第26悲劇 お互いに、触れ合わない距離で……
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――ダンダSide――
「デートの仕方がわからない?」
「うむ……我はそんな事をしたことがなくてな」
「すみません、俺もデートしたことがなくて……」
「最初の簡単なデートを知りたいのね? それなら――」
俺達はミルクさんから“初心者向けデート”として提案された――何故か薬草摘みに来ている。
二人で会話を楽しみながら人助けにもなって金も稼げる。
たしかにそうかも知れない。
俺は薬草には詳しいので、苦労しないクエストでもあった。
「ふむ、我は護衛と言う感じか」
「すみません。初級冒険者が受けるようなクエストを受けて来てもらって」
「何を言う。これはなんと言おうと【デート】なのだ。二人で色々話し合うと言う大事なミッションだ」
「そ、そうですね!」
デートと言う名のミッション。
中々に冒険者らしい発想に、俺は思わずキャサリンさんの良さを更に知った気がして笑顔になった。
「俺は小さい頃から薬草を探しにコッソリ外に出ては、冒険者ギルドで売ってたんです」
「そんなの、よくシスターが許したな」
「いえ、許してくれませんよ。ただ、少しでもお金を稼いでお薬が買えなくて死んでいくような弟妹を無くすためには、背に腹は代えられない……と言うやつでした」
「……そうか」
「モンスターに襲われることもありましたが、幸いモンスターは最後まで俺を倒すことは無かった。今思えば……テイムの力が少し作用していたのかも知れない」
「ふむ」
「なら、冒険者になれば良かったじゃないかって言われるでしょうが……。俺の兄貴……ああ、血はつながってませんが。冒険者になった兄貴との約束で……冒険者には絶対になるなって約束させられたんです。ポーターなら良いのかって聞いたら渋々了承してもらえましたが」
「確かに、ダンダは冒険者には向いていないな」
話をしつつも薬草の束を五つまで用意すると、汗を拭い鞄にしまい込む。
後は煎じて呑む腹痛止めの薬草だけだ。
「俺は……冒険者には憧れました。やっぱり花形ですし、憧れます」
「だが、我も苦労した……良いことばかりではない」
「はい、俺もポーターとして苦労しました……。今いる皆さんのところでは良くして頂いて……本当に申し訳ないくらいで」
「気にするな。我らは誰も気を使っていない」
「ありがとうございます! 女性だらけではないですが、女性の多いパーティだったので、俺もちょっと緊張してたんです。不手際があれば申し訳ありませんから」
「はっはっは! 勇者やミルクはともかく、我やナンシー相手に女性だとハッキリ言って敬意を見せる男性は少ない。ダンダは見る目がある」
「ありがとうございます!」
「故に、兄上は心配為さったのだろう。素直で優しいからこそ、つけ入れられて苦労すると」
「そうかも……知れません。俺はきっと、自分をしっかり持っている姉御肌の女性が合うんだろうなって思います。実際言われましたし」
そう思うと、キャサリンさん……がこのPTでは最も……。
いけない。そんな失礼な事を考えては。
確かにちょっと胸がドキドキすることはあるけど、彼女は今大事な婚活期間なんだ。
邪魔をしてはいけない。
「キャサリンさんは、どんな男性が好みなんですか?」
「ふむ……」
「すみません、不躾に」
「いや、婚活をしている身。理想はそうだな……紳士的な男性と言うことだろうか」
「紳士的な男性ですか」
「魔族だろうと人間だろうと、我やナンシーを、ちゃんと女として見てくれるような男だな。それを言えば、もやし魔王等、我らを『筋肉乙女』と言っていたので、狙い目ではある」
「な、なるほど」
〝もやし魔王〟……。
俺も相当〝もやし〟だけど、それ以上になんだろうか……。
「その……キャサリンさんは……。もやし男性は……」
「美味しく料理できるから大好きだ」
「美味しく料理……」
――やばい、料理されたい。
耳まで真っ赤になってしまった。いけない、煩悩抑えないと!
キャサリンさんに料理されたいなんて……婚活しているキャサリンさん相手に、なんて失礼なことを考えてしまったんだろうか!!
「キャサリンさん!」
「どうした」
「俺は、貴女とナンシーさんの婚活を……心より応援しています!」
「うむ! ありがたいな!」
「いつか、この……このデートの練習が役に立ったら……良いなと思います」
「そうか! と言っても、我は立って周りを警戒しているだけだが!」
「いえ、それだけでアイテム回収は安心して挑めるんですよ? コチラは今日のお礼です。いらないかもだけど……」
薬草取りの間に見繕った花束を手にキャサリンさんの元へと駆け寄り手渡すと、驚いたキャサリンさんは呆然としながら花を受け取ってくれた。
「迷惑でしたら……捨てて下さい」
「いや、大事に保管しよう……」
「……ありがとうございます」
「くくく……はっはっは!」
突然大笑いを始めたキャサリンさんに驚きつつ戸惑っていると、キャサリンさんは目元を大きな手で覆い、震えだすと――。
「父上にも花を貰ったことがない……ははは……っ! 人生で初めての……花束のプレゼントだ」
「キャサリンさん」
「実は今日、我の誕生日なのだ……。家族は一度も祝ってはくれなかった」
「……それは、とても辛かったですね」
「ああ、つらい。だから我は冒険者になった。家に居場所もなく、結婚相手もできないとなれば、最早外に出るしか無かった。正直、このようなことを言うのはお門違いだろうが……孤児院で育ったと言うダンダが羨ましい」
「キャサリンさん……」
「故郷か……如何なるものだろうな。我も結局、根無し草なのだ。強くあればあるほど、居場所は削れていく」
そう言って涙をそのままに空を見つめたキャサリンさんは、いつもの姉御でなく……ただ一人の女性に見えて、胸が苦しくなる。
ああ――俺は、俺はきっと、もう戻れないところまで――。
「キャサリンさんが根無し草だと言うのなら……。何時か……いつか結婚相手と……新たな故郷を作れると……いいですね」
「そうだな……。その時は、ダンダも来てくれるか?」
「……ふふ、新婚家庭にお邪魔は出来ません」
「……そうか」
お互い少し切なさを感じているような気がした。
でも、その事はお互いに……胸の奥底にしまい込んで……。
何より、この生まれた〝初恋〟は――鞄の奥に仕舞い込んで、固く蓋をした。
「帰りましょう」
「ああ、帰ろう」
切ない気分を味わいつつも、手を繋げそうなほど近くで寄り添いながら、家路へと着いた。




