第28悲劇 緊急ミッション発生!②
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〝カテエラ街にあるアウートダンジョン〟は、獣属性の魔獣や魔物が多いエリアだ。
その為、常に魔物の鳴き声や遠吠えなども聞こえてくる……。
中に入れば草原のような場所も多く点在し、そこを突っ切って行く形のダンジョンになっているのだけれど――……。
「ソウ言エバ、亀ノ魔物ノ甲羅ガ、高騰シテイタネ」
「ああ、そういえば……。ナンシーの実家のゴルバディス大商店でも、高価買取してたやつよね?」
「ソウソウ。甲羅占イヲ、国オカカエノ、占イ師ガスルトカデ、皆必死ヨ」
「もしかして、その甲羅を取りに、アザースの人たちを雇って?」
「それなら、アザースの人たちだけに行かせればいいわ。謎なのは、何故依頼主がついてきたのかってところよ」
「アノ男ノ事ネ。自分ハ商品ヲ見ル目ガアル。トカイッテ、ツイテキタノカモネ」
「厄介な……」
「最悪ですね、プライドだけは高いボンボンの発想です」
「実際ソウネ。ボンボンノ、クソ男ネ」
辛辣~!
でも、あの時会った男がナンシーの元婚約者だとしたら、本当に最低だと思うし、人の不幸を呪わば穴二つ……考えるのはよそう。
せめて、私だけでも無事だと良いなと思ってあげておこう!
最低男さん、生きてると良いですね!
精神までは保証しませんが!
「ん? どうしたキャンディ」
「どうしたダンダ」
「それが、キャンディが何かを探し当てたみたいで」
キャンディとは、ダンダくんとキャシーがデートの練習に行った際に見つけて、ダンダくんがテイムした〝ブラッディスライム〟のことだ。
血にしか反応しないのに、何かの血に反応した。
もしかしたら、何か見つかるかも知れないと、キャンディを出してもらい跡を追いかけていくと――そこには血溜まりがあった。
乾いてしまっているけれど、恐らく二日前ほどの血の跡だろうか……。
「キャンディ、この血は……うん、人間の血なんだね」
「人間の血か……」
「着いてこいって言ってます。もしかしたらどこかで倒れているのかも知れない。急ぎましょう」
「そうしよう!」
こうして、まさかの第一層の広場途中の草むらの中で見つけた血溜まり。
普通なら見つからないところだった。
キャンディの出番がまさか、こんなところで出ようとは……。
そんな事を思いつつ着いていくと、奥に草原と木々に隠れた場所に洞窟が。
「人の気配を感じます!」
「誰かいるのか!」
「その声は……キャシーか!」
「その声は、アモーダか!」
どうやら行方不明になっていた〝アザース〟の面子の誰かがいるらしい!
急ぎ洞窟の中に入っていくと、ミルクちゃんが「ライト」と魔法を使うと、周囲を照らしてくれて、中へと向かう中、血の跡は続いていた。
「誰か、お前たちの誰でもいい! ポーションを持っていないか!?」
「ハイポーションも二本あります! 向かいます!」
「助かる!」
「リーダーが大変なんだ!」
その言葉に急ぎ走っていくと、奥でガチガチと歯を鳴らしてお漏らししている依頼主らしき人の白いスーツは真っ赤に染まっていて、リーダーらしき男性は切り傷が……。
「酷い……」
「直ぐハイポーション出します」
「お願い」
「アタシも手伝うわ」
「クオーズはどうしたんだ?」
「それが……たまたま居合わせた異世界勇者が追い抜きざまに、いきなり切りつけてきて」
「挨拶がてらいきなり切りつけてくるってあり得るか⁉」
「異世界勇者おっかねぇよ……。笑顔で過ぎ去りざまにいきなり……」
「そうだったのね……」
「『女がいたら楽しめたのにオスばっかりかよ』って言って笑いながらだぜ……」
「「女の敵だな」」
「そいつ等、EX勇者パーティだったの?」
そう私が聞くと、アザースの人たちは首を横に振ったわ。
勇者じゃ……ない?
