを聞いていた羽野が怒鳴ったのだ。
『お前らいい加減にしろよ!何か言いたいならはっきり言えよ!新瀬が困ってるじゃないか!』
その瞬間、クラス中の声が消えた。あのいつも明るい羽野が怒鳴ったのだ。当然と言えば当然のことかもしれない。何しろ俺も羽野が怒鳴ったのは初めて見たかもしれないのだ。
しかし、そのおかげで少し楽になった気がした。羽野には感謝することでいっぱいだ。
それから羽野は俺の方に歩いて来ると、俺の横で立ち止まり俺の肩に手を置いた。
『新瀬、今日は佐久野さんに何を言ってもダメだと思う。だから諦めた方がいいよ』
そして羽野は佐久野の方を向いて、
『佐久野さんだって今日は何も話したくないんだろ?』
しかし、佐久野は表情一つ変えず黙ったままであった。すると羽野はニッコリ笑って俺の方を向くと、
『やっぱりダメだろ?また今度にしよう。な?』
『う、うん。そうするよ』
俺は羽野に言われたまま待つことを止めて席に着こうとした。本当はずっと待っていたかったが、これ以上待っているとクラスの空気が悪くなってしまうような気がしたのだ。
しかしその時、今までずっと黙り込んでいた佐久野が突然口を開いたのだった。
『放課後に話があるの』
そう言うと、佐久野はまた俯いて黙り込んでしまった。その姿を見た俺は羽野と顔を見合わせた。羽野は何も言わずにただ首を縦に振った。そして俺は佐久野の方を向き、わかったと答えた。しかし、佐久野の表情は変わらなかった。
それからすぐ昼休みが終わるチャイムが鳴ったのであった。




