精霊は異世界転生の基本
しばらく自室に何があるか見て回っていると一つ鍵のかかった引き出しを見つけた。鍵のかかったものというのはやはり好奇心が唆られるものである。
でも肝心の鍵が見つからないと開けることができない部屋中を探し回ってオルゴールを開くと中に鍵が入っていた。
(多分これだよね!開けてみよう。)
少しドキドキする胸を落ち着かせながら引き出しについている鍵穴に鍵を差し込む。
カチャっと鍵が開く音がしたので中に何が入っているのか見てみるとそこにはネックレスが一つ置いてあった。ネックレスについている宝石は小さいけれどまるでシャーロットの瞳のように赤く美しい輝きを持っており一目で気に入ってしまった。
(アクセサリーボックスはあったのにこれだけここに入ってるってことはお気に入りだったのかな?お父様とお母様にプレゼントされたのかも!)
そう想像するとますます嬉しくなって早速身につけ姿見の前でくるくると何度も回って見てしまった。
少しするとメイドが入浴の手伝いに来たのでまたそのネックレスは大切仕舞うことにした。
(貴族の入浴って何人ものメイドさんに体洗ってもらうのか…これは慣れないかもな…)
そんなことを考えながら入浴後のケアをメイドのカロンに済ましてもらいベットで眠りについた。
■
朝目が覚めたもののまだ重い瞼を擦っていると昨日と同じようにノックが聞こえる。
「どうぞ。」
昨日の慌てての返事とは打って変わって落ち着いて返答するとまたカロンが部屋に来てドレスの提案をする。
「おはようございます、お嬢様。本日は庭園の春の訪れを感じる白木蓮の花が咲きました。ドレスはその花をイメージさせる様な白くふんわりとしたものをおすすめさせていただきます。それと髪には小さな花を散りばめる雰囲気はいかがでしょうか?」
やはり昨日と同じ様にカロンは植物や季節とドレスを合わせながら訪ねてくるけどあまり植物に詳しくない私には全くわからない。とりあえず適当に了承しておこうと思ったが、ふと昨日見つけた赤い宝石のネックレスを思い出した。どうせならそれを着けたいと考えてカロンに話す。
「カロン、今日は引き出しに入っていた青いネックレスをつけたいからそれに合うように髪飾りとかはいらないわ。ゴテゴテになっちゃうかもだし。」
「…そうですか分かりました。では、その赤いネックレスに合うようにコーディネートさせていただきますね」
「ありがとう!」
よくある貴族令嬢みたいな上品な喋り方をしてみたものの少し照れくさく感じたが、Theお嬢様って感じがして嬉しくなり少しノリノリになってきた。
着替えた後は朝食でカロンに食堂まで連れられる。
しかし昨日いた両親の姿が見えずテーブルには一人分の朝食だけが広がっていた。そこで思わずカロンに聞いてみる。
「ねえカロン。お父様とお母様は朝食にはいらっしゃらないの?」
「お二人は早朝から国王陛下に謁見なさっております。」
「そうなのね、一緒に朝食を食べられないのは残念だわ」
(お父様とお母様にこのネックレス見て欲しかったのにな。そしたら褒めてくれたかもしれないのに…それにしても国王か…確か国王ってお父様には負けるかもだけどイケオジだったはず!会ってみたいな〜)
小説の世界での主要人物に色々と思いを馳せてながら朝食を食べ終えた。朝食食べ終わったら特にやることもなく何をしたいか考えてみる。
(よくあるのは刺繍とかだけど、私刺繍得意じゃないんだよね。あとは…外に出てみたいかも!小説の中の建物とか街とか見たいし買い物してみたい!)
ということでカロンに外に出かけたい旨を伝えると、
「まだ外出はお控えくださいお嬢様。記憶喪失の状態ですから安静にしていませんと。」
「そうね。わかったわ」
まあ記憶喪失って言い訳をしてしまったからには仕方がない。外に出かけるのは我慢しないと。
その後庭園を散歩したり図書室で本を読みあさったりものすごく広い屋敷だから割と暇に困ることはなかった。
そしてお父様とお母様が帰ってきたのは夜遅くで夜ご飯でさえ共にご飯を食べることはできなかった。
それに寂しさは覚えたけれど、帰ってきたらお父様とお母様は私のことを愛してくれる、無償の愛を向けてくれる、温かい家庭に包まれる自分の姿を想像すればそれくらいの寂しさどうってことなかった。
■
そして翌朝今度こそはお父様とお母様にネックレスを見て褒めてもらおうと張り切って朝食のため食堂へ向かった。
食堂の扉が開くとお父様とお母様が笑顔で私を迎えてくれる。
「ロッテ、おはよう。体の調子はどうだい?」
「全く問題ありませんわ、お父様!」
「ロッテ、この料理はロッテが好きそうね私のも分けてあげるわ」
「ありがとうございます!お母様!」
お父様とお母様から愛しさを込めて話しかけられるのがとても心地いい。これが普通の温かい家庭というものなんだとしっかり噛み締めながら過ごす。
(私のことを無条件で愛してくれる存在はこんなに良いものなんだ。)
また涙が出そうになるのを必死に堪えた。
私がネックレスの話題を振ろうとするとお父様が先に別の話をしだした。
「ロッテ、王宮に行かないかい?」
「王宮ですか?」
「ああ、ロッテが記憶を失ったことでロッテの契約していた精霊に異常が起きたかもしれない。だからそれの検査だよ。」
『精霊』、この小説の世界には精霊が存在する。貴族は十歳になる際に王宮で魂に合った精霊と契約することになる。そんな中ヒロインはどの精霊とも契約できなかったため悪役令嬢の私からいじめられるが小説終盤で伝説級の精霊と契約することになる。そして悪役令嬢である私の精霊は確か風の上位精霊だったはず。
精霊は魂との相性が重要視されるものだ。記憶が失われて魂に何らかの影響を及ぼしていたら精霊にも異常が出るのではとお父様とお母様は心配してくれてたのだ。多分そのために昨日国王陛下と夜遅くまで謁見してくれてたんだろう。
(お父様とお母様は本当に優しいな…)
私は心にじんわりとした温かさが広がっていくのを感じていた。
「私王宮に行きます!そして検査受けます!」
笑顔で私が答えるとお父様はわざわざ席を立ってまで私の頭を撫でてくれた。




