第六章 光の向こう側1
舞台は、大好評のうちに幕を下ろしていた。
「中島さん、これからあの子はどうなるのかしら?」
奈緒は墓の前で手を合わせ終わると、中島に尋ねる。
「たぶん、明日歩君は忙しくなると思います」
「そうですか」
奈緒が静かに頷く。
中島が予想した通り、明日歩はすぐに脚光を浴びるようになっていった。
舞台が終われば、普通の暮らしに戻れるとばかり思っていた明日歩である。
取材を一本、悪いけど受けてくれが、今は次から次へと仕事を入れられ、息つく暇もないくらいの忙しさである。
あずさとは携帯が繋がらないし、中島は話しを摂り合ってはくれないわで、明日歩のイライラは募るばかりだった。
幕を下ろしてから3か月が過ぎようとしていた。
アルバイトは、舞台稽古に集中するため、とっくに辞めさせられてしまっていた。あずさに会うどころか、まともに学校すら行けていない状態の明日歩は、我慢の限界だった。
「中島さん、話違うじゃないですか? らいむらいとだけって約束でしたよね? 何ですか、CMとか連ドラとか、全然意味が分かんないんですけど。学校もいけてないし」
後部座席でむっつりという明日歩をバックミラー越しに見た中島が、目尻に皺を寄せ言い繋ぐ。
「機嫌悪いな。仕事、面白くないのか? やりたくてもやれない奴の方が多いんだ、文句を言わず頑張れよ」
「面白いとかそういうことじゃなくって、オレ、一応学生なんっすよ。学校行かないとでしょ」
「そんな無理して学校に行かなくても、明日歩、ほとんど単位取れているみたいだし、卒論さえ書けばって話だったんじゃなかったっけ」
「誰情報ですか」
「え? 奈緒さん情報」
「何それ、信じられない」
「そうカッカしないで、あと一本、取材で今日は終わりだから、そしたら好きなだけ勉学に励んでいいから」
怒り過ぎて最早何も言い返す気が起きない明日歩は、そのまま無視をして目を瞑ってしまう。
舞台に出てみようかなという明日歩に、あずさは満面の笑みで、応援するねと言ってくれていた。
だから舞台初日と千秋楽の両日、席を用意した。しかし、あずさが見に来てくれたのは初日だけだった。
何度電話をしてもその日を境に、繋がらなくなってしまったのである。
そして、もう一つの明日歩の悩みの種が美春だった。
「ヤッホー、明日歩。これから暇だよね。カラオケ行こう」
取材が済むなり、美晴が腕にぶら下がって来る。
「離れて。行かないし」
「ええ冷たい」
「冷たいって」
「美春ちゃん、明日歩は論文書くのに忙しいから遊びの誘いはまたにしてね」
「ええつまんない、少しくらいいいじゃん」
腕を振り払われた美春は、頬をふくらますがすぐに機嫌を直し再び腕へぶら下がる。
「じゃあ美春も一緒に行く。勉強を教えてよ」
「だから」
ずっとこんな調子で、ついに恋人じゃないかなどという如何わしい週刊誌に報じられてしまったのだ。
それでも臆面にもしない美春に、明日歩はほとほと困らされてしまっていた。




