第五章 らいむらいと12
恐怖を感じた明日歩は光を布で何重にも包み、故郷へ逃げ帰り、旅の間中頭から離れなかった美春を探し回る。
川辺に座っている美春を見つけた明日歩は、愕然と立ち尽くす。
美春が楽しそうに、かつての友人であった雅哉と話していたのだ。
鈍い光が、明日歩の心に差し込む。
「裏切り者。僕だけを愛していると言ったじゃないか」
「落ち着いて、私は今でもあなただけを愛しているわ」
「嘘をつけ」
「お前は狂っている」
雅哉は明日歩の手で鋭く光るものを見つけ、逃げ出して行く。
「お願い。私の話を……」
「嫌だ。お前は俺のものだ」
鈍い光に操られれるまま美春の言葉を聞かず、すべて信じられなくなってしまった明日歩は、友人に盗られてしまうくらいならと、恋人の美春を殺めてしまう。
――訪れる絶望の闇。
明日歩のすべてを覆い尽くし、がっくりと膝を落とす。
老人がぼんやりとした光に包まれ、後方に現れる。
「おまえが望みとは、それか?」
老人が問う。
「違う」
「おまえは何がしたい?」
明日歩は首を振り続ける。
廃人となった明日歩が、うな垂れる。
その傍に老人がゆっくりと歩み寄って行く。
「わしの果たせなかったものは、何だったか見つけてくれたか?」
明日歩は、虚ろな目で老人を見上げる。
「わしもいろいろして来たがのう」
そして、明日歩の血に汚れた手を見て、目を細める。
「殺してしまいたいほどに、わしは誰かを愛したことなどなかった」
「殺して……、殺していいものなんかない」
泣き崩れる明日歩。
老人は目を見開く。
「愛は、愛はそんなに醜いものじゃない。父さんが護りたかったのは、大切な人の笑顔で束縛じゃなかった」
「だが、手放したくはなかったから、おまえは自らの手で殺めてしまったんだろう?」
「俺が、俺が馬鹿だったんだ。彼女が望む幸せなら……、祝うべきだった」
頭を抱え込む明日歩。
老人は遠くをじっと見ている。




