第五章 らいむらいと10
「これって」
「いい線行っていたのよ。投票もぶっちぎりの一位だったって聞いているわ」
美春が顔をくっつけるようにして説明をされ、明日歩はそっと躰を反らす。
「このままデビューさせようって話も出ていたらしいんだけどね、中島常務がストップをかけたのよ」
驚きだった。
「何も聞かされていないんだ?」
美晴に同情の目を向けられ、明日歩は妙に惨めな気持ちになる。
「前からあなたのお父さんと約束してあったんですって、明日歩にはきちんと自分の意思で動けるようになるまで、大人が口を出さないって」
知らないことだらけで、まさか陰でそんな計画が進められていたかと思うと、明日歩はだんだん腹が立ってきていた。
「それだけじゃないのよ。これを見て」
また別の雑誌を差し出され、明日歩は唖然とする。
「これは不可抗力。カメラマンが気に入って掲載してしまったらしいの。ちなみに隣に居るのは私の姉の瑠夏」
タキシードを着る明日歩の隣で、真っ赤なドレスを着た女性が肩に手を掛けている奴だった。
「これなら横顔ショットだし、まぁ大袈裟にはならないだろうってことで穏便に済ましたって言ってたけど、アスター社はこれのおかげで何とか生き残れたって話だったわね」
明日歩は目が点になる。
どれもこれも明日歩の知らないことだらけだった。
口紅の宣伝用ポスターに使われたという説明を聞いたあたりから、頭がくらくらしてきた。
「まぁ、お互いもう20歳は越えているんだし、自分の行動には責任を持たなきゃね」
意味深に笑う美春に、どういう意味と力なく明日歩は訊いた。
「意味なんかないわ。このプロジェクトは始まってしまっているの。パパは、歩には逃げられたけど、あなたはしっかり捕まえておくって張り切っていたし、常務も今度こそは完封してもらうって意気込んでいたしね。それに」
いったん言葉を切った美春は、明日歩をじっと見つめる。
「あなたのお父さんの遺志だもの」
にこっと微笑まれた時には、明日歩は観念していた。
美春に稽古日程なる物を持たされた明日歩が、立派過ぎるビルを出たのは、日がだいぶ傾いてからだった。




