第15悲劇 この婚活、戦闘力が全てです!
「女現地勇者は連れ帰る……。だが――お前たちは、今ここで死ね!」
「なんで私だけ連れ帰るんですか!?」
「お前は献上品だ! それもエステル魔王様へのな!」
「えええええ!?」
そう驚いた次の瞬間――誰よりも先にミルクちゃんが動き出した!
宙に浮かされている状態で敵とは繋がっている。
それを知ったミルクちゃんは、高速回転の衝撃が壁ごと敵を吹き飛ばした。次の瞬間、私を縛っていた糸が弾け飛ぶ。
「今……もやし魔王に、アタシのイサミンを献上するって聞こえたわ……? ねぇ、気のせいよね?」
「うぐ……なんと言う……力……」
魔族の絞り出す声が聞こえる。
途端キャシーとナンシーもミルクちゃん同等に突っ込んでいった!
威力はきっとミルクちゃんの倍はありそうな高速回転で、二回ほど爆発のような衝撃が走ったけど!?
「ライト!」
ミルクちゃんが叫ぶと、光の玉が宙に現れ、ダンジョンボスの部屋が照らされた。
途端力を失った私を捕まえていた蜘蛛の糸が急落下!
それをミルクちゃんがピンヒール鳴らしてキャッチ!
「大丈夫? もう怖いことはないわ」
「あ、ありがとうございます! あの、魔族さんは?」
「見に行けばわかるわ」
その言葉に、ミルクちゃんが私に巻き付いていた針金のような糸を素手で簡単に破り捨て、私達はもうもうと煙が上がる場所へと走った。
そこには――ミルクちゃん及び、ふたりの突撃を食らって口から血を流し、倒れている魔族が!
「う……ぐ……」
「軟弱ネ。婚活ニ来タノニ。私達ヲ受ケ止メラレナイナンテ……」
「不意打ちならこんなものだろう。受け止めると言う気概があればこうはならなかった……と思いたいな」
「なん……と言う……力……。これが……ぐっ……」
「さぁ、お遊びは終わりだ。立て! 見合いだぞ!」
「チョットシタ、挨拶ハ、終リネ!」
「我が名はキャサリン! 君の名は……?」
「ル……ルドルフ……」
あ、律儀に応えるんですね。
意外にも良い魔族なのかも?
「蜘蛛を操る魔族で、相違ないか?」
「は、はい……」
「何故今回、蜘蛛を使わず我々を捕まえようとした? 蜘蛛を使えば無事だったろうに」
「君たちを蜘蛛を使って捉えれば……愛する魔物たちが死ぬことになる……俺は、あいつらを家族だと思っている……」
「オオ、聞イタカ、キャシー。可愛ガル魔物を、殺サセナイヨウニ、私達ヲ受ケ止メヨウトシタラシイゾ!」
「おお……なんと言う慈悲深い! これは好感度大幅アップだな!」
盛り上がるキャシーとナンシー。
しかし、ルドルフさんは痛みに震えながら立ち上がると――。
「言っておくが、君たちも相手を選ぶ立場だろうが、俺だって相手を選ぶ権利くらいはある!」
「「なんだと?」」
「私達ジャ、不満カ!?」
「私達筋肉乙女は、夫となる者には優しいぞ! 安心するがいい」
「優しいならこんなダメージは受けていない!」
「それは、先にそちらがアクションを仕掛けてきたからだ」
「ツイ、嬉シクテ、飛ビ込ンデシマッタネ!」
「くっ! 攻撃とも思われていない……っ!!」
ああ、凄くショックを受けていらっしゃる……。
ルドルフさんの最大の攻撃は、あの針金のような蜘蛛の糸だった。
そして今まで時間稼ぎして数多くの冒険者を追い出してきた筈。
それが一切、私達には通用しない事に……嘆き悲しんでいるようだったわ。
「ああ、これではもう……逃げ切れないっ! エステル魔王様が仰っていた通り……」
「あら? その魔王様はなんて仰っていたのかしら?」
「それは……」
口を閉じたルドルフさん。
何か言いたくても言えない理由が――と思った途端、ミルクちゃんのピンヒールが彼の脇腹近くにズドン……と刺さり、壁がパラパラと音を立てた。
「もやし魔王は、ナンテ?」
「はい! 居留守を使って駄目なら即座に逃げろよと!」
「我らの前から逃げる……だと?」
「コッチハ、婚活ニ来タネ! ナノニ、逃ゲル、意味ワカラナイヨ!?」
「その婚活から逃げる為だよ!」
「「なっ!?」」
「人間は野蛮だ! オーガやオークといった彼らの肉を貪り! 悍ましい!!」
「肉! 美味シイネ!」
「――我ら魔族は肉を食わない! なぜならそれが野蛮な行為だからだ!」
「「「「魔族はベジタリアン!」」」」
初めて聞く内容に驚きを隠せないでいると、ルドルフさんは更に言葉を口にした。
それも、吐き捨てるように!
