第五章 らいむらいと9
「今度の公演は楽しみよね。この続きになるんですもの。感動のヒロインとヒーローの行く末よ。絶対にハッピーエンドにしてねって、パパにお願いしてあるのよ」
置いて行かれっ放しの明日歩である。
「早くやりたーい」
思っていることを喋り切って満足したらしく、彼女は両手を上げ、叫びながら明日歩を見てくる。
「ね」
微笑まれ、明日歩は引き攣り笑顔で頷く。
帰りたい一心だった。
「今日のところは」
何とかねじ込んだ明日歩が腰を浮かせた瞬間、彼女が何かを思い出したように自分の口を、手で塞ぐ。
「あ、ごめんなさい。自己紹介しするの忘れてた。私、今度あなたと共演することになった野村美春です。お互い初舞台だから頑張ろうね」
小首を傾げて、美春は手を伸ばして来た。
「野村って……」
「ここの社長の娘」
「娘」
「ああ、何だ親の七光りかって、今思ったでしょ。失礼ね。そんなの全然あるから。利用できるものは何でも利用する。ハングリー精神が必要なのよこの世界は」
「ハングリー」
「ああバカにしているんでしょう。あなただって突き詰めて言えば、親の七光りみたいなもんじゃない」
「オレ、そのことでここへ来たんだけど、野村さんとか間宮さんはいないの?」
美春の表情がみるみる変わり、ぷーと不貞腐れるようにソファーにもたれ掛り、みーんないないよ、と口を尖らせる。
「パパは打ち合わせがあるって出かけているし、ママはお姉ちゃんとテレビ局に行っているわ。間宮さんはどこかで撮影しているんじゃない。私が相手だとご不満?」
慌てた明日歩は、そういうわけじゃないけどと苦笑いで言うと、躰を起き上がらせた美春が、ニッと笑ってみせる。
「まぁいいわ。これから長い付き合いになるのに、つまらないケチをつけたくないわ。許してあげる。だけど今回だけよ」
この展開の速さにはついていけないなと、知美以上に手強さを感じた明日歩が、困ったなぁと呟く。
さすがに、その言葉を聞いた美春も、どうかしたのと声のトーンを落として訊いた。
「オレ断りに来たんだ。芝居なんかしたことがないし、向いてないから」
「……向いているかどうかなんてやってみないと分からないじゃない? それに甘いわよ。あのパパ達の張り切り方を見ると、絶対にあなたを舞台に立たせるわね」
そう断言した美春は近くにあった雑誌を開いて見せる。
よく見かけるファッション雑誌だ。
せっかくだから、ラフな感じのも何枚か撮ろうよと言ったのは、由紀子だった。悪乗りして、やんちゃ系にしてみるかと帽子をかぶせてピアスを嵌めさせたのは、迎えに出て来た男性だった。あっそうだーと手を叩いて、スタートラインに立った時の気持ちになって、こっちを見てと、硬い表情をしていた明日歩に声を掛けたのは、島根だった。
そしてその写真が見事に乗せられている。
「ええ? これって紳士服売り場の広告じゃなかったの?」
「騙されたわね。きっとみんなぐるね」
明日歩の顔は青ざめた。




