第32悲劇(閑話)その出会いは、正に運命としか言いようがなく……
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――???Side――
エステル魔王様に、暫くの間獣人としてカテエラの街にて過ごし、ダンジョンボスとしての仕事は暫く休憩せよとのご通達があったのが、今から一ヶ月前。
俺はひとり、獅子獣人の姿で今日は隠れたバーに来ている。
このバーには、獣人も人間も、冒険者も集まる。
だが本当に知る者しか辿り着けない、隠れ家のような店だった。
洗練された室内、程よく薄暗い部屋、売人もおらず治安も最高。
ピアニストによる演奏が程よく気持ちの良いバーは、俺のお気に入りになるのに時間は掛からなかった。
そして、俺の耳に入ってくる今日の情報は、俺の管理しているダンジョンのボス部屋で死人が出ていたと言う話。
恐らくエステル魔王が倒した冒険者だろうが、ボスも居なかったことから、詳細は不明とされている。
それもそうだろう。
ボスである俺はここでひとり、酒を飲んでいるのだから……。
「隣イイカシラ?」
「ああ、構わ……」
漂ってきた極上の女の匂い。
全身の細胞が活性化するのを感じた!
思わず目を見開き、グラスをゆっくり置いて隣を見ると――美しい銀の髪に青い瞳をした……筋肉美の美しい美女が座っていた。
正に、ゴリラ……いや違う。
そんな野生の猛獣と一緒にしてはいけない。
人間でありながら筋肉量、そして洗練された美しさ、太く逞しい手足は筋肉で血管が浮き出ていて……全てが素晴らしいの一言に尽きる。
優雅な立ち振舞で、ウイスキーの水割りを頼んだ彼女は、ふっくらとしたこれまた美味しそうで美しい唇でウイスキーを呑む。
仕草も、全てが洗練されていて好みの真ん中をストレートにぶち破ってきた。
心臓が高鳴る。
血管が浮き出る。
これは――この感覚は!!
噂に聞いていた――〝運命の番〟と言うやつではないだろうか!!
「失礼だが……お名前は? ああ、俺の名はハロルド」
「ナンシー」
「ナンシーか……。名も実に美しい」
「ソウ? アリガト」
これだけ美しいのだ。
場馴れしているのか、数で慣れているのか……声すらも美しく、俺はたちまち彼女の虜になった。
最早彼女なしでは……生きていけないかも知れない。
巣に、巣につれて帰りたい衝動に駆られる!
ああ、どうしたら良いんだエステル魔王様!
こんな俺にも、運命の番が現れました!!
獅子獣人と魔族の間に生まれた半端者の俺は、人間社会では生きられず、魔界で育った。成績は常にトップクラス。同期は今や四天王だ。
俺も誘われたが断った。
エステル魔王様の傍に立つには、俺はまだ未熟だったからだ。
その代わりに任されたのが、アウートダンジョンのボス。
魔王様に言われた言葉はひとつだけ。
「生き残れ」
その言葉だけで、俺はここまで来た。
両親には心配された。だがそれも当然だろう。
半端者の俺に出来ることは、生き残ることだけだった。
だが――。
「ナンシーは、この辺に住んでいるのか? それとも冒険者か?」
「冒険者シテルヨ」
「そうか……危険と隣合わせだな」
「ソウデモナイネ。皆イイ人バカリヨ。ダケド、チョット今夜ハ、ひとりデ呑ミタイ気分ダッタダケネ」
「だとしたら、俺はとても運が良い。君のような美しい女神のような女性に出会えた」
「フフ……可笑シイ事イウ。ハロルド……ダッタカシラ?」
「うむ、呼び捨てで構わない……君には名前で呼ばれたい」
「困ッタ人。私ヲ口説イテモ、仕方ナイヨ」
「何故?」
「私ハ冒険者ネ。シカモ、普通トハ少シ違ウヨ? ダンジョンボスニ、今回求婚シニ来タネ」
「え!?」
思わぬ情報に目を見開くと、ナンシーはくすくす笑って俺を見つめた。
その瞳が何とも色っぽくて、心臓が口から吹き飛びそうだった……。
「私、婚活シテル。今度、魔王城ニ、婚活シニ行ク」
「ま、魔王城に!?」
「最大級ノ、婚活会場ネ! キット、強イ男性沢山。私ノ拳ヲ受ケ止メル……ソンナ、強イ男ノ魔族、探シテルネ!」
「――……っ!」
「ナノニ、アウートダンジョンノ、ボス……イナカッタミタイネ」
「っ! そ、そのようだな」
「魔王ニナニカイワレタカ……。留守ニシテルダケカ……。ナンニシテモ、モウ、ダンジョンボスニハ、用ハナイネ……」
「何故?」
「魔王城目指スカラヨ。ソコデ婚活ヨ! 目指セ! EX冒険者ノ拳受ケ止メル強きオス!!」
彼女は、ナンシーはEX冒険者なのか!!
