第10悲劇 愛とは? 恋とは? ユリとは!?
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オッスオッスダンジョンは、名前にそぐわぬ静かな場所だった。
もっと騒がしいダンジョンを想像してたんだけど……冒険者もまばらだし、まだ冒険者の活動時間じゃないのかな?
「えっと、オッスオッスダンジョンの魅力は、下層に行けば行くほど強い鉱石が取れることらしいわ」
「「「強い鉱石」」」
「ここで生活を成り立たせている冒険者もいるくらい、屈指の採掘場でもあるわね」
「いいんですかね……。そこのダンジョンボス、場合によっては婿にして」
「ダンジョンボスでありながら婿って最高じゃない?」
「最高ネ!! 夫トナル魔族ハ、自分デ金ヲ稼ゲル! 理想ヨ!」
「確かに、食い扶持くらいは自分で稼いでもらわんとな」
「あ~~確かに。嫁に理由があってのおんぶにだっこは仕方ないとして、ある程度は婿になっても自立してくれてる人が好みかも」
「自立してる人が好みなのね」
「ミルクちゃんは?」
「そうねぇ……」
と、ミルクちゃんの好みを聞こうとしたその時、奥からゲラゲラと品のない笑いをしながら歩いてくる冒険者と出くわした。
絡まれたら面倒だなーって思いつつ歩いていると……。
「お、いい女が一匹」
「スリットのだろ?」
「他は?」
「チビは五十点。化け物は零点」
「きついよなー」
「美人がビキニアーマーならわかるんだけどさー」
「「「「あぁん? なんだって?」」」」
思わず聞き捨てならない言葉に立ち止まり、メンチ切りを噛ました。
キャシーとナンシーのこの魅力あふれる肉体美を理解できない低俗共め!!
そして、ミルクちゃんの魅力を分かっている辺りは称賛しよう!
「あなた達、アタシの仲間になんてこと言うのよ」
「ヒュ~! ハスキーボイス、いいねぇ!」
「いや、君は百点満点の最高レディだよ? でも連れてるのがさー」
「五十点はまぁ、妥協するけど?」
「あ、でも首輪と縄着けてさ、奴隷みたいに『御主人様~』って言わせるのはアリな見た目じゃね?」
「お前、そういう趣味あったのかよ」
「ぎゃははは……ゴフッ!」
ツカツカとピンヒールを鳴らして歩いていったかと思いきや、私のことを奴隷のような格好にして想像して喜ぶ男の前に行き――
ミルクちゃんがピンヒールで鳩尾に一発ぶち込んだ。
吹き上がる血しぶき……あわわわ、い、異世界勇者が人殺しをっ!?
「今……アタシ達の大事なイサミンに……なんて言った?」
あわわ……真っ黒な目に光が宿らず、闇落ちしてらっしゃる!
大変だわ! 異世界勇者が闇落ち! 闇落ちでござる!!!
「テ、テメェ!」
「ピンヒールで鳩尾一発とか殺す気かよ!」
「まだ生きてるじゃない……。殺してやっても……こっちは構わないけど……?」
「ぶっ殺してやる!」
「だ、駄目です! ミルクちゃん!」
そう言った時には既に遅く――ミルクちゃんが片手を上に上げた途端、青い雷鳴が轟き、三人の男性冒険者に派手に直撃した!
プスプス……と焦げ臭い匂いがしたけれど、生きて……いるんだろうか?
「脳内もこれで一瞬にして記憶が消せたわね。全く、アタシ達の可愛いイサミンを、汚らわしい目で見た罪よ。罪には罰が必要なの!」
「全ク持ッテ! ソノ通リネ!」
「女勇者を奴隷等と」
「あれ? 奴隷なんて言ってましたっけ? でもミルクちゃんが闇落ちしちゃって怖かったわ……」
「嫌だわ、アタシったらイサミンのことになると冷静じゃいられなくて……。だってこんなに可愛い女の子なんだもの。変な奴らが変な妄想かましてたら殺したくなるじゃない?」
そういうもん?
そういうもん……なのか?
抱きしめられつつ不思議に思っていると――。
「でもミルクよ。勇者の夫候補の魔王が想像するのはアリなのか?」
キャシーさんの言葉に、ビタリ……とミルクちゃんの動きが止まる。
恐る恐る顔を覗いてみると……目が闇落ちしてますが!?
「魔王が……イサミンを……奴隷にするの?」
「いや、奴隷にはしないと思うが?」
「夫ネ。夫候補ネ?」
「夫候補よね? 良かったわ。候補なだけだものね? 危険性は高くないわ!」
「ミルク、モシカシテ……女勇者……好キ?」
「え!?」
ナンシーの思わぬ言葉に固まる私!
ミルクちゃんが私のことを……好き?
そんな夢のような話――!
「大好きよ~~! もうスキスキスキ――!!」
「ええええええ!?」
「でも、イサミンには幸せになってほしいの……イサミンの幸せがアタシの幸せ」
「「ミルク……」」
「ミルクちゃん……」
そんな……私の幸せをそこまで……。
嬉しい……!
絶対幸せになるね!
そう思ったその瞬間――。
「ソレデ、イイノカ? ミルク」
「……」
「好キナラバ、手元ニ置クノガ、愛ネ!」
力説したナンシーさんに、今度はキャシーが口添えする。
「魔王城で婚活は私とナンシーが出来れば良い。だが、ミルクは女勇者を……魔王に取られていいのか?」
「――本当は嫌よ!」
「えええええ!?」
「ずっとずっと好きだったの! でも勇気が出せなくて見てただけなの! 傍で見守っていこうと思ってたのに……だってアタシ……乙女だから……っ!」
「乙女デモ、好キニナル、性別ニ、縛リハ、ナイネ!」
「乙女でも乙女が好きになることくらいあるさ」
「つまり、ユリ!」
専門用語!?
ユリってなに? 花の事!?
ミルクちゃんの腕にガッチリ捕まえられて身動きが取れない私だったけれど、腕を離したかと思ったらガシッと両肩を掴んできた。
「イサミン……」
「はい!」
「乙女のアタシが……イサミン好きでも……いいの?」
「あーんー? 性別上では、結婚も出来るのでは?」
「そうね、性別上では男として登録しているわ」
「なら大丈夫じゃないか? ふたりは結婚出来るだろう」
「~~イサミン! アタシと、」
続きを言おうとした瞬間、物凄い殺気を感じて全員が武器を手にした。
こんなAランクのダンジョンに、一体何がいるの⁉
「俺は……勇者同士の結婚には……猛反対だ!」
「誰!?」
私が叫ぶと、黒煙とともに現れたのはひとりの男性……魔族だわ!
「現地勇者よ。異世界勇者より我の手を取れ!」
「誰よアンタ!」
「コノ威圧……ただ者デハナイネ!」
「イサミン気を付けて!」
「貴方は一体誰なの!?」
武器を手に臨戦態勢のまま聞くと、彼は高笑いしながら煙の中から現れる。
スラッとした背丈の男性。
敢えて言おう、筋肉は無さそう。
顔には仮面を着けているからわからない。
でも、魔族と言うのだけはわかるわ……。
「我が名はエステル。現魔王だ。イサミ……未来の花嫁よ」
「「「「!!」」」」
「さぁ、我と共に帰ろう。魔王城はいつでも君を歓迎しよう」
「断るわ! だって、だって……」
「だって……なんだ?」
「だって私――……っ!」




