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私は悪役令嬢じゃないし悪役令嬢は私じゃない


 雰囲気的に地下牢にでも閉じ込められるのかと思ったが連れて行かれたのは自室だった。


そして中には護衛って言ってお父様がつけてくれた騎士たちが二人いつでも剣を抜けるよう構えて見張りをしていた。


「お父様とお母様に会いたい」


見張りの騎士たちに伝えても言葉は返ってこない。


私は首に飾られているネックレスをいじりながら考える。


(本物のシャーロットじゃなきゃそんなにだめなの?小説でのお父様とお母様はシャーロットのせいで処刑されちゃうんだよ。別に本物じゃなくたって…)


また涙が出てきた。悲しいのかやっと手に入れた温かい物がなくなって虚しいのかどっちなのだろう。多分どっちもかもしれない。


(やっと手に入れたと思ったのに自分じゃ駄目で結局愛されてたのはシャーロットで。)


(そういえばエドクレスって結構強い力持ってた気がする。それなら護衛達を倒してお父様とお母様に会いに行けるかな。でもそんなことしたらもっと嫌われちゃうかも。こんなでもまだお父様とお母様に嫌われたくないんだな…三日くらいしか一緒にいないのになんでだろ)


(今思えば私って最初は私とシャーロットを別の人物として考えてたけど途中から私=シャーロットみたいに勝手に考えてた。お父様とお母様のことだって私のお父様とお母様じゃないのに…)


私の頭の中で考え事がぐるぐると回っていくけど結局わからない。


何を考えていても結論はお父様とお母様に会いたいになる。お父様とお母様に無条件の愛情を向けられてまた愛してほしいと思う。これを情が湧いたって言うのかもしれない。少し前の私は情なんて人に向けたことなかった。


 突然自室の扉が開いた。そこには会いたいと考えていたお父様とお母様が立っている。


お父様は少し悲しそうな顔をしてるように見えた。


そうしたらいきなりお父様の少し後ろに立っていたお母様がお父様を押しのけて部屋に入ってきた。と思ったら椅子に座っている私の足元に跪く。


「ねえ!私の、私たちの娘を返して!返してちょうだい!シャーロットはどこに行ったの!返して!返して!返して…!」


そのままお母様は、公爵夫人は泣き崩れてしまった。


 しばらく私の足元で泣いている公爵夫人を見つめていたが扉の入口にいるお父様の、公爵の顔を見てみた。


公爵は公爵夫人のように泣き崩れることはないが悲しみや悔しさを堪えたような顔して私を見ていた。


 私は公爵に問う。


「いつから気づいていたんですか?」


するとしばしの沈黙の後、公爵は答える。


「最初の違和感は記憶喪失になったと聞いた時だ。記憶喪失の中には常識を忘れてしまうものもあるというが君は常識などは答えることができた。にも関わらずテーブルマナーはおぼつかない、そこに違和感を持った。」


「次に感じた違和感は食事中の会話で思い出話をすると時々覚えているかのような反応をしたが思い出話に対して間違ったことを言っていたりしていた。今思うとあれは多少の覚えてるふりなのだろう?」


公爵の問いに静かに頷く。


「後は…この国には高位貴族にしか伝えられていない伝承があったんだ。それは稀に異界の魂がこの世界の人間の体を乗っ取るという伝承だよ。」


「ロッテは王太子と婚約していたから国王陛下に記憶喪失の話をしにいったんだよ。そしたら異界の魂に乗っ取られたんじゃないかと陛下に言われてね、必死に否定したんだが精霊で確認してみようとなったんだ。精霊は魂と契約する存在。魂が変われば召喚される精霊も変わるからね。でも君は精霊が呼び出せないと言うから宮廷で検査することになったんだ。」


それを聞いて私は少し切なくなった。


(そんなに最初から疑われていたんだ。それでも自分たちの娘が乗っ取られていなくなったなんて信じたくなくて色々試してた。疑いの籠もったしかもシャーロットへ向けられてた愛。最初から私は愛されてなんかいなかった…)


公爵は話を続ける。


「精霊は違った。これで魂が違うということが証明されてしまったけど私は信じたくなかった。陛下の制止を振り切って君を家に連れて帰った。私達はずっと精霊と伝承について調べたよ。何かの間違いじゃないかとか、伝承の通りならロッテは何処なんだとか。君に護衛という名の監視をつけてたけど何も分からなくてやっぱり本物のロッテなんじゃないかって証拠もないのに思い込むことにして夕食を迎えたんだ。」


そこで公爵は顔を俯けた。ポタリと何かが溢れるのが見えてしまった。公爵は顔を俯けたまま話す。


「夕食の途中君がネックレスの話をした。あれば母上の、ロッテのお祖母様の形見の品だった。生前、母上はロッテの瞳にそっくりだとそのネックレスをよく着けていた。そして母上はよく冗談交じりにもし自分が死んだらそのネックレスをロッテにあげるなんて話していたがロッテはいつも派手なアクセサリーを好んでいたから宝石一つしかついてないネックレスは絶対に嫌と笑ってたんだ。」


「母上が亡くなった時兄弟もいないし遺書はなかったから遺品は公爵家に相続されてね、何か欲しいものはあるかい?と尋ねたらロッテは迷わずあのネックレスだけを選んだんだ。しかも趣味じゃないからなんて言って茶会にもつけず、ずっと鍵付きの引き出しにしまってた。でもそれをつけて喜んでる姿を見て君はロッテじゃないって素直に受け入れてしまったよ。」


 もう魂は別物という証拠はあった上に、思い出の品のネックレスを記憶をなくしたからとはいえ当たり前のようにつけてればシャーロットではないって言っているようなものかもしれない。


震えた声で公爵は私に頼み込む。


「ロッテを、ロッテを返してくれ…ロッテは私の娘なんだ…!」


私の足元で泣き続ける公爵夫人と私に泣きながら震える声で頼み込む公爵。


(私はこの温かいものを守るなんて言って、でも私はこの人たちにとって大事な娘の体を乗っ取った悪者で…でも私はただ愛されたかっただけでこんなことをしたかったわけじゃ…)


(そもそも私の意思でこの体に入ったわけじゃないし私は別に何も、)


(本当に?いま公爵夫人が泣き崩れてるのもいま公爵が妙にやつれて見えるのも本当に私は関係ない?)


(公爵夫人と公爵が泣いてるのは全部私がシャーロットを奪ったから。シャーロットはこんなに愛されてるのに…)


(やっぱり私は誰にも何処に行っても、)


「気づいたらシャーロットの体に入ってて私もなんでかわかんないから返してとか言われてもわかんない、です。その、ごめんなさい。ごめんなさい…」


どうしたらいいかわからなくて、でも涙が流れる。そんな様を見た公爵と公爵夫人は私にも何も分からないということを悟ったのだろう。


公爵は膝から崩れ落ち、公爵夫人は涙を流し続けていた。


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