2-3
朝の空気を切り裂くようにメイジーはバンッと札をベンのデスクに叩きつけた。
「……で?」
メイジーの剣幕に、ベンは頬杖をついたまま顔を上げた。
「リベラル州とは聞いてましたけど初日ですよ!? ERO捜査官を狙った嫌がらせです! 華僑系移民街の捜査を上申します!」
ベンは札をつまみ上げると、光に透かして見せ……鼻で笑って、霊符をテーブルに置いた。
「霊に好かれる体質だな」
「は?」
「EROは霊だろうと移民だろうと嫌われるのが普通なんだが、こいつがなきゃ、今朝一の仕事はお前と新しい友達を昨日の大使館に引き渡すことだったかもな」
机の札を軽くつつくと、ベンは大きくあくびをした。
「どういうことですか?」
「話してたのは広東語じゃなかったんだろ? なら、このあたりの華僑じゃない。それとこの札、嫌がらせの類じゃなく道教絡みの強力な魔除けだ」
「たぶんな」と既に本日何杯目かのコーヒーを注ぐため、ベンは机から立ち上がった。
コーヒーメーカーにすでにコーヒーの染みついたカップを置き、無造作に注ぐ。
香りというより苦い湯気を漂わせるそれは、彼の朝の儀式のようなものだ。
「ええ、普通語(標準中国語)じゃなかったような気がして……」
「閩南語じゃないか? いってもこの街に台湾や南の華僑コミュニティはないが」
「台湾? だったら台湾華語じゃなくてですか?」
「さあな。ただ、最近台湾方面の名前を見たんだよ。タイミングが良すぎる気は……クソ」
眠たそうな顔で歩くベンについて回りながら、メイジーは不満そうに頬を膨らませた。
ゆるく巻かれた金髪に、ぱっちりしたブルーの瞳。
整った顔立ちは、まるでハリウッド女優のように絵になる表情だったが、ベンは彼女の頭越しに嫌そうな表情を浮かべて課長室を見つめた。
メイジーがその視線を追うと……課長が透明な扉に手をついて手招きをしていた。
「呼び出しだ」
「何かしたんですか?」
「何もしてないからだろ」
ため息をついてコーヒーと名のついた苦いだけの豆のしぼり汁を手に課長室に向かう。
「何か問題ですか?」
ベンの仏頂面に苦笑を浮かべ、内側から課長が応えるように手で中を指し示す。
そこには、年端もいかないアジア系の少女が立っていた。
年齢は……おそらく高校生くらい。
腰まで届く長い黒髪をツインテールに結い、どこか懐かしさと異質さを同時に漂わせる雰囲気。整った顔立ちは、少女というより精巧かつ美しい人形に近い印象だった。
「……お孫さんですか?」
思わず口を突いたベンの言葉に、課長が苦々しく眉をひそめる。
「タカハシ。正直なのは君の美点だが……せめて娘と言えないか?」
そして……
「あっ!! この子っ!」
ベンに続いて入室したメイジーが、自身の握っていた札ごと弁護士が矛盾点を指摘するように少女を指さした。
「好、ロックウッド捜査官」
透き通るような声で、少女が穏やかに口を開いた。




