第9悲劇 ギルマスに挨拶した後は、今後の予定も考えないとね?
さて。哀れな犠牲者がひとり出たところで、私達は冒険者ギルドに入り、EXランクなのと、勇者一行であることを告げると、ギルドマスターに会うことになった。
冒険者ギルド内にある酒場では、私達を見て笑う不届き者もいたけれど、今回は無視。
どうせ彼らの食い扶持を壊すのだから、甘んじて受けてやろうじゃないの!
チョリーッスの街にあるAランクダンジョンは、〝オッスオッスダンジョン〟しかない。後はBランクかCランクのダンジョンしかないのだ。
彼らには、そっちに行ってもらおうと心に決めた。
「それで? EX勇者一行が一体、このチョリーッスの街に何用で?」
「はい、〝オッスオッスダンジョン〟のダンジョンボスについて、何かご存知ありませんか?」
「〝オッスオッスダンジョン〟のダンジョンボスねぇ……。ダンジョンボスまでの入口が開かないんだよ」
「開かない……と申しますと?」
「頑なにドアが開かなくなった。ここ最近でだ」
これは怪しい。
一体何の理由でドアが開かなくなったのかは分からないけど、それまではダンジョンボスはいたという事だ。
「ダンジョンボスはどんなボスだったんですか?」
「蜘蛛だな」
「蜘蛛……」
「ハズレね……」
「ハズ……え?」
「ああ、気にしないで下さい。蜘蛛のダンジョンボスだったんですね」
ミルクちゃんのぼそっと呟いた「ハズレ」というのは、人の形をなしていない……という意味だ。
私達が目指すのは、人の形をした魔族だったりするので、これはハズレだと言われても仕方ないのだけれど――。
「蜘蛛を使役する男がダンジョンボスだ」
「「「「当たりだわ」」」」
「え?」
「こちらの話です。どのような技を仕掛けてくるんでしょう?」
「ん~~。今まで討伐できた勇者も冒険者もいないが、ダンジョンボスには制限時間があって、蜘蛛の糸を絡めて動けなくする。その間に時間経過が来て終わる……というのが多いらしい」
「つまり、追い詰めた冒険者はあまりいないのね?」
「異世界勇者達が、かなり追い詰めたことがあるようですがね」
「なるほど」
しかし、問題はボス部屋が開かないと始まらない。
それはギルマスも同じ思いでいるようで、困り果てていた。
「何にしても、ボス部屋が開かないんで、どうしようもないんですよ」
「では、ボス部屋を制覇したらどうなります?」
「そりゃ、困るが半分……でも、世界からダンジョンが無くなるのは喜ばれるので……複雑ですね」
「なるほど」
「せめて、ダンジョンボスは倒しても、ダンジョンコアまでは壊さずにいてくれたら助かりますね」
「でも、新しいダンジョンボスが現れるまで、ダンジョンは活動停止しますよね?」
「いずれ活動再開してくれればいいので……」
「ギルマスも大変ね……」
「まぁ、お金が掛かってますからね」
「「「「身も蓋もない」」」」
とは言え、チョリーッス街の生活に関わることなのだろう。
一時的でもAランクのダンジョンに入れなくすることが出来るなら、まぁ……いいかな?
それに、〝ボス撃破〟名簿に載る訳だし、ありだと思うのよ。
今まで去っていった奴等への腹いせに……。
そんな事を思ってしまったけれど、ギルマスの部屋を出ると、私達は街の外に出て、ミルクちゃんの拠点に入り作戦会議。
すると――。
「ボス撃破ラリーするのもいいわね」
「実は私も思いました」
「デモ、雑魚ダンジョンハ、嫌ネ」
「狙うならAから上か」
「それに、アタシ気付いちゃったの」
「何にですか?」
「――現地勇者も、異世界勇者も、魔王討伐後回しにしてるわよね?」
「「「あ」」」
「こっちとしてはありがたい訳だけど」
確かに、婚活会場が無事であるのは良いことだわ。
「まぁ、異世界勇者は別として、現地勇者が魔王城に行かない理由、分かりますね」
「あら、なんでかしら?」
「行く途中で仲間と恋愛関係になって、勇者だけど家庭を持って、そっち優先……って言う人が多いんですよ。勇者である以上は、国からお金が出るんで生活は楽ですし」
「ああ、なるほど」
「かくいう私も、考えてましたし」
「魔王討伐は考えてないのね?」
「考えてないですね。婚活して結婚出来たら、後はのんびり~って思ってましたし」
「勇者ガ魔王ヲ倒サナイ理由」
「生活の安定は大事だからな……」
「ですです」
思わず頷き合う私とキャシーとナンシー。
その様子を見たミルクちゃんはというと――。
「それなら、異世界勇者がラスボス倒さない理由、分かるわよ?」
「なんでですか?」
「聞いた話なんだけど、魔王が、〝異世界勇者を元の世界に戻す魔法〟を開発したとか」
「え!?」
「異世界勇者が魔王の元に行かない理由になったんじゃないかしら」
なるほど。
異世界は「住みづらい・生活しづらい・生きづらい」の三点セットって聞いてるから、ミルクちゃんだって帰りたくないはず。
でも、お互いの婚活のためには行かなきゃいけなくて……。
「うふふ、安心して? 魔王の魔法も完全ではないらしいの」
「良かったです!」
「でも、安全面は考慮したから、今度その為にイサミン手伝って?」
「いいですよ」
「ありがとう!」
ミルクちゃんが居なくならない方法があって、私の力が必要なら使うべきだもんね!
これも立派な人助け!
私、偉い!
「まずは明日、オッスオッスダンジョンの攻略に向かいましょう」
「そうですね!」
「ま、急がず気長に行きましょう?」
「はーい」
「オリハルコンか、アダマンタイトが採取出来るといいな」
「イイネ」
そんな事を会話しながらの翌朝、早朝から私達はオッスオッスダンジョンへと入っていった。
これから一応、予定では一週間かけてゆっくり進む予定にしてるけれど、さて、どうなるかな?
何のトラブルもなければいいけど……でも。
(……正直、ちょっと安心した。魔王を倒さなくていい理由が、こんなに沢山あるなんて)
そんな事を私はつい思ってしまったのだった――。