じゃあ、なんでSランクを簡単に……。
「彼奴等……勇者じゃなかった」
「ああ、だがEXなのは間違いなかったがな……」
「勇者じゃないのにEX持ち……でも元異世界勇者なのよね?」
「ああ、元異世界勇者だな。〝勇者剥奪者〟ってやつだ」
「クオーズ、意識は戻ったか?」
「血が抜けすぎて動けないが……このザマで話はできる。お前たちもこの先に進むのは危険だ」
「……元異世界勇者で、勇者剥奪された阿呆がいるのね?」
「ああ、暫くここらを拠点にすると言っていた」
「厄介ね……」
「ソコノ依頼主ハ……精神、死ンダカ?」
ナンシーの冷たい言葉に依頼主を見ると、泡を吹いて倒れた。
「やっと失神してくれた」と呆れたようにホッと息を吐くアザースの人たち曰く、本当は元異世界勇者は、この彼を狙って刃物を振り下ろしたらしい。
それを咄嗟に庇ったのが――クオーズさんらしいのだ。
大量の血なんて見たこと無い依頼主は悲鳴を上げ、それを元異世界勇者達はゲラゲラ笑いながら去っていったらしい。
「直ぐに帰還の札を使おうと思ったんだが」
「見てくれ」
「これは!」
「奴らの中にレアスキル持ちがいる。他人のアイテムを破壊するスキル持ちだ。おかげで全員〝帰還の札〟が壊されていた」
まさか、そんなスキル持ちがいるなんて……。
帰還の札なんて、冒険者にとっては命綱。
それを壊すなんて余程悪質だわ!
「つまり……“勇者剥奪されたEX持ちの連中”が、依頼主を庇ったクオーズさんが襲われて、“帰還の札”まで破壊していったってことね……。事は重大だわ。冒険者ギルドで事情聴取を取るためにも、一旦外に帰りましょう」
「的確な判断。流石元冒険者ギルドの受付嬢ですね!」
「うふふ、そうでもないわよ♡」
「もしもに備えて、帰還の札は予備に多めに買ってあります。良ければ使ってください」
「何から何までありがとう。君たちのポーターは優秀だな」
「当たり前だ。我らのポーターだからな!」
こうして私たちは一旦ダンジョンの外に出た。
ミルクちゃんがダンダくんをおんぶし、キャシーが失神した依頼主を抱えている。
今回は緊急ミッションが入ったから婚活は仕方ないけどお預け。
それ以上に、ダンジョンにEXの勇者剥奪組がいるほうが危険だわ。
「勇者剥奪組がいるなんてね……」
「彼ら、危険だと……聞いています」
「ええ、国の手綱から完全に外れた暴徒よ。危険極まりないわ」
「ハァ……セッカクノ婚活装備ガ泣イテルネ。次ハ絶対、誰カ口説キ落オトシテヤルネ‼」
「その人達は……婚活ではないですよね?」
「ダンダくん。ダンジョンに婚活に来てる冒険者は、少なからず私達くらいだと思うわ。多分だけど」
「多分なんですね……」
「ライバルが居たら蹴散らすだけよ。ふふふ♡」
そう言いつつ冒険者ギルドに到着すると、ギルマスが事態を重く見て応接室に案内してくれた。
そこでアザースの面々が語った内容は特に変わりはないけど――。
「そういえば、逃げた異世界勇者を探しているそうです」
「逃げた異世界勇者?」
「ユサ……と言う男性だそうですが」
「ユサ?……異世界勇者のユサ?」
「ええ」
その言葉に急に眉を寄せたミルクちゃん。
一体どうしたのかしら……。
けれど次の瞬間、私の耳に聞こえるかどうかの小さい声で……。
「あの屑。まだ諦めてないなんて……」
「ミルク……ちゃん?」
私の声に、ミルクちゃんは顔を背けた。
けれど、その拳はぎゅっと握られたまま――何も語らない夫の瞳には、確かな怒りと怯えが混ざっていた。