だが、それならばこの筋肉量も頷ける……。
実に素晴らしい筋肉だ。
ああ、撫でられるのならその筋肉を撫でたい……肉球で。
「もう、君に……会えなくなってしまうのだろうか?」
「ソウネ……。フフ、遊ビデモ、声ヲ掛ケラレタノハ、初メテヨ」
「遊びじゃない! 俺は本気だ!」
俺の大声に周りがシン……とする。
咄嗟に口元を隠したが、ナンシーは優しく微笑むばかりで……。
ああ、ナンシー……俺は君に嘘をついてこの姿をさらす事を許して欲しい。
「どうしても……魔族と婚姻したいのか?」
「ソウネ……。ハーフデモ、何デモイイノヨ」
「ハーフでも?」
「ソウ。私ヲ、心カラ、愛シテクレル男ガ現レタラネ」
「俺では……不足だろうか? ナンシーに見合う男になるには、まだまだ足りないのかもしれない――でも!」
そう切実に問いかけると、意外だったのかじっと俺を観察する瞳で見つめ……。
「賭ケ、スル?」
「賭け?」
「私ヲ追イカケテ、魔王城マデ来レタラ。結婚シテアゲル」
「!?」
「私達、原始ノ森突っ切ッテイクネ。後ノ日程不明ネ。デモ、行キ着ク先ハ」
「魔王城……」
「ソウネ」
「本当に、魔王城まで行って待っていたら……結婚してくれるな?」
「私、嘘ツカナイネ」
「良いだろう。必ず、魔王城で君を待つ」
「フフフ。面白イ賭ケ、出来ソウネ?」
「俺は余所見をせず、魔王城を目指す。君も……その……」
「賭ケ、シテル間ハ、男ヲ選バナイネ」
「――ありがとう!」
これで、勤務地でもある魔王城にて毎日待てば……ナンシーを手に入れる事が出来る!
俺は嬉しさのあまり雄叫びを上げそうだったが、なんとかこらえた。
「楽シミニシテル、ハロルド?」
「なんだい、ナンシー」
「会エナイ間ハ、スパイスネ?」
「俺は本気で手に入れに行くぞ?」
「フフフ、オ手並ミ拝見ネ?」
「待っていろ、ナンシー」
「アア、ソレト」
「ん?」
そう言うとナンシーは俺に近づき、耳元で……。
「姿、上手ニ隠シテルケド、漂ウ匂イハ、誤魔化セナイネ?」
「!?」
「デモ、本気、伝ワル。獣人デイウ、運命ノ番ネ?」
「――ああ、俺にとってのナンシーは、運命の番だ」
「ソウ。今直グ返事出来ナイネ。貴方ノ気合見セテ欲シイ。本気ノ拳、魔王城デ」
「鍛えておく」
「フフ、楽シミニシテルネ?」
極上の笑みを浮かべたナンシーに、俺は鼻血が出た。
その後、俺のたてがみを撫でて去っていったナンシーが色っぽくて。
獅子と恐れられる俺を、まるで猫を扱うように去っていくナンシーの格好良さ。
そして色気は最早、最上級だ。
「待っていろナンシー。俺は必ず体を鍛えて見せる!」
――今よりももっともっと、マッスルボディに!!
そして魔王城で、最強の婚活をぶちかますのだ!!




