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第32話 軽くなった心
中には、いつもと同じコーヒー豆と、
小さなメッセージカードが入っていた。
かすかに香る焙煎のにおいが、
これまで届いた箱たちのことを、一気によみがえらせる。
『一生コーヒー送る約束が果たせなくなったけど、
新しい場所でも、がんばって』
その一文を見た瞬間、
わたしはふと気づいた。
何かのしがらみから解放されて、
心が軽くなった、わたしが居ることに。
段ボールの中をのぞき込みながら、
胸の奥に巻きついていた細い糸が、
ひとつずつほどけていくような感覚がした。
「ああ、ほんとうに終わったんだな」
声にならないつぶやきが、
静かな部屋の空気に、そっと溶けていく。
もう、来月からこのコーヒーが届くことはない。
カレンダーの次の月をめくる自分を、
少しだけ遠くから見ているような気がした。
わたしはスマホを手に取って、
あなたにメッセージを送る。




