第38悲劇 証人は勇者PT、義姉予定、却下のお知らせ②
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次の日から始まった聞き取り調査。
最初は皆口を閉ざしていたけれど――お茶が出された瞬間、状況は変わった。
無論、【口滑りの薬】入りである。
ゴルディバス大商会の弁護士の前で、彼らはスルスルと真実を語り始めた。
全員一致していたのは、彼女は花街で男娼と〝親睦を深めていた〟ことが発覚した。
しかも「市民に嫁ぐなら初めてじゃなくても問題ないでしょ?」と豪語していたらしい。
あらまぁ……。
ゴルディバさんの顔を見ると、顔を真っ赤にして、今にもオーガ第二形態に進化しそうな気配だった。
嫌ですよ?
大事な仲間の兄が怒りでオーガになり討伐対象なんて。
「話は以上か?」
「はい……」
「弁護人、聞いていたか?」
「しっかり証言を録音させていただきました」
録音する魔道具は、最近になって一部の富裕層が持つようになったアイテム。
高価な魔道具だが、専属弁護士なら当然か。
証言として残っていたら、どうしようもないですもんね。
「俺を、そして我がゴルバディス大商会をここまでコケにした令嬢というのは……初めてだな」
「この録音した内容も含め、彼女のご両親には既に連絡しておりますので、今日の夜にも到着なさいますでしょう」
「ありがたい。で? 当の本人は?」
「お買い物があるとかで出かけていらっしゃいます」
「婚約者に挨拶もなしか……」
「ソウイウ人ナラ、尚更イラナイネ」
「ゴルディバさんが心を砕くまでもないわ♡」
「何たる無礼! 婚約を軽んじるとは何事だ!」
三人の手から、ゴギ……ゴギゴギ……と物騒な音が鳴る。
笑顔のミルクちゃんは青筋立ててるし、ナンシーは無表情だし、キャシーも今にもオーガになりそう!
私とダンダくんは身体を小さくして「ひぇえええ」と悲鳴を上げていました……。
「キャサリンさん落ち着いてください! そのままだと血圧が上がって大変な事に!」
「あの無礼者を許せるか!?」
「許せません! ですが、ですが俺……キャサリンさんの身体が心配で……」
「ダンダ……」
キャシーの腕にそっと手を添え、絞り出すように言う。
彼女は息を大きく吐いて落ち着き、ダンダくんの頭を優しく撫でました。
良かった……キャシーがオーガにならなくて……良かった。
つい涙を拭い、その微笑ましい様子にほっとしたのも束の間、ゴルディバさんも溜め息を吐き、キャシーとダンダくんを見つめつつ――。
「君たちのような関係は……尊いな」
「「え?」」
「いや、君たちには君たちの速度があるだろう。だが、尊く思う」
「ふむ、私とダンダが……か?」
「俺とキャサリンとの間が?」
「気付いてないのは本人達ばかりか?」
「ソウネ」
「今は、これでいいのよ♡」
二人が意味がわからない……と言った様子だったけれど、私はその様子を微笑ましく見つめ、この尊さの反面――あの女は……と呆れた。
帰宅して夜になれば地獄が待っているだろうに。
そもそも、本当に買い物に行っているのかどうかさえも怪しい。
「ところで、本当にアルマティアは買い物に行っているのか?」
「いえ……例の〝親睦先〟に……」
「はぁ……もうそれくらいでは驚かんな」
「全クネ。我ガ家ヲ、馬鹿ニシスギヨ!」
「正当に、契約に則って清算しよう」
「おまかせ下さいませ」
こうして夜、正に決戦が行われることとなった。
でも、一応聞いておきたかった。
「ゴルディバさんは、彼女に未練とかは」
「ないな! 全く無い!」
「潔い!」
「確かに俺は可愛らしい娘が好みだが、あの女は論外だ」
「「「「でしょうね」」」」
「故に、今回の婚約はない、破棄する。結婚など考えられん」
「納得です」
兎に角、ゴルディバさんも嫌になっていると言う事ね。
好きな女性もいるようだし、この婚約が破棄されたら動くのかもしれない。
その恋心を封印してでも、婚約者がいるのならばと諦めようとしていたいじらしさ。
なんというか、本当に実直な人なんだろうなって思った。
そして夜。
アルマティア様側の両親が揃っているにも関わらず、未だに愛人の家から帰ってこない彼女。
行き先を知っている彼女専属の部下に迎えに行くように指示を出そうとした頃合いで、彼女は帰ってきた。
「まあ! わたくしを見捨てた不届き者たちが!」
「さて?」
「別に護衛頼まれたわけでもないですし」
「私達ハ、同ジ行キ先ダッタダケニスギナイネ」
「やだわ! これだから冒険者は――」
そう彼女がギャンギャン吠えそうになったところで、既に事前に録音を聞いていた彼女の両親――父親は手を振り上げ――だが、寸前で止めた。
その震える手の方が、何倍も重かった。
驚いた彼女はよろけて床に崩れ落ちた。
これから、このゴルバディス大商会にどれだけの賠償金を取られるのかも知っているのだ。
当たり前だけど、自業自得よね……。
「お前……お前という奴は!」
「お、お父様……?」
「貴方おやめになって! それは家ですべきことですわ!」
「全くもってその通りだな。ここにある家具はどれも一級品。傷でもついたらそれだけで……な?」
「ぐっ!」
「暴力で解決するつもりはない。契約の話をしよう」
ゴルディバさんの言葉にアルマティア様のお父様は肩で息をし、怒りに震えていらっしゃる……。
ああ、こうなるともう駄目よね。
家での彼女の地位も何もかも失うわ。
「では、……話し合いをしようか」
「ソウネ。我ガゴルディバス大商会ヲ、敵ニマワシタソノ罪ハ大キイヨ?」
家具がひとつも壊れなかったのは、理性が最後まで踏ん張った証だ。
壊れたのは、信頼だけで十分だった。




