第五章 らいむらいと7
「私は良いと思うけどな。こんなチャンスは滅多にないことだし。面白そうじゃない?」
あずさにあっさり言われた明日歩は、ムッとしながら口を尖らせる。
「ただでさえ忙しいのに、これ以上仕事を増やされたら堪らない。決めた。こればっかりは親父の頼みであろうが、母さんの願いであろうが、オレは断る。断ってみせる」
――その翌日、明日歩は5階建てのオフィスビルを見上げていた。
深呼吸をして、勢い付けて自動ドアの前に立つ。
その様子を不審に思った警備員がすぐにやって来た。
それだけで舞い上がった明日歩は、社長に会いに来たと言うと目を逸らしてしまう。
怪訝な顔を見せる警備員が、これ見よがしにどこかへ連絡を取るのを見て、明日歩はすっかり逃げ腰になってしまっていた。
「出直します」
「お会いになるそうです。そちらのエレベーターで3階までお越しください」
え?
流石に一人でっていうわけにはいかなかったらしく、エレベーターには警備員も同乗していた。
③階のボタンを押した警備員が、チラッと顔を見られ、明日歩は愛想笑いを浮かべる。
滅多に味わえない緊張感である。
ふと明日歩は自分の名前を名乗っていないことに気が付き、警備員の顔を改めて見てしまっていた。
対応が陳腐すぎるのだ。
実は不審者扱いで、警察が来るまでの間、どこかへ閉じ込められるとか……。
想像が想像を呼んでしまい、明日歩は昔のトラウマが蘇ってしまっていた。
奮起して何かを成し遂げようとすると、必ずと言って、思いがけない方向へ話が展開してしまう。今回もその流れに似ていた。
背中に冷たいものが流れるのを感じつつ、明日歩の目の前の扉が開く。




