第五章 らいむらいと13
「わしもな、結局は戦いに戦い抜いてきたがのう、最後にどうしても勝てなかったものが、一つだけある」
明日歩は、老人をじっと見詰め返す。
「孤独じゃよ。消しても消しても込み上げてくる闇は、どんな栄光があってもどんな大金があっても消せぬかった」
明日歩は、肩を震わせて泣き始める。
老人はそんな明日歩の肩を抱く。
「おまえさんの父親は大したものだ。それをすぐに見破り、おまえ達家族のためにだけ生きることを選んだ」
台本にはない台詞だ。
「わしも、わしもな、もっと早く気が付くべきだった。あの光の向こうには得体が知れない厄介なものが待っていたかも知れんが、それに飛び込む勇気を持つことが大切だと」
死んだはずの恋人の美春が現れ、光を高らかに持ち上げる。
「これは私たちの希望の光です。憎しみも悲しみも喜びもすべてがこの光が教えてくれる。生きろと輝く」
老人はふっと笑みを漏らすと、明日歩の背中を押した。
「この光はな、おまえの父親がわしに託したものだ。正義に満ち溢れ、友を思い愛に生きた勇者の光に濁りはない」
驚く明日歩に老人は頷いてみせる。
「すまなかった」
老人はそう言い残し、その場に朽ち果てる。
「この光は私の心臓です。この光を手にした者は戦い続けなければなりません……」
木綿子の声だ。姿はない。
老人の懐から光が天に向かって伸びていく。
「光の向こうには何が見える? 喜び? 悲しみ? 憎しみ? それとも……。すべてに打ち勝った時、ヒーローは誕生する。難しいことじゃない。誰かを思いやる心。感謝する気持ち。それが力になり光を放つ。その先にはおまえにしか出せない答えがある。戦うことを恐れるな。さぁ、あの光の彼方へ……、行くがいい」
歩の声が響き渡る。
「死を予期していたのかな?」
テープを流す役目を果たした中島が呟くと、野村が肩を竦めてみせる。
ふらりとやって来た歩が、この舞台の構想を伝え、これをふざけて録音した。目を輝かせ、奈緒の驚く顔を想像しながら嬉しそうに、ああでもないこうでもないと言葉を選ぶ歩の姿を二人は思い出し、目を潤ませた。




