第48悲劇 魔王城は徒歩20分圏内!筋肉乙女、成婚する!
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最果ての村だと思っていたオワタ街は、予想外に賑わっていた。
子どもたちが駆け回り、若者たちの笑い声が街を包み込んでいた。
その中でも特に目を引いたのは――ハーフの多さだった。
人間よりも魔族の血を引く者の方が目立っていた。
幸福度がすごく高そうな……そんなイメージが強いエリアだったのだ。
「これは……凄いわね」
「幸せオーラ満開ですね……」
ミルクちゃんと私は呆然としながら口にした。
ナンシーなんかは暫く無言になった後――。
「モッチョモッチョカラ、ココニ、移住モアリネ」
「ああ、旦那様になる人が魔王軍だものね」
「ゴルディバス大商会のここへの新規参戦もこれなら頷ける」
「ソウナノヨ。〝オターノシミデシターネ街〟ニダスヨリ、ウント、イイネ!」
未来予想図が着々と出来上がっているらしい。
でも確かにそれは良いと思う。
勇者がオワタ街に住むのは問題がありそうだけど……。
「イサミたちー☆」
「はーい」
「帰る時まだ私に連絡して頂戴? 迎えに行くわ☆」
「ありがとうございます!」
「迎えにっていうか、三日後に帰るんでしょう?」
「そうよ☆」
「それまでには戻るわ。だって……目の前魔王城だし……」
そうなのだ。
みえているのだ、魔王城が。
徒歩二十分と言う近さなのだ、魔王城が。
「待ッテイルカシラネ……ハロルド」
「会ったら抱擁ですか?」
「イイエ」
「我ら筋肉乙女。会ったらまずすることは……相手の耐久力が如何ほどか知ることだ」
「な、なるほど!」
「パンチデモ、ビンタデモイイネ」
「相手が吹き飛ばなければ合格だな」
「俺も……するんでしょうか?」
「ダンダにしたら君が死ぬぞ」
「「ですよね」」
思わずダンダくんと頷き合う私である。
とりあえず歩きながら魔王城まで向かうと、入口に獅子の魔族が立っていた。
もしかして彼がハロルドさん……かしら?
本当に徒歩二十分での再開。
これまでの、あれやこれの方が長く感じて、なんというか、このお手軽感。
これなら婚活PTもしやすそう!
私が思わずそんな事を想像していると、ザッと歩き出したのはナンシー。
ハロルドさんは筋肉隆々の獅子の男性で、ナンシーと睨み合っている……。
「会イタカッタヨ……ハロルド」
ナンシーの目に涙が浮かんでいた。
言葉にならない想いを、必死に押し殺して。
「笑止! 私のほうが会いたかった……」
ハロルドの声は震えていた。
遠く、手の届かぬ存在に感じた想いが滲んでいた。
「運命ノ邂逅トハ違ウネ。デモ……イザ尋常ニ勝負!!」
「受けて立つ!」
ああ……ついに始まっちゃうんですね……お見合いが!
いいえ、待ちに待った……二人の愛の奇跡!
そう思ったその時!
「時ニ、聞キタイネ!」
「何をだ!」
「モッチョモッチョ街ノ、タウンハウスに、偵察コウモリガイタネ」
「う!」
「覗キ見……シテタネ?」
「すすすす……すまないナンシー! 君があまりにも美しい為、変な輩が来るのではないかと心配でたまらず……っ!」
「オ風呂場ニモイタネ!」
「男の欲は果てしなく!」
「変態ネ! 許セナイヨ!」
バッッッヂィィイイイン!!
凄まじい勢いの平手打ち!
しかしハロルド選手動かない!
鼻血は吹き飛んでいるが、それでも動かない!
おっと。足元になにか……。
【身代わりの華】の花びらがニ枚散っている!
合計二回死亡!
そのうえで愛を受け入れられるのか!?
「許せなくてもいい……責任は取る! 結婚しようナンシー!!」
「~~馬鹿! ソノツモリヨ!!」
おおっと、告白成功!!
ガシッとお互い熱い抱擁!
お互いギリギリと筋肉と骨の軋む音が聞こえる!!
熱い、熱いぞこのカップル!!
「思わず実況してしまいました!」
「イサミンの熱いナレーションだったわね♡」
「迸る何かを感じたよ」
「芸歴幅広いですね!」
「芸歴って……」
私がツッコミを入れている所で――。
「ナンシー……もう君を離せないし手放す気もない……俺のものになってくれるか?」
「当タリ前ヨ……」
「ナンシー……」
「ハロルド……」
そこで熱いキッス!
キッスが来ました!
いや、片方獅子だし、ペットとチューしてるみたいだけど!
可愛らしいキスといえばいいんだろうか!
でも気持ちは熱い!
思わず拍手喝采。
キャシーに至っては涙を流している。
そうだよね……ずっと一緒に来た苦労を共にした……ような相手が、ようやく本当の相手を見つけたんだもんね……。
再会できたんだもんね……。
嬉しいね、嬉しいね……っ!
「さぁ、俺達はどこに帰ればいいんだい?」
「ひとまずはモッチョモッチョ街ネ」
「了解だ。落ち着くまで仕事のお暇を貰っている」
「ソレハウレシイヨ!」
「ははは!」
そう言って私達のもとに歩きつつポーションで傷を癒やしたハロルドさん。
彼は私達のもとに来ると頭を下げ、ご同行する許可を伺ってきた。
無論了承したけれど、ナンシーもハロルドも幸せそうだ。
ハートが突き刺さるくらい舞っている。
薔薇の花弁が舞うシーンを昔見たことあるけど、それのハート版。
凄い、濃厚。
「さて、このまま戻って船に乗って帰りましょう」
「ソウネ」
「婚姻はどこでするの?」
「オワタ街は魔族の隠しが上手い、そこでやろう」
「了解ヨ」
こうして私達はオワタ街の教会に行き、ナンシーとハロルドさんの婚姻の署名を見せてもらった。
これで、ハロルドさんは人間の世界では「獅子の獣人」と言う事になった。
花びらを購入して仲間内だけでのお祝いになったけれど、きっと後で盛大な結婚式をするのかも知れない。
喜ばしいね!
「さて、船乗りのアルバレルさんと合流しましょう♡」
「そうですね♡」
「ハロルド……♡」
「ナンシー……♡」
「すごくハートが舞ってますね」
「我々には遠い世界だが、我々は互いの速度を守っていこう」
「はい!」
――こうしてアルバレルさんと合流し、三日後、私たちはモッチョモッチョ街へ帰還した。