「人間は肉を喰らい、我ら魔族や魔物の肉を、旨いと言いながら食べる! ヘルシーで体に優しい野菜を好む我らとは相容れない存在なのだ!」
「野菜ダケを食ベテモ! 筋肉ハ、ツカナイネ!」
「そうだとも! 良質なタンパク質を口にしなくては、我ら美しい筋肉は育たないし、維持も出来やしない! ……だから魔王はもやしなのか……?」
「あり得るわ。肉を食べず良質なタンパク質を手に入れられない魔王や魔族は、きっともやしなのよ……。ルドルフもよく見れば細マッチョの類だし」
「「「確かに」」」
なる……ほど?
魔族は総じてベジタリアンな為、良質なタンパク質が取れずに細マッチョがいいところ……ってところかしら?
確かに細マッチョな冒険者って人気が高いけど、私はムキッとムチッとした筋肉主義者なのよね……。
魔族との婚活、無駄かも。
「魔族でも筋肉質な人いるの?」
「はい、お妃様」
「……今度、イサミンをそう呼んだら……股間に穴開けるわよ……」
「はい! お姉様! きをつけましゅ!」
ビシッと背筋を伸ばして敬礼したルドルフさん……。
この短期間でミルクちゃんに調教されてる……。
「それで、その筋肉質な魔族は、どんな人がいるのかしら?」
「……四天王の方たちは皆さん総じて筋肉質でいらっしゃいます」
「なるほど? と言う事は、やはり魔王城を主体とした婚活したほうが良さげね」
「しかし、カテエラの街のアウートダンジョンのボスは……獣人と魔族の間の子なのでかなりの筋肉質です」
「「ほう?」」
「ケモナー大歓喜ですね」
「カテエラの街のアウートダンジョン……ここから距離で言うと……私達が走って行って三日くらいかしら」
「カテエラノ街でアウトダンジョン……確カ、アウートダンジョンハ、獣魔獣ガ多イ地域ネ」
「災害級の魔獣が何度も目撃されて、その度に冒険者たちが戦っている、言わばアトラクション」
「アトラクション……なんだ」
思わず、突っ込んでしまったけれど、次の目的地はどうやら決まったようだわ。
「ならば、ルドルフの言葉を信じようではないか」
「ソウネ。ルドルフデハ、弱スギルネ……。今回ノ、婚活ハ、失敗ネ」
「よ、良かった……。すみませんハロルドさん……。貴方に託します!」
天に祈るように両手を組み、それからポケットから宝石を取り出すと――。
「では、さらばです! 私は暫く静養の為にダンジョンを放棄します! 実は複雑骨折してまして相当痛いです!」
「あら、だったら宝箱置いていきなさい。ダンジョンボス撃破の為の証拠が欲しいわ」
「宝でしたらアチラに。では失礼!」
余程痛かったんだろうな……。
脂汗をダラダラ流しながら、彼は最後まで礼儀だしく去っていった。
宝箱を開けると――。
「あ、これって」
「アイテムボックス……ネ」
「お、しかもこれは……時間経過が止まるアイテムボックスだぞ」
「「「おおおおおおおお!!」」
意外と良いもの持ってたんですね!
レア中のレアじゃないですか!
早速私とキャシーとナンシーさんはそれらを腰ベルトに装着。
これで、これで少しはミルクちゃんに頼らずなんとか出来そう!
「もう……。時間経過が止まるアイテムボックスなんて。確かにレアだけど、アタシががいれば不用品よ?」
「でも、何かと役に立つかも知れませんし」
「説明文を読んでみよう。なになに? このアイテムボックスは……〝生き物を仕舞える〟と。ほう?」
「生き物まで仕舞っちゃえるんですね」
「捕まえた魔族を入れておく事も可能かもしれん」
「「「魔族用アイテムボックス……」」」
「はははは! 良いものを手に入れたな! これで結婚相手になりそうな魔族を仕舞っちゃえるぞ!」
意外と、凶悪なアイテムが手に入ったかも知れない……。
今後、どうなってしまうのか想像できないけど……。
「イサミンは、アタシを仕舞っちゃう?♡」
「隣りにいてほしいです♡」
「じゃあ、隣りにいちゃう♡」
こうして手を繋いだ私とミルクちゃん。
そして今後のアイテムボックス……いや、〝別名:婚活相手を捕獲保存ボックス〟を手に入れたキャシーとナンシーは、一路ダンジョンコアを壊さず、外に出たのだった。
しかし、このチョリーッスの街には、私達と因縁のある問題児が数名いることに――まだ、気付いていなかった……。




